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8.修行開始!

テンポ改善のため、ちょっと時間飛びます。

千世子の方針が決まった事で、早速魔法の実践理論の話に入った。


「魔法使いになったら、リュート様みたいにお空を飛んだり、花をいっぱい出したり、動物をバーンと出したり出来るんだよね!」


「いや、無理だぞ」


「無理なの⁉︎」


「何か勘違いしてるようだが、魔法は万能じゃないし、本人の才能が高くないと出来ない事の方が多い。例えば飛行魔法とかな」


「そんな…」


「何でそんな落ち込んでんだよ。さっきも言ったろ?凄い奴はごく一部だけで、後はザコだって」


「そこまでは言ってないよ…」


ショックを受ける千世子に不思議そうな目を向けるリュートだが、これは魔法体系がある程度確立し世間に根付いてる世界で育ったからこそのギャップ感だった。

魔法の初歩も知らず、想像や絵本の中でしか知らない千世子には、魔法使いとは何でも夢を叶えてくれるスーパーマンのような存在なのだ。

ましてや、この世界に来て初めて会った魔法使いがリュートなのもまずかった。リュートは森の賢者など自称するだけあって、相当な腕を持つ魔法使いなのだ。それこそ精霊族と比肩しうる程の魔力量と技量を併せ持つ。誰も近寄らない未開の森で孤独に実験と修行に打ち込んだ、まさに研鑽の賜物だ。

理想とする魔法使いに夢を抱き始めたところに、リュートがあっさり多様な魔法を使ってみせた事で、見事にハードルの高さを見誤ったのである。


「ちよこは…ちよこは、リュート様くらいすごい魔法使いになれる?」


「んー、どうだろうな。まあお前は息がかかってる人間だし、イケる気はするが…努力次第じゃね?」


「そんな適当な…」


「まっ、この俺様の弟子になるんだ。それなりになってもらわないとな!ビシバシしごくぞ!」


「うわーん!」




それからは千世子にとって本当の地獄だった。

まずは体力作りと、人間未踏の山の中をジグザグ走らされ、へろへろになった所で腕立て伏せと腹筋と背筋を100回ずつやらされ、精神統一のためと座禅を組み、眠りそうになると目頭のうえでバチン!と電気のような衝撃が走り、全身がビリビリ震える。

最初の一ヶ月は本気の我武者羅だった。ここで泣き言を言ったり駄々をこねると、リュートとの約束を破った事になる。毎日、明日は死ぬかもしれないともうもうと考えながら日々を生きた。

二ヶ月目の途中で、訓練に楽についていっている自分に気づき、千世子は喜んだ。

走るペースをあげても余裕があり、座禅をしていても集中さえすればあっという間だった。


この世界に落ちるまではガリガリで筋肉が皆無だった千世子の体つきも大分変わった。ぽっこりしていたお腹はうっすら割れ、腕や足に健康的な筋肉量がつき、つんつるてんだった体系がいい具合に引き締まった。

結果が目について多いに気合いが入った千世子は、さらに過酷な訓練メニューに変えようと師であるリュートに訴えたが、あえなく却下された。

ガリガリで今にも倒れそうな現代人の体の脆さを、どうにか改善する為にやらせた体力作りなのだ。決して脳筋にする為ではない。


「体力作りはもう十分だ。午前は同じメニューは続けてもらうが、午後からは魔法体系についての座学とする」


「魔法!やったー!ちよこもついに魔法使えるんだね!」


「あと、この世界の一般常識もな」


ぴょんぴょん跳ねる千世子に疲れの色はない。あれだけ運動させた後なのに、驚異的な成長だ。一ヶ月前はゾンビのようになっていたとは思えない。

千世子もずっと一緒に暮らしていて、だんだん遠慮が消えていったのか、元来綺麗好きなのか、リュートの片付けの下手さに苦言を告げるようになった。お陰で今のリュート家は洋服も書類も区分けされ、綺麗に片付き、ピカピカに磨かれた台所や床が嘘のようだ。

自分の住み慣れた空間に他人が入るのが苦手だったリュートだが、この予想もしなかった僥倖に自分の選択は間違ってなかった、と確信した。

千世子が側にいることで、リュート自身も変化していたが、千世子と関わることで変わる自分も嫌いではなかった。

他人だが身内のような存在を得たことで、リュートは温かな気持ちを知ることがようやく出来たのだ。


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