第7期:ブランドル攻略
今期の一言:リーダーは憶病すぎるくらいがちょうどいい。
ただしそれを部下に見せないこと。
―ミラーフェン王子・クライン
カズミ率いるアルムテン・オデッソス連合軍がエオメルを攻撃する少し前。シエナ国首都ムートリアにて。
「ですから、今性急に動いても無意味です。まずは国内の守りを固め、しかる後に反撃に転ずるのが得策ではないでしょうか」
「いいや、このままではじり貧だ! ルティックをはじめとした抵抗勢力を早めに再び我らが版図に組み込まねば、下手すればセスカティエに足元をすくわれかねない!」
王宮謁見の間では、主だった家臣が集まり昼夜を徹して議論が行われている。主だった意見としては主戦派と防衛派の二つがあり双方とも有力な将官が上手い具合に分かれてしまったため、中々意見がまとまらないでいる。
「……そこまでだ。いったん休息を取る。この議題は明日の朝議より再び話し合うこととする」
『ははーっ』
この日も実に8時間にわたって家臣同士が意見を交わし合ったのだが、残念ながら双方ともに戦略的に有効性を欠いているため、時間だけを無駄に消費してしまっている。
そんな状態に嫌気がさした国王バティールは、いったん会議を打ち切った。
バティール自身も非常に悩んでいた。
国内は現在カルディア聖王国軍の略奪で不満が高まっており、その上竜討伐に費やした兵力はあっという間に失われる始末。現状放置していたらシエナという国はガタガタになってしまうだろう。
今まで目をそらし続けてきた国内の不安要素がここにきて一気に鮮明になった。放置し続けてきた己の責任は大きいが、だからこそ慎重にならざるを得ない。
「陛下、お休み中失礼いたします」
「どうした」
「マリアルイズ様がお見えになっております。お通ししてもよろしいでしょうか」
「ほう、早かったな。すぐに通すよう伝えろ」
「はっ」
そこでバティール国王は、西側の国境を守備している腹心の一人を呼び寄せていた。召喚に応じた家臣……マリアルイズは、シエナでも屈指の実力を持つ武将であり、彼女がいることでセスカティエはシエナに全く手出しができていないでいる。
「失礼いたします陛下。マリアルイズ、参上いたしました。」
執務室に入ってきたのは、もう四十後半にもなるのに今なお怪しい美貌を持つ女性の将軍、マリアルイズ。
「ご苦労だった。急いできてくれて何よりだ」
「当然のことですわ、今は国家存亡の時。一刻たりとも無駄にはできません。しかるに陛下、聞くところによりますれば主戦派と防衛派で議論が割れているそうですね」
「その通りだ。双方とも一歩も譲ろうとはせん。しかし下手に一方に肩入れしても家臣団が分裂してしまっては話にならない。だからこそ、わざわざそなたを呼び寄せたのだ」
「存じておりますわ。そこまで私を重用していただけるとは光栄に御座います」
マリアルイズは嬉しそうな顔でぺこりと頭を下げた。
「然れば、私が愚考しますに今すぐ軍を率いてルティックを攻略すべきです。攻略兵力は私が率いていますクシュケ・カホキアの駐留部隊をすれば問題ありません」
「む、だがそれではセスカティエが攻撃してきた際に破られかねないか?」
「ご安心を。その対策といたしまして、国内で新たに招集した兵を代わりに国境付近に張り付かせます。表向きは駐留部隊を増やしたことにすれば、セスカティエも手出ししにくくなるでしょう。そうして主力部隊が到着したのち反対派の代表国であるルティックを攻略します。ルティックが落ちればオーヴァン・ファズレーとドレスタッドを結ぶラインが分断されます。必要でしたら続いてオーヴァンを攻略いたしましょう。離反した四国は今現在十分な勢いがありますゆえ、時間的猶予を与えれば戦力を蓄えてしまいます。そうならないうちに各個撃破することで出鼻をくじき、徐々に締め上げていけば最終的に弱った残りの国もわが方に再帰順せざるをえますまい」
「なるほど……しかし、問題はそれだけではない。竜族たちだ。エオメルはすでに陥落したと聞いておるし、次はおそらく…」
「ブランドルで御座いましょう」
確かに反乱を起こした四国は厄介だったが、それでもまだシエナの方が力は上であり彼らを倒すというだけであればそこまで難しい話ではない。
むしろ厄介なのは…竜王カズミ率いるアルムテンだ。
「残念ですが、ブランドルおよびイスカは放棄せざるを得ないでしょう。竜たちの進行速度は非常に早いと聞き及んでいますゆえ、十分な戦力を整える時間はないと考えてよいでしょう。」
「だが、これ以上同盟国に不安を与えるのは好ましくないのではないか」
「今現在のわが国では竜族の猛攻をしのぐことだけでも難しいでしょう。頼りになるのはカルディア聖王国か教皇領の聖騎士隊のみ……。カルディアは腰が重い故宛になりません。ここは教皇領に窮状を訴え、主力の聖騎士たちの派遣を求めましょう。あとは、再帰順した四国を盾に相手を消耗させ、弱ったところで一気に決戦を行うのです。ある程度痛めつければ竜族たちは補充能力が極端に低いため我が国が有利でしょう」
「うむ! 素晴らしい作戦だ!マリアルイズ!そなたを呼び寄せて正解だった!」
今までの悩みはなんだったのかとばかりに、一気に気分が晴れたバティールは
次の日の朝議で正式にマリアルイズの案を採用することを表明、反対派もさすがに宿将マリアルイズへの対案は出せなかったため決定に従わざるを得ない。
強国シエナの本気を見せる時が来たようだ。
国王バティールの指示の下、シエナ全土に大々的に募兵をかけ今まで属国から搾り取ってきた資金であっという間に十数万人規模の人員を集めた。
中には傭兵もかなりの割合で集まっており、即戦力としても数万単位で動員が可能だ。数か月もすれば戦力は完全に整う。カルディアには劣るとも腐っても大国シエナ、その力は侮れない。
シエナの動きにルティックやファズレーといった元属国だった国も、負けてなるものかと急いで各国の軍を集結しはじめる。両軍が正面からぶつかる日はそう遠くはないだろう。
…
「……というのが現在の情勢です」
「ありがとう。君も忙しいのにここまでやってくれて助かるよ」
「いえいえ、むしろ竜王様からこれだけ仕事を任されているのですから頼りにされていると自覚できて嬉しく思いますよ」
エオメル攻略が終わり、アルムテンに戻ってきたカズミに、シエナとそれを取り巻く国の情勢を事細かに伝える風竜族長のリヴァル。
現在風竜族たちはリヴァルの下各地を飛び回って情報収集を行っていて、どんな些細な噂話でも片っ端から運んでくる。もともと噂好きで社交的な風竜たちにとってうってつけの任務と言える。
「順調ですなカズミ様、これなら当初の予定より早く目標を達成できましょう」
「順調ねぇ。と言っても僕自身はまだ何もしてないに等しいけど」
あまり嬉しそうにないカズミを見て、ルントウは首を傾げる。
「はて、竜王様……何か懸念することでも?」
「今までの成功はむしろ『できて当然』だから、個人的にそこまでは喜べないよ。喜ぶのはこの作戦全体が順調に成功したらで十分だ。ま、なんにしても順調なのはいいことだからあまり気にすることはないよ。とにかく今は次のことに集中するんだ。いつまでもちょっとのことで浮かれていると後で足元をすくわれかねないからね」
「はっ、これはワシも軽率でしたな。竜王様の期待を裏切らない様頑張らねば」
「では私も引き続き外回りに向かいます。何かあれば私も闇の勾玉を持っていますのですぐにご連絡くださいませ」
カズミは用件もそこそこに、ルントウとリヴァルをさがらせた。
彼らにはまだやってもらわなければならないことがたくさんあるため、少し酷使しすぎてないか心配ではあったが、むしろ任務を与えれば与えるほど、なぜか彼らはやる気になって率先して仕事をこなしていく。
「忠誠心ってこういうことなんだなぁ」
「はい。私たち竜族は皆、竜王様を崇拝しております」
「僕には一生縁のないことだと思ったけど」
「カズミ様は前世で、上司のような方はおられなかったのですか?」
カズミの独り言を受けて、リノアンが不思議そうに質問してくる。
この世界では、国を運営する人々が支配者に忠誠を誓うのが当然であり、元々いた世界で国軍の軍人をやっていたカズミが忠誠心と無縁と言うのが気になったようだ。
「いたにはいたけどね。僕はその上司の為に仕事してたわけじゃないから。」
今時忠誠なんて、よほど偉い人に直接仕えている人か、さもなくば犯罪組織の構成員でもなければ縁のない言葉だろう。
「この世界は……難しい」
カズミは部屋の窓から外の景色を見渡す。
連なる山の稜線と広がる盆地の自然、何度見ても素晴らしい風景。だがそれと並行して下に見えるアルムテンの街並みにかなり異常な光景が映っていた。
氷竜族長ウルチが行っているアルムテンの都市再開発計画によって、竜王の城からまっすぐに道路が敷かれることとなった。
道路の広さは幅が約50メートル強にも及ぶもので、そのためにルート上にあった建物は何のためらいもなくすべて解体されてしまった。普通はこんなことしたら多くの住民から反感を買ってしまうだろう。しかし、これが竜王カズミが構想したこの世界におけるハイテクノロジーな都市開発であることが宣伝され、かつ家が解体された住民には工事が終わるまでの間城に住むことが出来、完成の暁にはこれまた新しい設計で作られた最新式の住宅(上下水道完備)に住むことが出来る。
よって住民からの反対意見はほぼなかった。それもひとえに、カズミに対する絶対的な信頼があるからだろう。
「カズミ様……私たちの力が及ばぬばかりに、カズミ様に頼り切ってしまうこと、お許しくださいませ」
「いいんだよ。僕だって頼られるのは嬉しいよ」
とはいうものの、やはり不安なのだろうか。こうやって考え事をしていると心が震えてきてしまう。もっと強く心を持たなければならないのに……
バターン!
「カズミさまぁ~~~~っ!!」
「わあっ!?」
「……クレアさん、扉を開ける時はノックしなさいな」
「あうっ、ごめんなさい」
突然扉が開いたと思ったら、ノックもなしに入ってくる木竜のクレア。
いつも思うが彼女はほかの竜に比べてカズミに対して遠慮が欠けている気がする。まあ、そこが彼女のいいところでも悪いところでもあるのだが。
「それより見てください!竜王様が言ってたもの作ってみました!」
「箱……? それとも単なる板でしょうか?」
「どれどれ、みせてごらん」
クレアがカズミに見せたのは、分厚い板をくりぬいたような箱の中にコンニャクの様なものが敷いてある、一見すると意味不明な代物だった。
「見ててくださいリノアンさん! まず、このインクをびっちり染み込ませた紙をこーやってゼラチンの上に広げまーす。ちなみにこれ、スライムの体の一部を使ってます」
「はぁ、魔獣の体の一部をですか」
「おっと、さすがにそれは想定外だった」
「後はこうして一度蓋をぱたんと閉めて、ギュッとするだけで、なんとこの箱が簡単な印刷機に早変わりしちゃいます!」
「こ、これが印刷機なんですか!?」
「本当に作ったんだね、『寒天版』。」
クレアが見せに来たのは平版印刷の一種である寒天版。
何でもこの世界には木版印刷の技術があるため、本が比較的複製しやすいがそれでも木版印刷を行える場所はそう多くはない。その上ある程度の技術も必要になるので、アルムテンには残念ながら存在しなかった。
そこでカズミがクレアに提案したのが作り方さえ知っていれば比較的簡単にできる寒天版であった。これがあれば命令書や手紙などの複製が容易になる優れものだ。
仕組みはいたって簡単。原稿用紙には特殊な濃いインクを用いて、それを寒天の部分に染み込ませる。あとはその上から別の紙を押さえつければ寒天が吸い取ったインクがそのまま印刷用紙に映されるわけである。もっとも、その素材の一部に魔獣の一種である『スライム』の身体が使われているとは思わなかったが。
「この短期間によくこれだけのものを作れたね、すごいじゃないか」
「えへへ…竜王様に褒められちゃった」
「褒めるどころか、戦いが一段落したらボーナス……じゃなかった特別報酬をあげよう。リノアン、早速この簡易印刷機を使って命令書や企画書の印刷を始めよう」
「かしこまりました」
(発明家肌なんだろうなこの子は。もしかしたら使えるかもしれない……)
クレアが作った寒天版は直ちに複数機が制作され、今まで手で書き写していた書類の複製効率が劇的に上昇した。
一見すると地味なことのように思われるかもしれないが、カズミにとってはこれもまた大きな前進であったと言える。
複製された書類はさっそく風竜たちの手で前線の部隊のもとに届けられた。
エオメルの攻略を終えた部隊には、本国から通常編成部隊が送り込まれ、攻略の先陣を切った精鋭の山岳歩兵たちは次の戦場へと向かう。
エオメルを攻略したアルムテンの次なる目標はグレーシェンの南方にある国……水運国家『ブランドル』。
大陸最東端の港町を有し、おもにこの地方でしか取れない魚介類をシエナをはじめとした東側諸国に供給しているほか、この地方における造船を一手に担っている。木材はエオメル産が使われており、比較的小柄で小回りの利く船舶の作成が主だ。
「そろそろ我が国にも竜どもの牙が迫るころだろうな」
ブランドル領主ゼーレは文武両道の誉れ高いリーダーであり、先のグレーシェンとの戦いでは奇襲を受けながらも自ら軍の先頭に立ちグレーシェン騎兵魔術士の包囲を突破して見せた剛の者である。
また、術研鑽にも余念がなく、趣味として詩を嗜む文化的な素養もある。
「先の戦いでは後れを取ったが、我が国の領内では絶対に負けぬ。人間は弱い存在ではないことをたっぷり教育してやろうではないか」
すでにブランドルではアルムテンへの迎撃準備が整いつつある。
首都ドラストールは海運国家の首都だけあって、海に面して作られており陸からの攻撃に対しては無類の強さを発揮する。かといって海から攻めてもブランドルご自慢の海軍を相手できる国はそうそういないだろう。
更にはこの都市にも防衛術士が配備されていて、海流を操ることで一歩も近づかせない要塞に変えることが出来るのだ。
ゼーレの自信の源はこの国の地の利によるものである。
ゼーレの予想通り、3週間後にはアルムテンの軍が国境を越え、首都ドラストールの付近にまで進出してきた。
「あれがブランドルの本拠地か」
「さすがに陸上から攻めるのは無謀でしょう」
高台からブランドルを見下ろすカズミと、最近参謀のようになってきているセルディア。
今カズミの手元にある兵力は僅か400人程度に過ぎない。一応火竜や風竜、氷竜を何体か連れてきていると言えども、これだけでは攻略は無理だろう。
「なんだ、奴らはたったのあんだけか。やる気あるのだろうかな」
対するゼーレ率いるブランドル守備隊はその総数約2100人。単純計算で5倍もの兵力差があるのだ。
「しかし奴らは竜だ。どんな手を使ってくるかわからんぞ。気を引き締めて守りを固めなければならん」
迎え撃つブランドル守備隊は城壁の上に投石器を配備しており、いかに本気かがうかがえる。
だが一方でカズミはと言うと…
「確かに正面からは難しい。だけど僕ら竜はこんな手が使えるんだよね。ジャンナ、沖にいるリューシエにこの紙を渡すように」
「あいあいさー!」
カズミは風竜ジャンナに命令書を手渡す。
命令書はジャンナによってすぐさま沖合で待機している海竜族長リューシエのもとに届いた。
「そう、いよいよ私たち海竜の出番ですか。ただでさえ私たちは活躍の場が限られていますからこれを機にどんどんアピールしていかなければなりませんね。さあ、海竜のみなさん。竜王様直々のお仕事です、張り切っていきましょう♪」
『はーい!』
族長リューシエ以下15匹の海竜は、合図の下次々と元竜の姿に変化する。
海竜たちの姿は渦巻くような長大な体躯に、深い青色の鱗が燦然と輝き、身体の随所から生える大きな鰭が優雅にも見え、同時に恐ろしくもあった。
竜族の中でも最大級の体長を誇る海竜たちが一斉に波をかき分けて進むさまは
見ていてとても威圧的に感じることだろう。
《攻撃開始~♪》
海竜たちの術でたちまち大津波が形成されてゆく。その高さは優に5メートルを超える規模となった。
時速100キロ以上の猛烈なスピードで押し寄せる波が城壁に激突すれば、あっという間に粉砕され、市街地に多大な被害が及ぶことは目に見えている。
「か、閣下! 波が!」
「津波だと!? ばかな……何者かが術を使ったとでも言うのか! それともこれが…竜たちの力なのか……! 急げ! 防衛術起動だ!」
迫る津波から都市を守ろうと、ゼーレは急ぎ都市防衛術を発動させる。
城塞の周囲の海水を無理やり押し上げ、海底がむき出しになるほどの水量を壁として持ち上げる。術者の負担はかなりのものだったが、対策が早かったため津波の威力が減少した。
しかしそれでも少なくないエネルギーが城壁にぶつかり一部を損壊させたほか、船の出入り口は全くの無防備だったためそこから波が勢いよく流れ込んでしまう。港湾内にいた船は瞬く間に大きな被害を受け、さらにはそこから市街地の広範囲を浸水させてしまった。
「お~さすがは生きた大自然の驚異。凄い被害だ」
空の上からこの光景を見ていたカズミは思わず驚嘆の声を上げる。
実際その目で津波を見たのはこれが初めてであるが、改めてその威力を思い知る。
こんなものを操ることが出来るのだから、相手にとってはたまったものではない。
人類の間では竜のことは比較的よく知られてはいるが、実際どんな種類の竜がいてどんな特殊能力があるかまでは把握できていない。
よって、竜と言えば大きくて口から火を噴く…おもに火竜のイメージが主流である。そのため海にすむ海竜のことについてはあまり知られていないのである。しかも海竜の活動海域は主に外海であり、内海のかなり奥まった地域のブランドルに海竜が現れたのは歴史上初のことだったため、まさか竜が海から攻めてくるとは思いにもよらなかったのだろう。
「閣下! 津波の被害で東地区の半分が水没しました! 艦船が使用不能です!」
「復旧は後だ! 今下手に動けば竜どもの思う壺だ!」
「み……みえました! 海より見たこともない巨大な生物が!」
「あれも竜だというのか……! あれが、あれが………」
海竜の姿を見たゼーレはその美しさに思わず息をのんだ。
彼らの力を使うことが出来れば……そう思わずにはいられなかった。
(そういえば昔……乳母にせがんで聞かせてもらった物語の中に海にすむ神の話があったな)
「おもしろい……!」
何を思ったか、ゼーレは愛用の斧を手に取ると
「防衛の方は任せる! ちょっと竜となぐり合いしてくる!」
「か……閣下!?」
都市の防衛を配下たちに任せて、自らは城壁から跳躍し、術で起こした波を足場に着地する。
そう、ゼーレは水遁術を得意としていて、水があればそれを足場に立体軌道で戦えるという珍しい能力を持っている。久々の強敵を前に、彼も武人の血が滾ったのだろう。
「ブランドル領主ゼーレ、推して参る!」
《あら、人間が波乗りして向かってくるわ。私たちに直接戦いを挑む気かしら》
《とりあえず攻撃します?》
《無論です。あんな斧に当たったら痛くて仕方がありませんから》
波乗りしながら斧をひっさげ海竜の集団に正面から挑みかかるゼーレ。しかし海竜たちの反応は冷ややかなものだった。
そもそも1対15はいくらなんでも無謀というものである。
まず3匹の海竜がゼーレを取り囲むような範囲で海水のブレスを放つ。
「ブレスまで水か! だが甘いな!」
対するゼーレもブレスの隙間を縫って突撃を敢行。だがこれはリューシエの罠であった。
《読み通りです♪》
ドバアアァァァァ!
「何!? ぐわーーーーっ!?」
リューシエは確実に仕留めるためにわざと真ん中にブレスの隙間を開けたのだ。ゼーレは確かに強い武人ではあるのだが、集中しすぎるとどうも周りが見えなくなるきらいがあるらしい。
《はい、おしまい♪でも人間にしてはなかなか骨がある人ですね》
何を思ったか、リューシエは気絶して波の上に浮かぶゼーレを頭でひょいと拾い上げた。
…
一方のブランドルでは、ついに陸地にいたアルムテン陸軍の攻撃が開始された。
投石器の攻撃はなかなか厄介で、風竜は迂闊に近づけなかったが、カズミの思い付きで火竜の繰り出す火炎弾を風竜術で射程を強化すると状況は一変。火炎弾の威力は落ちてしまうが、風に運ばれた炎が木製の投石器に直撃すればたちまち燃え上がり、一時的に行動不能となる。
「なるほど……竜術を組み合わせるとは考え付きませんでした」
「威力がかなり落ちるのは難点だけど、便利にはなったね。さあ、次は氷竜たちの番だ。期待してるよ」
「お任せください」
投石器を沈黙させたら、次は氷竜が前に出る。
「うぅ……緊張する。でも頑張らなきゃっ!」
氷竜フリーダ以下5匹の竜は、飛び交う弓矢を凍らせて落しながら城壁の前に到達すると、口から極零度のブレスを吐き出す。ブレスは瞬く間に城壁の周りに引かれた海水の堀を凍らせ、地続きにしてしまった。
「わわわ、堀が……!」
「寒い……さっきまではあんなに暑かったのに……」
堀が埋め立てられた上に、氷竜のブレスで気温が急激に低下。城壁の兵士たちの士気が一気に下がったのをカズミは見逃さなかった。
「攻撃開始! 一番乗りした者には褒美を出すよ!」
『おーっ!』
ワーワー
アルムテン軍の総攻撃が始まった。
まず、火竜の火炎弾が城門を焼き払い、そこへ氷竜の支援の下アルムテンの兵が一斉になだれ込んだ。
戦いは市街戦となり、激戦の中でアルムテンにも少なくない被害が出たものの
竜たちの力も加わり優位に進んでいる。ブランドル領主ゼーレがいないことも、ブランドル守備隊の士気低下の原因だろう。
「ブランドル軍に告ぐ! 府庁はわれわれアルムテンが占領した! これ以上の抵抗は無意味である! ただちに浮を捨てて降伏したまえ!」
「くっ……我々の負けか」
「もはやこれまで」
中心を占拠したセルディアの呼びかけで、ブランドル軍は武器を捨て降伏する。
半日に及ぶ攻城戦は、今回もアルムテンの勝利に終わった。さすがに今回は無傷と言うわけにはいかなかったものの、カズミにとってはようやく戦いが理想の形になってきたことがすこし喜ばしく思えた。
この後、ゼーレは手厚く介抱されたのち軟禁されることとなり、この国の政治は一時的にカズミが直接行うこととなった。ゼーレはかなり優秀な人材なので、できれば説得して手元においておきたいところである。
また、論功行賞も行われ、一番乗りをした者からたくさんの敵を倒したものまで、カズミからのご褒美と言う形でボーナスが手渡された。これによりアルムテン軍はやる気が劇的に上昇し、今後も高い士気を維持することに成功する。
ただ、これがのちに大きな問題を引き起こすことになるのだが……
登場人物評
海竜族長リューシエ 海竜族32Lv
411歳 女性 竜族
【地位】海竜族長
【武器】タイダルアクアマリン(宝石)
【理想の異性】ツンデレな男性
【ステータス】力:25 魔力:41 技:29 敏捷:25 防御:30
退魔力:36 幸運:28
【適正】統率:B 武勇:D 政治:C 知識:D 魅力:A
【特殊能力】水上戦 上陸戦 耐冷性(大) 耐火性(中)
海竜族長の女性。おっとりしてマイペースであり、彼女が怒ったところを誰も見たことがない。人気投票が主である海竜族の族長になれるほど魅力的な容姿や性格の持ち主であり、恋多き海竜たちからの求婚は絶えない。
普段は北の海で荒れる海を管理しており、定期的にアルムテンに魚介類を送っている。
あまり他の竜族たちとかかわることが少ない海竜ではあるが、彼女は積極的に
陸に上がって行っては他の竜と交流を深めているため海竜族地位向上にも一役買っているとのこと。ただ、どんなに計算ずくのように見えても彼女自身ほぼ本能のままにやっているだけなので、実際は頭がそれほどよくないのではないかともうわさされている。




