2-3.人と鬼の狭間で
「仲里です」
ドア越しに遠慮しがちな声がした。
「入っていいわよ」
そう言うと、泣きそうな顔をして仲里が病室に入ってきた。体を起こそうとするが傷が痛む。
「無理しないで下さい」
慌てて仲里が声をかけられる。
「こんなところで何してるのよ」
「心配だったんです。私のせいで……」
「あなたのせいじゃないわ。自分のミスよ。わかったら任務に戻りなさい」
はっきりとした口調で言った。
「でも……」
「同じこと言わせないでほしいわね」
静かにドアを指差す。仲里は従うしかなかった。
*
「CHN-M03が高尾山に現れたときはどうだったんですか」
「俺も詳しくは知らないんだ。あれは、自衛隊が出動したからな」
「そうですか」
「狼が主体だからな、群れで狩りをするみたいだ」
「群れ……」
南野は運転しながら大きな口を開け欠伸をしてている。
「事故起こさないで下さいよ」
「お前が免許持ってないのが悪い」
そこを突かれると、初代は言い返す言葉がない。外を見ると、ちょうど悠紀と会った公園だった。そこには、また悠紀がおり、何かを連れている……
「ちょっといいですか?」
南野に声をかける。
「あれが例の子供か、しょうがねぇな」
初代は車を降り、少年の方へ歩いていく。初代に気がついた少年は、無邪気な笑顔で駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!」
「やあ!」
声をかけながら、悠紀が連れているものに注意を払う。
「今日お姉ちゃんはいないの?」
「忙しくてね。代わりにおじさんがいるよ」
初代は車に向かって手招きをする。南野はめんどくさそうに車を降り、こちらに向かってくる。
「おい……こいつは」
南野が悠紀の連れている生き物を見て、驚きの声をあげる。
「やっぱり、そう思いますか」
初代が小さな声で耳打ちする。
「どうしたの?」
悠紀が尋ねる。
「なんでもないよ。それより、その連れてるのは?」
「僕の1番目の友達、名前はシロ。拾って、気づかれないように家で飼ってるんだ」
確かに見た目は白い子犬である。しかし、明らかに何かが違う。
「そっか……この辺は昨日BSCが出たから、今日はもう家に帰るんだ」
初代がうながすと、悠紀は「はぁい」と言ってシロを連れて公園を去った。
2人は車に戻った。
「この責任は全部俺がとります」
初代は真剣に言った。
「俺はお前の行動を見て見逃した。俺にも責任はある。8対2でお前が悪いがな」
南野は笑みをうかべながら答えた。
「すみません……」
「でも、副隊長は鬼になるかもしれない。覚悟しとけよ」
今度は真剣な顔つきだった。
*
基地に戻り、初代と南野は一連の経緯を報告した。
「その判断は間違ってるね。」
西村はバッサリと切り捨てた。
「しかし……」
初代は反論しようとするが、西村の鋭い眼差しがそれを許さない。仲里が心配そうな眼差しで見ている。
そのとき、警報が鳴り響いた。
「CHN-M03が出現」
白木の声が響く。
「東山、作戦はどうする?」
西村はすぐに頭を切りかえた。
「奴は100m3秒の速さを持ってる、本当なら高尾山での一斉掃射がベストだが、市街地では無理だ。以上より、狙撃作戦でいく」
「狙撃ですか?」
初代が聞き返す。
「そうだ。汎用ヘリDR-Jを飛ばし空中から狙撃する」
「ということは俺ですね」
南野が前に出る。
「そういうことだ。元警視庁SAT狙撃の名手の腕を見せてくれ」
「了解」
南野は「準備があるので」と言い残し作戦室をあとにした。
「誰がヘリを操縦するんですか?」
仲里が質問をする。
「私よ」
しれっと白木が言った。
「メカは白木に任せておけ。残りの俺達は、奴を狙撃しやすいように追い立てる」
「了解」
*
「目標を捕捉!追跡します」
『了解!楽に狙撃できるようにする。待ってろ』
無線から東山の声がする。
「大丈夫です、俺に任せて下さい。一発で仕留めます」
しばらくの沈黙の後、
『……分かった。任せる』
そう言って無線が途切れた。
距離500m、ヘリの揺れ、大気の状態、目標の移動速度、行動の予測、すべてが南野の頭の中で組み合わせられる。
「いまだ」
同時に引き金が引かれた。発射された弾は空を切り、目標を貫いた。
2mもの巨体は倒れこみ動かない。
「目標撃破、あとはよろしくお願いします」
『今度こそ任せろ』
東山が行った。
*
初代と仲里は「平良」の表札が掲げられた家の前に立っている。後ろでは、南野と北見が見守っている。
狙撃作戦の翌日、下水道でCHN-M03の死骸が発見された。北見と仲里との戦闘によるものだと判明した。
そして、もう1つ重要な任務を課された。
初代は、震える手でインターホンを押す。
「はぁい」とドアが開く同時に踏み込んだ。
「BSC対処法8条に基づいて強制捜査します」
「息子さんの部屋はどこですか」
扉を開けて回る。「何ですか!止めて下さい」と母親が激しく抵抗する。
「悠紀君がBSCを飼ってるんです!」
初代が怒鳴り声をあげると、母親はへたり込んでしまった。
「そんな……」
2階に上がり、1番初めのドアを開く。
そこには、悠紀とシロがいた。
「…お兄ちゃん?お姉ちゃん?」
すかさず仲里が持っていたケージにシロを入れる。
「何するんだよ!」
叫びながら飛び掛かろうとするのを初代が止める。
「仲里さん、行こう」
組み付く悠紀を振り払い2人は階段を降りた。
「友達じゃないの!!どうして親友を奪うんだよ」
悠紀は泣き叫ぶ。
「失礼しました。後で詳しい説明がありますので」
それだけ言うと2人は振り向くことなく玄関を出た。
仲里は唇を噛み締め何も話さない。そんな仲里に北見は、
「よくやったわ」
優しく声をかけ、抱きしめる。
「任務完了しました!」
「ご苦労さん」
初代は1人歩いていく。
南野が後ろから声をかける。
「おーい、男が泣いていいのわ妹の結婚式だけだぜ」
立ち止まって、振り返えったその顔は泣き崩れていた。
「俺!妹いません!!」
初代は走り出した。
グダりました……すみません
多分読んでる人もそんなにいないと思うんですけど、すみません。
自分で読んでてもよく分からない話でした、次回頑張ります