第19期:特訓?
今期の一言:之を知る者は、之を好む者に如かず。
之を好む者は、之を楽しむ者に如かず
―――孔子
竜王カズミは、多忙ながらも国の細かいところまで気を配っていた。
それは道路整備やインフラなどの内政事業から、軍の編成や訓練などの軍務まで、
未来の世界から持ち越してきたアイディアを駆使して改善に努めてきた。特に新たな紙の発明とそれに伴う印刷技術の向上は、アルムテンだけではなく属国にも多大な恩恵を与え、竜族の影響力を大幅に向上することが出来た。アルムテン再開発プランで氷竜族長ウルチに提案した画期的な区画割により、ごちゃごちゃだった城下町が見た目美しい街並みへと変貌、増加する移民に対する居住スペース確保もスムーズに進んでいった。
カズミの政治的手腕にアルムテンの住民たちは歓喜していたが、その裏ではカズミの無知からくる失敗も数多く存在したことは知らずにいた。
今回はその失敗例を見ていくことにする。
「お呼びで御座いますか竜王様。」
「やあウルチ、待ってたよ。実はちょっと頼みたい…というか教えてほしいことがあってね。」
時期は、カズミがミラーフェンにシズナと共にピクニックに行く数日前の事だ。
「こーゆーのを作れる職人は、城下町にいるかな?」
「ええっと…拝見させていただきます。」
ウルチがカズミから手渡された紙には、いくつかの絵が描いてあった。それは「蹴っても壊れないくらい頑丈」と注釈がついた球状の物と、半分にしたテントのような形に覆った網だ。
「蹴っても壊れないくらい頑丈―――な『ボール』ですか。そうなりますと…皮製か、または大型動物の内臓を用いるか…。そしてもう一方は何かを捕えるための網でしょうか?」
「おっと、この世界にはボールは既に存在するのか。」
どうやらカズミは若干異世界事情を甞めていたようだが、ボールならこの世界でもかなり古くから使われており、特に目新しいものでもなんでもなかったりする。
「じゃあ……サッカーって知ってる?」
「『サッカー』ですか?いえ、初めて耳にします。」
「それじゃ、このボールを蹴りあう遊びは?」
「あるとは思いますが特に名前はなかったと思います。」
「ふむ…」
また、聞いた限りではボールを蹴って遊ぶという発想はあるが、
それを取り巻くルールが厳密に考慮されてるわけではないようだ。
「なるほど、ある程度知ってるなら話は早い。さっそくこれを作ってもらおうか。」
「お任せください竜王様、革職人に命じて即急に作らせます。」
「ありがとう。それと、せっかくだから君にはもう少し付き合ってもらいたいんだけどいいかな?」
この後カズミはウルチとある話題で、かなり長い時間話し合ったという。
…
それから数日後、カズミはシズナと共にピクニックのためアルムテンを出発した。
その日の午前中…アルムテンの訓練場の一角に何人かの族長を含む、
大勢の若い竜たちが種族問わず集合していた。
「全員集まったな。これから俺が竜王様から与えられた訓練課題について説明する。特にレーダー族長はよーく聞いておけ、後で知らなかったとは言わせないからな。」
「へーへー。さっさとはじめろよウ○チ。」
「貴様…そこを伏字にするなと何度言えば……。まあいい、これから集まってもらった諸君には『サッカー』をしてもらう。」
『サッカー?』
聞いたことのない単語が飛び出して、竜たちはお互いに顔を見合わせる。
「竜王様は、諸君ら若年竜の暴走が先日の悲劇を生み出したと嘆いていた。そしてどうすれば諸君が自制心を持って戦闘に臨めるのかと思案していた。そこで!竜王様は運動を通して諸君らを引き締めようと考えたのだ。」
「で、その答えが『サッカー』ですの?具体的には何をなさるのでしょう?見たところウルチ様が持っているのは遊戯用のボールではありませんか。」
まず疑問を呈したのは火竜族長のサーヤだ。
火竜族は幼少のころから野外で遊ぶことが当たり前なので、ボール遊びなどは日常的にやっていた思い出があるのだろう。なので火竜である彼女にとってボールで訓練するというのは、違和感があることなのだろう。
「ひょっとして訓練ってのはそのボールで遊べばいいのか!
そいつはいい!遊びながら鍛えられるなんて最高だぜ!」
「いやーレーダー、さすがにそれはないんじゃないかな?」
ここで茶化すレーダー族長と、たしなめる同僚の木竜。
しかし帰ってきた答えは………
「そのまさかだ。諸君にはこのボールを蹴りあってもらう。」
『なんですと!?』
竜たちは信じられないといった風に口をあんぐりとさせた。毎日荒まじい自主訓練をしているカズミから特別訓練を課せられると聞いた際、彼らは一様に地獄の様な特訓が始まるのではないかと恐怖していた。しかし実際はボールで遊ぶことが訓練と言われたのだから、拍子抜けだ。
「じょ、冗談ではありませんわよね!?それともなにかしら、竜王様から課された特訓があまりにも過酷すぎるから、私たちの身を案じて勝手に貴方が訓練メニューを変えたのでは…!?」
「いいや。俺がそんなことをすると思うのか?竜王様の命令は絶対だ。正直俺もこの特訓にどういった意図があるのかまでは聞いてはいないが、とにかくやれと言われたことはやり遂げるべし!今からルールを説明するからしっかりとおぼえるように!」
そこから約1時間ほど『サッカー』についてのルール説明がウルチからなされた。
覚えることが多いと面倒なので、カズミはあらかじめ大まかなルールを作っておき、細かいところはウルチに任せるとしていた。人数は前世と同じ十一対十一、
ゴールポストはかなり簡略的に作ってある。
「それと重要なことが一つ。サッカーにおいては、術の使用は一人一度までとする!」
「なんですって!?」
「おいおい、術を使っちゃいけないって、詰まらなくないか?」
「つまるつまらないの問題ではない。これはあくまで訓練の一環だから、術に頼り切るのはご法度だと竜王様が仰っていた。それに術の種類によっては、一部の竜族だけ圧倒的に有利というのもあるからな…特に地竜とか。こんなのでも竜王様はあくまで戦争を想定した訓練だと言っていた、先ほど言ったルールは全体に守るように。守らない奴は竜王様の名において罰を与える。」
「ってことは、相手をわざと攻撃しちゃいけないのか?」
「当たり前だ。それが可能だったらサッカーにならないだろう。ルール無視のペナルティーは族長にも容赦なく与えるからそのつもりでいろよ、レーダー。」
「へっ!お前のようなもやし氷竜ごときが俺様に罰とか出来っこねーよ!ザマwwwwww!!」
「なお、ペナルティーは俺が記録し、竜王様に後ほどお見せする。ペナルティーが多い奴はさぞかし竜王様からの心証が悪くなるだろうな……。」
「俺いい子だもん!ルールは守るよ!」
「あなた…分かりやすすぎですわ……」
とりあえずルールを確認した後はチーム分け。
一応族長のサーヤとレーダーのチームで分かれた後に、
ノリで残りのメンバーを決めてゆく。
結果、サーヤのチームは
火竜族長サーヤをはじめ他の火竜3人、風竜2人、木竜1人、地竜2人、雷竜1人。
対するレーダーのチームは
火竜が2人、氷竜が2人、風竜が3人、木竜1人、地竜1人の構成だ。
「いいですこと、本気で行かせていただきますわ!」
「てめーらなんて一発で吹き飛ばしてやんよ!」
「よし。はじめーっ!」
ここでカズミの手違いその1。
先攻後攻によるボールの初期保持のルールを伝え忘れていたのである。よってウルチは試合開始を独自解釈し、ボールを真ん中において先に取った者勝ちとすることにした。現に子供のボール遊びだとそういうルールであることが多いため、それに則ったようである。
試合開始の合図とともにボールに群がる両チーム。
なんとキーパーを除く全員がボールに向かっていったのだ。
「おらっ、そのボールよこせっ!」
「どいたどいた!道を空けろよ!」
「ちょっと!レディを突き飛ばすのは反則ですわよ!」
「ええい、こうなったら僕の術で!」
「……………う~ん。」
審判となって試合を見つめるウルチの心境は複雑だった。訓練とはいえ、やってることは子供の遊びとなんら変わりない。しかもそれを竜族長を含むアルムテンの軍隊に所属している成年竜たちがやっているのだ。見苦しいことこの上ない。
「なにをやっとるのじゃあやつらは…。」
「おや。」
ここで、ウルチのところに仕事を一段落つけたルントウが通りかかった。
「これは長老。本日も立派な御髭で、いくばかも卑下できませんな。」
「お主はもう少し表現を努力せぬか。聞いてて薄ら寒いぞ。」
「がーん、薄ら寒い……」
「それはともかく、あやつらは真昼間から球蹴り遊びか。先日竜王様からあれほどしっかり任務をこなせと言われたというのに、奴らときたら竜王様がいなくなった途端気を緩めおって。こうなればワシ自身から奴らに一つ灸をすえてやらねば…。」
「いえ、これはきちんとした訓練の一環なのですよ。それも竜王様直々にご提案なされた。」
「なんじゃと!?冗談ではなかろうな!!」
「というか長老は何も聞いていなかったのですか?こちらが竜王様から直々に預かった指導書なのですが。」
「見せよ。」
(まあ確かに信じてくれっていう方が無茶かもしれないな…)
ルントウはウルチから指導書をふんだくると、目を皿のようにして一言一句確認しているようだ。確かに筆跡はカズミの物だったし、裏にはわざわざカズミのサインが署名されている。これはカズミ直々の命令であることは間違いなかった。
「うむ、疑ってすまぬな。」
「いえいえ、確認が取れて何よりです。」
「しかし……いくら竜王様の命令とはいえ、なぜこのような遊びまがいの訓練を……」
「それが俺にも竜王様の御考えが完全に理解できているとは言い難いのですが、
恐らくチームプレイと命令の順守を理解させようという魂胆ではないでしょうか?」
「ふむ、そう言われてみればそうかもしれんのう。」
改めてサッカーに熱中する若い竜たちを見る。完全に団子状態になっているとはいえ、お互いに指示を出し合い相手から必死にボールを奪おうとしているところを見ると、遊びを通したチームプレイの訓練と言えなくもない。
「やれやれ、竜王様もたまに突拍子もないことを考え付くが、ワシら老竜にはすぐに理解できるだけの柔らかい考えは持ち合わせておらぬ。ゆえに反対もできぬし、諸手を挙げて賛同もできぬ…歯がゆいものじゃ。」
「長老。竜王様が自信を失いかけるたびに「竜王様の考えのままに」と発破をかけているのは他ならぬ長老様でしょう。今回の訓練も、どのくらい効果があるかわかりませんが、竜王様を信じるしかありませんね。」
「おーい審判!こいつが今手でボールを触ったぞ!」
「うるさいな、転んだ時にボールが手の上を転がっただけでしょ!ノーカンだよノーカン!」
「いいえ、そもそも貴方が足を引っかけたから―――」
ここで、試合中の選手が何やら揉めはじめたようだ。
「どうしよう…話に夢中で全く見てなかった……。ああもう、けんかしない!落ち着いて話し合うように…!」
「ウルチも仕事があるというのに大変じゃな。」
その後も何度も揉めたりなんだりしたが、双方とも無駄に運動能力が高い竜たちのせいで、試合終了までほとんど相手ゴールに迫ることが出来なかった。おかげでキーパーは暇なことこの上ない。
「今日の試合はこれで終わり。明日も同じ時間にやるから忘れないように!」
『はーい。』
とりあえず既定としてサッカーは一日1回90分とすることにした。
「サッカー……たかが遊びだというのに、そこそこ疲れますわね…。」
「そりゃあれだけ全力で走り回っていれば疲れもするでしょう。」
息が上がっているサーヤは、ウルチから水を受け取ると一気に飲み干す。
ここでカズミの手違いその2。
休憩時間を設定していなかったのだ。これは完全に失念していたらしい。おかげで竜たちは休憩時間もなしに90分走りっぱなしだった。いくらスタミナがある竜と言えども、人化状態では走り回っているうちにそのうち息が切れてしまう。
「なかなかやるじゃねーかサーヤ!次こそは負けねーからな!」
「望むところですわ!次こそは点を取って見せてやりますわ!」
「二人の仲がこれ以上悪くならなければいいんだけど。」
…
その後三日にわたってサッカーの試合が行われたが、結局双方とも戦術的進展はなく、ひたすら押し合いへし合いするだけだった。さっそく飽き易い雷竜と風竜が早くもやる気が低下していったが、途中でカズミの身に危機が迫っているという連絡を受けて、サッカーの試合は中断され、アルムテンは厳戒態勢に入った。
試合が再開されたのは、カズミが帰国して
シズナと正式な婚姻関係を結ぶと発表した次の日からだった。
「如何ですか竜王様。」
「うん、これはヒドイな。僕もいくつか言い忘れたことがあったにせよ、遊びの段階から全く進展していないことが残念でならないよ。まあ………ある程度はこうなると予測はしていたけど。」
その日カズミは成果を確認するために、
ウルチとともにやや高いところから試合を見ていた。
「それにウルチ。毎回遠巻きに眺めている君は何か思うところはなかったのかな?」
「私がですか!?いえ……お互いチームワークが出来てきたなとは思いますが…」
と、ここでカズミからウルチに突然鋭い質問が投げつけられた。まさか自分が問い詰められるとは思わなかったウルチは、若干冷や汗をかき始めた。
「君には言ってなかったんだけど、これはなかなか前線に出る機会がない君にも
少しは戦場の雰囲気を感じ取ってもらおうと思ったんだけどな。」
「も、申し訳ございません竜王様!まさか自分のことまでお気にかけていただいていたとは全く気が付きませんでした!」
カズミの訓練を受けているのはサッカー選手たちだけであり、自分は完全に監視役だと思っていたウルチは大いに慌てた。何しろ自分はただ竜たちが反則をしていないか監視しているだけだったので、自分も参加しているという意思を微塵も思っていなかったのだ。
「まあいいや、そこまでやれと言わなかったから仕方がない。でも肝に銘じておいてほしい、こういう日常の何気ない光景からも学ぶべきことはたくさんあるんだからね。」
「恐れ入りました…!」
ウルチは今日に限ってカズミがとても恐ろしく感じたという。
「たとえば、どっちもまだ一点も入れてない状況の様なんだけど、双方ともどうすれば点が入るのか考えたことはないかい?」
「そうですね――――私でしたら一旦後ろの方に蹴って、乱戦を抜け出した後に思い切り高く蹴って相手の頭上を飛び越すとか…。」
「ふむふむ…他には?」
「あの程度の乱戦を抑えるのに全員で行く必要はないかなと。相手の10人をなんとか7人くらいで押しとどめて、後の3人で敵の横をすり抜けていくとか………。」
「なるほど、いいじゃない!ちゃんと考えてるじゃん!」
ウルチの話を聞いていたカズミはにっこりと笑った。
どうやら完全な無駄ではなかったらしい。
「サッカーはね、君たちが想像している以上にもっと奥深い競技なんだ。僕が前にいた世界ではそれはもう大いに盛り上がるものだったし、世界各国でサッカーを知らない国は殆どなかった。ただ単純に球をけるだけじゃないからこそ、こうして僕は楽しみながら訓練が出来るようにしたんだ。」
「竜王様……。」
(やはり竜王様には深い考えがあったのか!さすがは竜王様……)
ウルチの中でカズミの株がまた一段階上昇した瞬間だった。
「おや、竜王様。それに氷竜族長殿、閲兵ですか?」
「セルディアか。実はいま新しい訓練メニューを試している最中なんだ。」
「よかったらセルディアも見ていったらどうだ?」
カズミとウルチが話しているところに、休養中だったセルディアが顔を出してきた。
「新しい訓練メニュー……あれはもしや『ハルパストゥム』でしょうか?」
「え?」
ここでセルディアから聞きなれない単語が飛び出した。
「さすがは竜王様、カルディア聖王国の軍事訓練方式を取り入れるとは、
古い習慣にとらわれず、新しいものを求めるその姿勢に感服しました!」
「待った待った。え、なに?ハルパス……?」
「『ハルパストゥム』ですよ竜王様!ご存じなかったので?」
セルディアによれば、このハルパストゥムというのはカルディア聖王国にずっと昔から伝わっている軍事訓練のスポーツであり、足や手を使って相手からボールを奪い、相手の陣地に放り込むものである。非常に歴史ある競技であると同時に愛好家も多く、年に何回か聖王国内で競技大会が行われるほどだという。その激しさは想像を絶するほど過酷で、毎回ケガ人が続出し死者が出ることすらあると言われている。
「あ~あ……なんだ、僕が考えたことはすでにやってるとこがあったのか。まあそりゃそうだよね、ボールがあって足があれば誰でも思いつくし、集団戦になるから軍事訓練にも最適だっていつか気が付くもんね……。」
せっかく、久々に異世界知識でインスパイアになろうとしたのに、
既に存在するとわかり、激しく落胆するカズミであった。
「いいではないですか。竜王様が提案しなければ、恐らくこの国には当分縁がない事だったと思いますし、何より私もハルパストゥムについては若干口うるさいですから。」
「それなんだけどさ……実はこの競技、そのハルパストゥムとは若干ルールが違うんだよね。だからそのまま使えるかどうか。」
「ルールが違う?」
カズミはウルチが持っていた教本をセルディアに手渡した。
「なるほど、竜王様のいた世界では『サッカー』と呼ぶのですか。実に興味深いですな……。ふむふむ、キーパー以外手を使ってはいけない?使っていいのは足だけ…と、他人への攻撃は禁止…術は一回まで……。」
「あ、そうだ!先攻後攻について書き忘れてた!」
「か…書き忘れですか竜王様!?私は勝手にルールを作ってしまいましたが…?」
「素晴らしいです竜王様!これは闘争ではなく、まさしく勝負!勝つだけではなく相手への気遣いも忘れない奥ゆかしさ!これぞまさしく紳士のスポーツと言えるでしょう!」
「お…おう。」
教本を読んだセルディアはなぜか感極まってしまったようだ。
「私は以前より思っていたのです!ハルパストゥムは素晴らしい競技なのに、カルディア聖王国以外では野蛮な競技と言われてしまい敬遠されていたのは、勝利至上主義の思想が影響していると!しかしスポーツくらいは、お互いを敬いながら行うべきだと考えていたのです!竜王様、どうかこの私にすべてお任せください!
サッカーは決して子供の遊びではないことをこの世に知ら閉めて見せます!」
「ああ、うん。それはありがたいけど…くれぐれも仕事に支障をきたさないようにね?」
「分かってますとも!」
(分かってないなあれは……)
何が彼の琴線に触れたのか、セルディアは試合をしている竜たちのところに
ダッシュで駆けこんでいくと、すぐさま試合を中断させた。
「君たち!竜王様の御前でそのような子供の遊びを披露して恥ずかしく思わないのか!」
「なんだよ、セルディア。お前も混ぜてほしいのか?でも人間だろお前。」
「今いいところなのですわセルディア、邪魔なさらないでくれます?」
「シャラップ!君たちはサッカーを分かってない!相手に勝ちたければ何も言わず僕に従え!まずはそこに一列に並んで!そこから前に三人、真ん中に四人、後ろに三人に分かれること!そんでもって………!……!………!」
セルディアは乱入したかと思うと、まるで監督気取りで竜たちに指示を出し始める。その気迫があまりにも凄まじかったため、竜たちは大人しく従うほかなかった。
「セルディア……まさかサッカーバカだったなんて…」
「まあ、彼もまだ30歳、遊びたい年頃なのでしょう。」
「竜と人間の年齢をを一緒にしないでほしいな………。」
サッカーを導入したことで、この後アルムテン軍の基礎体力向上に貢献することとなったが、同時にセルディアをはじめ何人もの竜がサッカーの魅力に取りつかれ、
最終的にカズミの訓練改革に大幅な支障をきたすこととなってしまった。しかもそれだけではなく、サッカーが広まるにつれていつしかチームも組まれ、チーム同士での連携は向上したものの、派閥対立が表面化、更には一般人の間でも応援団が結成され、激化するにつれて応援団同士で喧嘩沙汰に発展するなど、治安を悪化させてしまうことにもつながった。
後年カズミは、サッカーの導入をもう少し慎重にすべきだったと反省している。
登場人物評
クリンク 重装甲歩兵7Lv
79歳 男性 人間(エオメル人)
【地位】エオメル領主
【武器】鉄の槍
【好き】お茶
【嫌い】人混み
【ステータス】力:4 魔力:0技:2 敏捷:1 防御:7
退魔力:1 幸運:5
【適正】統率:E 武勇:F 政治:B 知識:D 魅力:C
【資質】火 氷 風 土 木 海 雷 神 暗
― ○ ― ○ ☆ ― ― ― ―
【特殊能力】なし
エオメル領主。老齢ながらも、民に慕われる良き領主である。
第一次産業がほとんどを占めるこの領地で住民に課す税をかなり低くし、領主自ら積極的に田畑を見回るなど、非常に面倒見がよい。住民たちはそんな領主クリンクのことを「みんなのおじいちゃん」と呼び慕っている。かつて領内が飢饉に陥った際、シエナからの援助を受けて立ち直った経験があり、時がたって政治の腐敗が横行し、斜陽になりつつある現在のシエナに対しても義理堅く従い続けていた。しかしながら、防衛までシエナに依存しておりカズミ率いるアルムテンの竜の侵攻に対抗できなかった。結局エオメルは降伏し、彼自身は責任を取って領主を辞任する。
現在は竜との支配を受け入れてのんびり隠居している。
昔から控えめな性格で、なよなよしていたらしく、
特に人が大勢集まる場は大の苦手だったと言われている。
資質:木竜の資質が非常に高く、木竜たちは彼の余生を竜術士あるいは竜神官として過ごしてほしいと説得しているが、今のところ彼にはその気は全くないようだ。
ただ、持病を完全に治してくれたことには恩を感じているようだ。