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プロローグ
深く深く暗い森。
寒く寒く白い森。
背の高い針葉樹達は雪を被り。
底の深い湖は氷に閉ざされている。
気温は-15゜c
私はそんな森の中を散歩する。
あなたと一緒に散歩する。
私が身につけているのは、処女雪のように真っ白な短いワンピース一着だけ。
あなたが身につけているのは、黒い半袖に白の短パン。
「寒獄の森」と呼ばれるこの森は、常に雪と氷で外界から遮断されている。
獣もいなければ虫もいない。
ヒトもいなければ音もない。
あるのは雪と氷と杉にモミの木。あと湖。
私。
あなた。
それだけ。
そんな極寒の森の中を、私達は薄着で散歩する。
「寒いね」
私が言う。
「そうだね」
とあなたが返す。
「だから、くっつこ?」
「ん」
これまで何百と繰り返した会話を今日もする。
あなたに抱きつき、腕も足も絡ませる。
温かくて。
幸福で。
私は何も考えられなくなる。
すると、あなたが私の頭を撫でる。
それがひどく心地好い。
私は今日も、あなたに温めてもらう口実を作る為に、極寒の中、ワンピース一枚だけで散歩する。