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竜王の世紀  作者: 南木
第1章:グランフォード動乱
23/37

第12期:覚醒(前編)

今期の一言:男は誰でも心に一本匕首を呑んでいる。

      ただそれを研いでねえだけの話だぜ

      -剣獅子丸


ミラーフェン王国首都マンハイム郊外。

アントリム海西岸を通る街道を、馬車を中心とした集団が砂埃を上げながら猛進する。馬車は全部で3台。それを守るように騎兵が8騎。


「急げ!もっと飛ばせ!」


集団の先頭を走る年老いた騎士が、御者たちに喝をいれる。御者たちも急がなくてはいけないことは分かっているのだが、悪路の上に馬車の重量もかなりあり、馬車を曳く馬にこれ以上無理はさせられない。


馬車に乗るのはこの国の王ルパート。

それに、王妃リウィアともう一台には家財道具一式を載せて

最短ルートで北方の隣国ベリサルダまで亡命しようとしているのだ。


「ううむ…やはり戻るべきではないだろうか」

「いまさら何を仰られるのです。陛下さえ無事であれば国は何度でも蘇ります。

しかしながら国民まで連れて脱出と言うのは無謀に御座います。

今はどうか耐えてくださいませ」



ルパート王は、すでに初老を過ぎたとても穏やかな人物だ。自国民のことを何よりも思い、臣下を大事にする情け深い領主なのである。その能力は平和な時代において十分に力を発揮し、零細国家ミラーフェンが豊かに暮らしていけるのもルパート王の手腕があったからに他ならない。

しかし、根からの平和主義者であるため軍備は完全に軽視されており、今こうして侵略を受けると自力では何も対処できなくなってしまっていた。そんなルパートにとって、国民を捨てて自分だけが脱出するのは非常に心が痛むことなのだが、部下からの進言によりしぶしぶ亡命を決めたのだ。



マンハイムから、隣国の友好国ベリサルダまでどんなに急いでも7日はかかる。護衛の騎士たちの顔に焦りの表情が浮かんでいた。だが、あまりにも急ぐことを考えるあまり、彼らは異変に気付くことが出来ない。



――ヒュン




「フぐっ!?」

「隊長!」「…コロン隊長!」


どこからか飛んできた弓矢が、護衛隊長の年老いた騎士…コロンの胸元に突き刺さった。コロンは矢を受けた衝撃で仰け反り、落馬する。これを見た周囲の騎兵たちはあわてて馬を止め、何事が起きたか確認する。


「……何事かね」

「待ち伏せです!コロン隊長が矢を!」


幸いコロンは着こんでいた鎧が良い品であったため、深くは貫通せず落馬しただけで命に別状はなかった。しかしながら飛んでくる矢は一発だけではない。コロンを射抜いた矢が飛んでくること数秒遅れた後、何発もの矢が一行を襲う。


「ぐわっ!」

「敵襲だ!どこから撃たれている!」

「あいつらです!丘の上に人影が!」




「よーしよし、ちゃんとここを通ってくれてよかった。戦いの素人は単純だから扱いやすい。すべては計画通りっとね」


街道沿いの丘の上で待ち伏せしていたのは、茜色の長髪でやや長身の弓を構えた女性。彼女はセスカティエに依頼を受けてやとわれた冒険者であり、そこそこの腕を持つ冒険者たちを集めて、王族を待ち伏せしていたのだ。


彼女の合図で、岩陰から、木陰から、草むらから、次々と軽装の戦士が現れる。

誰もかれもがバラバラの服装、バラバラの武器であり、一目で彼らが正規軍でないことが分かる。


「せっかく逃げているところ悪いけれど、大人しく捕まってもらうよ。

あ、あるべく抵抗は程々にね。手が滑って殺しちゃったら報酬が減っちゃうし」


「なんということだ。セスカティエはここまで手をまわしていたとは。これ以上逃げることはもはやかなわぬ……降伏するしかあるまい」

「いいえ陛下、まだ諦めてはなりません!某が血路を切り開きますゆえ……!」


そうは言うものの、仮に突破できたとしてもいずれはすぐに追いつかれてしまうのは目に見えている。長い貧乏生活に耐えてきた冒険者たちは目を欲望に染めながらじりじりと一行を包囲する。もはやこれまで……そう思っていたルパート王の目の前で




シュバアアアァァァァァァァッ!



「…………え?」



黒い閃光が走り、轟音が響く。


何事かと思った双方は、先ほどまで女冒険者がいた丘の方に目をやった。先ほどまで四人の冒険者が弓を構えていたはずだが、彼らはいつの間にか跡形もなく消え去っていた。それどころか「丘自体」ごっそりなくなっている。


何が起こったのか理解できず唖然とする両者の上から、今度は人が降ってきた。



「そこまでだ悪党たち!それ以上の悪行狼藉はこの僕がゆるさない!神妙に縛につけ!」


アドリブでいろいろとごちゃ混ぜになった啖呵を切って登場したのは、銀に輝く立派な角に強者をそのまま体現したような黒い鱗にすべてを破砕する尾、我らが竜王カズミの登場だ!


(よしっ、決まったっ!正義の味方の登場はやっぱりこうじゃなきゃね!……と言ってる場合じゃない)



「誰だてめぇは!邪魔すんじゃねぇ!」

「お…い、まて……あれ、竜じゃねぇか?2本の角に…鱗がびっしり生えた尻尾が……」

『竜!?』


「そう、僕は竜なんだ。君たちで勝てる?」


「ちくしょう!この依頼成功しねぇと明日からおまんまの食い上げなんだよ!」


カズミが竜だということが分かると、冒険者たちの間に動揺が広がった。中にはヤケになってカズミに突進してくる者もいたが、その剣はカズミが腕で防いだだけで傷をつけることもできず逆にちょっと力を込めただけの拳を食らって吹っ飛ばされる始末。その活躍ぶりは、カズミ自身、よくある時代劇のような正義の味方を気取っているようだが、この場合どちらかと言うと海外のムキムキマッチョなスーパーヒーローのそれに近い。あまりの強さに恐れをなした襲撃者たちは、リーダー不在ということも相まってまるで蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


間一髪、ミラーフェン王家一行は救われた。



「おとうさまっ!おかぁさまっ!ご無事ですかっ!」


「こ……この声は、まさか………いや、なんと…」

「まあ!どうしたことでしょう…!シズナの声が聞こえるわ!」


安全が確認されるや否や、カズミについてきたシズナが家族を心配して馬車に駆け寄る。竜にさらわれ生死不明になっていた娘の声を聴いた両親は、初めは自身の耳を疑った。だが、自分たちの方に走ってくる娘の姿を見たルパート王もリウィア王妃も、駆け寄ってくるシズナを思いっきり抱き寄せた。



「お父様、お母様……シズナは、ただいま…戻りました」

「シズナ…生きておったのか……!おお神よ!」

「ああぁシズナ…心配したのですよ!」


生きるか死ぬかの瀬戸際からの感動の再会。

シズナも、ルパート王もリウィア王妃も涙をこらえることが出来なかった。




「危ないところだったけど、間に合ってよかった」


「うぅ…よかったねシズナさん、よかったね…」

「あ、あまりメソメソ泣くのはやめなよ。竜王様の前だから…」



お供の風竜は感動のあまりもらい泣き。

同じくお供の火竜も、涙をこらえるのが精いっぱいと言うありさま。


「さ、そこの騎士さんたちも今すぐに手当てしてあげるから」

「すまぬ、恩に着る」


その間にもカズミは鞄から傷薬とお手製の包帯を取出し、けがをした騎士たちにてきぱきと手当てを施す。一名、矢が肩に刺さってしまった者がいたものの、誰もが命に別状はなさそうだったのが何よりだ。



「どなたか知りませぬが……我々の窮地を救っていただき、感謝いたします。その上…竜にさらわれたはずのシズナ姫様まで連れてきてくださるとは…」

「やだなぁ、僕がその『竜』だって。さっきのやり取り聞いてなかった?」

「な、なんと!?――うぐっ!?」

「ほら…じっとしてないと傷が開いちゃうから。おじいさんももう若くないんだから、無理に動かない方がいいと思うよ。後でちゃんと回復術かけてもらえばいいから」

「若くないは余計じゃ。しかし……、なぜ竜が我々を助けるのだ?」

「困ってる人を見たら助け合う。それは竜も人も同じだよ。ま、細かいことは気にせずに、お礼ならシズナ姫様に言ってくださいな」


(まったく、僕たち竜はそんなに怖い存在なのかな。シズナさんを攫ったんだから当然と言えば当然なんだけど)


老騎士コロンと、他二名の手当てが終わったところで周囲の警戒に当たっていたリーゼロッテがカズミのもとまで降りてきた。


「竜王様、どうやら敵主力部隊が城に迫っているようです。如何なさいますか」

「敵の数はどのくらい?」

「目算でおよそ2000ほど」

「なかなかの数のようだね。城にはまだ住民が残っているんだろう、こうなったらとことんまでやるしかなようだ。すぐに行こうか。」


恐らく城にはわずかな守備部隊しか残っていないだろう。速く駆けつけなければ住民に被害が出る可能性がある。そう判断したカズミは、王族の保護を風竜と火竜に任せ、自分はリーゼロッテと二人だけでマンハイムに向かうことにした。


「か…カズミ様!待ってください!私を置いてかないでくださいませ!」

「シズナさん、さすがに戦場に君を連れて行くわけにはいかないよ。それにせっかくお父さんとお母さんに会えたんだから、一緒に安全な場所まで避難したほうがいい。すぐ戻ってくるから」

「いいえ、何と言われようと私はカズミ様と共に参ります!」


シズナもカズミと共に戦場に向かうと言い出した。しかしカズミとしては、シズナに一緒に来られても安全が確保できないだけでなく、戦闘時の足手まといになる可能性が高い。なので安全な場所にいてくれた方がカズミは安心できる。


「シズナさん、竜王様の仰る通りです。シズナさんを連れてはカズミ様にとってかえって足手まといになるのです。お気持ちは分かりますがどうか大人しくお待ちくださいますよう」

「そうだシズナよ…!お前までが戦場に行くことはない!この方たちの言う通り、早く安全な場所に!」

「いいえ!民を守るのは王族の務めです!お父様もお母様もそう仰ったはずです!」


リーゼロッテの言葉にも、父王の諫めも耳を貸さずかたくなにカズミの体を抱きしめて離さないシズナ。カズミも何とかしたかったが、生憎今は時間が惜しい。


「仕方がない。しっかり掴まっててね!」

「はいっ!お父様、お母様、行ってまいります!」


シズナを再び背負うと、カズミとリーゼロッテはその場から風のように飛び立った。



「さあ、みなさんも今のうちに安全な場所へ。私たちがついていますから」

「なーに心配いらないよ。うちの竜王様は族長よりつえぇんだ。やられることなんてまずあり得ないって!」

「竜王……」








ミラーフェン首都マンハイムは都市のカテゴリーとして「城塞都市」に含まれる。

都市の機能はすべて城壁の中に収められ、いざ戦闘になった場合にも城壁が突破されない限りは住居区に被害が及ぶことはない。ところが、建国以来一度も戦火にさらされることのなかったこの都市は、住居区が城壁の外にまで広がっており、今や城壁の中にあるのは商業施設や貴族の別荘などの高級住宅街がほとんどである。

城の周囲には堀もなく、壁の高さは建国当時のまま変わっていない。


まあ要するに、攻められたときの備えをほとんどしていないのである。



「よかった。まだ攻撃は行われていないみたいだ」

「セスカティエ軍は東西の二つの門を同時に打ち破ろうとしているようです」


上空から見ると、両軍の位置がはっきり見て取れた。西と東にそれぞれ一ヵ所ずつある城門を中心にマンハイムの守備隊が展開しており、対するセスカティエの軍勢が一般市民の居住区に陣取っている。居住区のところどころからわずかながら黒煙が上がっており、すでにあらかた略奪をされた後だということが分かる。



「よし、僕は西門に向かう。リーゼロッテは東門を頼んだ」

「了解しました。竜王様もお気をつけて」



ここでカズミとリーゼロッテは二手に分かれて守備兵を援護することにする。リーゼロッテはその場で元竜化し、金色の長躯をうねらせながら東門に向かっていった。


「あーあ、僕もあんな風に竜の姿になれたらな……。竜王が竜の姿になれないなんて情けないよ」

「カズミ様…………」

「ん、どうやら攻撃が始まったみたいだ。本当にギリギリのタイミングだったみたいだね」


カズミも急いで西門に向かってゆく。







ミラーフェン軍マンハイム守備隊、西門の守備を担当する女性の将…マガリは今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


「ど、どうしよう…全然勝てる気がしないよぉ。私初めてなのに…あんなに多いなんて……」


長年戦がなかったこの国は軍事組織がかなり適当に割り振られていて、兵士を率いるのは若い者の役目と決められているのだとか。マガリも一応代々将軍の家系に生まれたが、親の世代はすでに全員官吏になっていて、軍事のノウハウは騎士隊長であるコロンから武術を教わっただけに過ぎない。


しかも将がこんなのだから兵士たちはもっと悲惨だ。


セスカティエの侵攻が開始されてから慌てて傭兵を雇おうにも、ミラーフェン側に到底勝ち目があるとも思えないとの見方が強まっているため雇用に応じる傭兵はほとんどおらず、召集できた数少ない傭兵たちも前日には大半が給料をもらえるだけもらって逃げ出してしまう始末。結局正規兵だけでは数が足りず、住民の一部を民兵として徴兵し、数を間に合わせるに至った。絶望的な顔で震えるマガリの姿を見て、兵士たちの士気もダダ下がり状態だ。



一方のセスカティエ側。

率いるのは軽装歩兵軍の隊長ジシュカ。こちらも将としては新米である。しかしながら、彼女には軍で功績を立てて成り上がるという野望があるため今日に至るまで並々ならぬ努力を費やしてきた。そしてこのたびの戦は出世街道を駆け上がるための第一歩になる。否が応でもやる気が出るというものだ。



「みんなー準備はいい?もう一方の部隊より先に城内へ突入してやるわ!

出し抜かれたら一生の恥よ!私に続け!」

『おーっ!』


セスカティエ西門攻略部隊、正規軍の短兵(剣と盾を装備した軽装の歩兵)300人と

傭兵の混成部隊500人が城門めがけて駆け出した。

セスカティエ軍はあっという間に門まで接近、防衛部隊も弓矢を放って応戦するものの、正規軍に弓を使える部隊が少なく、徴収したばかりの民兵は矢をうまく扱えない。ヒョロヒョロした矢がぽつぽつ降ってきたところで大してダメージを与えられなかった。



「丸太もってこーい!」


ここでセスカティエ軍が用意したのが、先の尖がった丸太である。かなり急いで進軍してきたため、攻城兵器を一切持ってきていなかったのだが、丸太の先端をとがらせて数人がかりで城門にぶつけるだけでも中々の破壊力を持たせることが出来るのだ。これぞまさに戦の知恵。


「わ、わ、わ!まずいまずい!何でもいいから投げられるものを投げて!」


ミラーフェンの守備隊はもはやほとんど統制がとれず、

その辺にある石や城壁が崩れた際の欠片をやけくそに投げつける。



(もうだめ……誰か、助けて……)



と、その時



ズドオオォォォォォン!



「え、ちょ!?なになに!?」


今まさに城壁に丸太を叩きつけてやろうとした目の前で、

丸太部隊に上空から降り注いだ漆黒の光線が直撃。跡形もなく消し去った。

意味不明の事態に両軍の兵士は思考を停止し、戦闘を中断してしまう。



「一体…何が……」


唖然とするマガリの肩に、ポンと優しく手が触れた。


「頑張りましたねマガリ。無事でよかったです」

「し、シズナ様!!」

『シズナ姫様!!??』


いつの間にかそこには、行方不明になったシズナが立っていた。


「ひめさま…ひめさまあぁ……うわあぁん!」

「はいはい、私より年上なのに泣いてどうするのですか。あなたがしっかりしないと、兵士たちも戦えませんよ」

「は……はひ…」


緊張の糸が切れてシズナに思い切り泣きつくマガリ。シズナも困った顔をしながらも、その手で頭を優しく撫でてあげる。


「あとは私たちに任せてください。ね、カズミ様……」



「卑劣な侵略者たち!我こそは竜王なり!逃げるなら今の内だ!」

『竜王!?』

「うっそでしょ!?なんで竜がこんなところにいるのよ!」


思わぬ乱入者に地団太を踏むセスカティエ軍の隊長ジシュカ。目の前の人物が本当に竜王なのかどうかはともかく、その容姿から少なくとも竜であることは本当らしかった。だが、竜がいたから逃げてきましたでは恰好がつかないし、上層部に信じてもらえないだろう。勝ち目は薄く、かといって逃げてもお先は真っ暗だ。ならば……



「うっさい!あんたが竜王だなんて信じられるかーっ!竜王なら竜王らしくでっかい竜の姿にでもなってみたらどうなの!」

「でっかい竜の姿……ごめんなさい、それ来月からなんです」

「じゃあやっぱり嘘か!こんなやつ怖くないわ!野郎ども、ぶっ殺してやれ!」

「僕ってそんなに竜王っぽくないかな。なんか傷つくなぁ」


態勢を立て直したセスカティエ軍は、数の優位を頼みにカズミに斬りかかってきた。


(だいたい100人くらい倒せればこいつらも諦めるかな)


とりあえずカズミの体には軟な刃物は通用しないので、剣や槍の攻撃が目や口にでも当たらない限りは平気だ。


「せぇい!」


まず軽くパンチで兵士を盾ごと吹き飛ばす。更にその勢いで体を回転させ、硬い尻尾を複数の相手にヒットさせる。軍隊式の格闘術を師範代の域まで極めているカズミにとって、高度な訓練を受けていない兵士を相手するのは難しくなかった。



ドーン……ゴロゴロゴロ…


「ん、リーゼロッテもやってるみたいだね。僕もあれくらい派手に術を使えればいいけど。」


城の向こう側で雷が落ちる音が聞こえる。リーゼロッテの雷竜術の雷だ。彼女の実力ならものの数分で向こうの敵を全滅させることも難しくないはずだ。


(僕だって術を自由自在に操ってみたい。でも…竜王の力は正体が分からないし

迂闊に使うととっても危険だ。くそう……せめて僕も竜の姿になれれば…)


竜王なのに、人間の戦い方しかできない自分が若干情けなく思えてきた。




(……様、カズミ様……)

(あれ?シズナさんの声?)

(負けないでください…カズミ様……)

(えーと、シズナさん?)

(あら…カズミ様の声が……)


なぜか心に直接響いてきたシズナの声。目の前の敵に集中しているというのに不思議な現象が発生していた。


(あの、カズミ様。少々お力をお貸しくださいませんか?)

(力を貸せって言われても、今敵を倒すのに精一杯なんですけど)


竜王の必殺技である竜王ビームは現状数分に一発しか打てない上に若干溜め時間が必要になるので、こういう乱戦の時に放つ余裕はない。こんな時に何を協力できるというのか?


(今私は…カズミ様の心の中にいるのですよね?)

(さあ、僕にはさっぱり…)

(でしたらこの中に渦巻いてる『源』は好きに使ってもいいのでしょうか?)


こんな時にもマイペースなシズナに若干イラッとするカズミだったが、

とりあえず彼女にすべて任せることにした。


(…いいよ、好きにして)

(はい!)





前々から感じていた。

私とカズミ様は心がつながる時がある。

そしてカズミ様の心の中には、冷たいけどなぜか安らぐようなものがある。

私にはこれがなんなのかは分からない。でも……


私ならきっと使えるはず。



――――カズミ様、竜になりたいのですね。でしたらその願い、私が叶えます。




ドクン!



「――――いっ!?おぉあぁっ!?」


(えええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???)


突然カズミの中で何かがあふれ出すような感覚がする。

いや、それどころか周囲のなにもかもが変わっていく!

まるで蛹が蝶になるように、自分の身体が開いていく!



そしてそこには…





《な、なんじゃこりゃああぁぁ!?》



体長10メートルはあろうかという、巨大な漆黒の竜が姿を現した。



登場人物評


セム  竜術士15Lv

62歳 男性 人間(アルムテン人)

【地位】竜神官長

【武器】癒し樹の杖

【好き】ジョギング

【嫌い】入れ歯

【ステータス】力:13 魔力:16技:9 敏捷:15 防御:7

退魔力:12 幸運:14

【適正】統率:E 武勇:D 政治:C 知識:C 魅力:D

【資質】火 氷 風 土 木 海 雷 神 暗

    ― ◎ ○ ◎ ☆ ○ ― ― ―

【特殊能力】救急


 竜族に代々仕える「竜神官」たちのまとめ役で、元は木竜神官。

争いよりも平和を好み、竜たちが迫害を受けずに暮らせる国づくりを目指していた。

それゆえ、竜王の復活には個人的には反対であったが、竜たちに意見することはなかった。

カズミも彼の慎重な意見にもたびたび耳をかし、ともすれば暴走しがちな

竜たちにくぎを刺すようにしている。竜王がカズミでよかったと心の底から思っている人の一人である。

元木竜たちの世話をしてきたからなのか、健康志向が異常に強く、毎朝運動を欠かさず行い、

菜食主義を貫いている。医術の心得もあるが、基本自然治癒が一番と思っているなど、

年相応に思考が頑固なところもある。


資質:神官たちの長だけあって幅広い術資質を持っている。

一時期はなかなか後継者が決まらなかった氷竜神官の代表も兼任していたとか。

木竜術は今でも木竜神官代表よりも術が上手い。

火の術資質だけは持てなかった。


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