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2.異世界

実は処女作です。

文章としておかしい部分がありましたら、優しく注意してください。すみません。

まだ9歳の千世子がリュートの後をついて行くのはかなり困難だった。

歩幅は大人と子供の差が厳然に存在し、何より地を這う木々の根や草株に足を取られてつまづいてしまう。

もう何十回目だろうか、千世子は転んで擦り剥き血をダラダラと垂らす膝や肘を、ガシガシとカーディガンの端で拭き直す。

顔は今にも泣き出しそうに張り詰めているが、先程リュートと交わした約束事を守る為、泣き言も言わず静かについてくる。甘やかされた現代の子供としては破格の忍耐だ。


一応、リュートの沽券のためにも弁明しておくが、これでも子供の足に合わせてかなり遅く歩いているのだ。これ以上遅くしたら、家に着くまでに夜になってしまうので、出来れば速足で行きたいのを堪えているのである。


「おい、へなちょこ。しっかり着いて来いよ!夜になったら今より視界も悪くなって歩けなくなるんだからな!」


「は、はいっ!がんばりますっ!」


呼吸すら辛そうに喉をヒューヒュー言わせながら気合いの声を上げているが、どう見てもその子供は限界だった。何度も膝を落としそうになるのを根性だけで踏ん張っている。


それらを見てとったリュートは、流石に鬼にはなれなかった。


「おい、へなちょこ、掴まれ」


「えっ?」


「だから、俺の腕に掴まれって言ってんだ。お前に合わせてチンタラ歩くのも疲れんだよ。運んでやる」


「で、でも、いいの?あっいいんです、か?」


「俺がいいっつってんだ。早く掴まれ。あとヘタクソな敬語も禁止」


拙い丁寧な言葉は即却下された。

千世子はわたわたと戸惑いながらも、差し出されたリュートの手を掴み、ぎゅう、と握り返されて、首まで真っ赤に染まった。

家族以外の男の人に普段から接触しなれていないのだ。


「あぅ…わ、わかった。ありがとうリュート様」


どもりながらも感謝の気持ちを伝える千世子に、リュートは顔を顰めた。


「おいへなちょこ、勘違いすんな。俺が早く帰りたいから手貸してやってんだぞ!いいな!」


「?う、うん。わかってるよ」


「そうか。まあ、賢い奴は嫌いじゃない。…よし、行くぞ」


「うん!」


元気よく返した瞬間、体がふわりと浮くのを感じて狼狽えた少女に、「心配しなくても落としゃしねぇよ」とリュートは軽い口調でのたまった。

千世子にとって初めての魔法が、この浮遊術だった。


二人揃って空中へどんどん上がり、足元に広がる光景に思わず歓声をあげた。

地平線に沈み始めている太陽が森も山脈も真紅に染め、雲は群青色の群れとなり、淡いピンク色へと変化していく。

空にはすでに灯り始めた星たちが、赤いベールを掛けられ、キラキラと瞬いている。


「すごい、すごく綺麗だね!初めて見た!本当にすごい…」


圧倒するような景色について感想を力いっぱいに言い募るが、とても言葉にならなかった。言えばいうほど平凡になっている自分の語彙力の無さに悔しくなり、尻すぼみなってしまった。


「こんな景色、いつでも見れるだろ?なに興奮してんだか」


「こんなじゃないよ!すごいんだよ!綺麗なものはいつ見たって綺麗だし、えっと、心がスッキリするの。ありがとうって思うの。だからね、やさしい気持ちにならない?」


「そりゃ初耳の情報だな」


リュートは無垢な子供の発言を反駁したくなる衝動を抑えるのに苦労してしまった。聞けば聞くほどムズムズと痒くなる、彼にとっては苦手な言葉の羅列だ。

思わず皮肉げに言葉を漏らしたが、隣で視界一杯を収めようと見廻すのに忙しい千世子の耳には入らなかったらしい。


「やっぱり、ちがうや。ここ、ちよこの知ってる場所じゃないんだ」


「は?どういう意味ーーーーお前まさか、異世界から来たのか?」


「うーん、わかんない。ここは天国とか、あの世の世界じゃないの?ちよこが居たところと全然違うのは分かるんだけど」


「具体的に聞くか。お前がいた世界とここは、どう違う?」


「うんとね、ちよこの世界では、お星さまの色がだいたい同じなの。木だってこんなにグルグル巻きで大きくないし、青いお花は自然と生えないし、それに、鳥さんよりおっきな空飛ぶ生き物はぜつめつしてるの」


そしてここにどういう経緯で来てしまったのかを一部始終続けた少女の説明に、リュートは得たりと頷いた。

同時に、幼いながらにこれほど流暢に説明ができる少女の賢さに感心した。


「そうか。じゃあお前は異世界から何らかの原因ーーーおそらく激しい衝突のショックでこっちに落ちてきたんだな」


「落ちる?」


「俺たちの世界では異世界から来る生き物のことを、神の落としモノって言ってんだよ。それの通称が落ちる」


「落としモノ、かぁ。ねえ、それなら、ちよこのお兄さんやお父さんも、こっちに落ちているのかなあ?」


「わからん。だが、確率は低いと思うぞ」


「どうして⁉︎」


「落ちるのはいつもお一人様って相場が決まってんだよ」


「ひとり、だけ。そうなんだ…」


リュートは明らかに落ち込んでしまった子供に対してどう言葉を掛ければいいのかも分からず、口を閉ざす。

憐憫の念が浮かばないわけではないが、だからといって少女の願いを叶えてあげられるすべもない。また、元の世界へ帰す事も出来ない。神の落としモノは、落ちてくるだけなのだ。

戻ることなど出来た話は聞いた事が無い。


「まあ、なんだ。そろそろ日も暮れて来たんだし、移動するぞ」


「うん」


固定化していた浮遊術を動かし前進すると、隣でまたもや黄色い歓声が上がった。

ガキのテンションの上がり下がりはよく分からん、と爺臭いことをボヤきながら、手前にある山の山頂に二人は降り立った。


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