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3.魔法使いの家

「あの、リュート様?ただの山の中にしか見えないけど、ここに降りていいの?」


「うるせぇ、黙ってみてろ」


辺りはすでに夜の空気に包まれ、足底からヒヤリとした冷気が忍び寄る。日もとうに落ちてしまい、現代の照明に慣れている千世子にとって、自分の手すら見えない暗闇は恐怖を煽るのだ。

思わずリュートの手に体ごと寄せ、縮こまる。

そんな怯える少女の心境を知ってか知らずか、リュートは持っていた杖を掲げて呪文を唱えた。


「隠された真実を暴く灯火となれ、トゥルーライト」


杖から金色の光が放出され、その奔流が辺りに流れていくと同時に、まるで別の空間が見え始めた。光が完全に収まった頃には、森の中にひっそり佇むコテージ付きの建物が見えた。この場に現代の成人がいれば、「軽井沢か!」とツッコミを漏らしただろう。


「すごい!あぶり出しみたいだね!」


「そんなババァの知恵袋と高等魔法を一緒にすんな!」


ごくごく素直な感想だが、魔法を使った当人としては許せない発言だったらしい。

リュートも別に本気で怒ったわけではなく、単なるツーカーのつもりだったが、大人に声を張り上げられた経験の少ない少女には区別がつかなかった。怒鳴られてしゅんとした千世子の気を紛らわすように、家の中に入るよう勧めた。


「わぁ…えっと、す、すごいお家だね?」


「だろう?俺の最高傑作の隠れ家だぜ」


中に足を踏み入れて、最初に気になったのは薬品類が混ぜあった病院のような匂いだった。

次に目についたのが動物の毛皮が無造作に床に散らばらされ、食べ物や神の束がうず高く積まれ無惨な状態となっている卓上。三脚ほどありる椅子もいつ脱いだともしれない異臭を醸す服やローブで埋まっている。

壁は一面書籍や怪しい薬品の棚で埋まり、圧迫感が強い。

さらには天井から木のツルで編んだようなハンモックとランプが、野性味を感じさせる。


要するに、とても汚い家だった。

おおよそ客人を招くには向かないーーーあり得ない酷さに、千世子は言葉もなかった。


「とりあえず飯にするか。よし、そこに座って待っとけ。大人しくしろよ」


「で、でも、荷物がたくさん…」


「あぁ?そんなん適当にどかしゃいいんだよ」


平然とのたまうリュートに呆気にとられながら、とりあえず食事が出来る状態にしなければと気合いを入れ、卓上の物を無理やり端に退かした。

紙類が食べ物で汚れては困るので、綺麗に四すみを整えながら1脚の上にひとまず置いておき、床に落ちていたボロボロの布を拝借し、机を磨く。

あっという間に埃で黒ずんだ布たちは扉付近のゴミ袋(?)に突っ込んだ。


お次は椅子だ、と腕捲りをしていたら、奥の部屋から声が掛かった。


「おいへなちょこ!こっちに来い!」


「はっはい!」


やり甲斐のある掃除を中断されて、心残りがありつつもリュートのいる部屋へ移動した。


奥の部屋は台所だったらしいが、こちらも絶望的に汚かった。

いつ使ったのかも分からないカビ付いた食器類が流し台に積まれ、激しい腐臭が漂っている。鍋はまるで童話の魔女が使うような錆び付いた銅鍋で、あきらかに調理向きではない。

リュートは固まっている千世子に果物が大量に入った籠を渡し、「欲しいの選んで食え」と最終通告を突き付けた。

どうやら調理する気はさらさら無いらしい。

というか、出来るかどうかすら怪しい。


「ん?お前もしかして机片付けたのか?」


「う、うん。だめだった?」


「まあ、あっちには重要なの置いてないから構わないが…棚ん所は絶対にいじるなよ。防犯魔法がかかってるから」


「防犯魔法?どんな魔法なの?」


「知りたいか?」


「えっ」


「本当に、知りたいか?」


「やっぱりいい…です…」


ニヤニヤと怪しい笑みを崩さないリュートに恐ろしさを感じ取り、聞き出すことは諦めた。


「よしよし、お前は歳の割に利口だな。世を渡るには肝心なスキルだぞ」


「リュート様って、詐欺師みたいだね」


「いい褒め言葉だな」


リュートは途端に機嫌良く、樽から抽出したワインをあおった。


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