2-2.人と鬼の狭間で
「市街地だからな。銃器の使用には細心の注意を払え。ただ…」
「それに臆病になるな。ですよね?」
北見が言った。仲里はそのとき北見から殺気のようなものを感じていた。
「よし、わかってるな。目標は発見次第殲滅だ。以上」
西村と初代、北見と仲里、東山と南野でバディを組み、3方面から索敵を開始する。
装備はWDUが独自に開発したDA-2機関けん銃、愛称"マルニ"である。人識別システムが搭載されており、人に向けるとトリガーが引けなくなるという安全性を誇る。しかし、対BSCでは1分間に1500発という性能を発揮する。
「副隊長、マルニで大丈夫ですかね」
前を歩く西村に聞く。
「どういう意味?」
「いえ……もし前みたいなとんでもない奴だったら、効きませんよね」
「そのときは殉職するしかないな」
西村は笑いながら答えた。
開始から2時間が経過しているが発見の報告は入らない。嘘のように静寂な夜、唯一聞こえるのは自分達の足音だけである。
そんな静寂を乾いた連射音が切りさく。
『こちら仲里、目標を発見。援護願います』
無線が入る。
初代はすぐにGPSを確認する。
「東に400mです」
「急ごう」
西村と初代は走り出す。
*
敵は素早く動きまわり北見達を翻弄する。
「何やってんのよ!打ち続けなさい」
「でも……」
仲里は民家を気にしてトリガーを引くのをためらっているのだ。
「あんた、死にたいの!」
その時、鋭い爪が北見を襲った。
初代と西村が駆け付けると、倒れた北見と叫びながら弾切れになったマルニのトリガーを引き続ける仲里がいた。
「北見さんを頼む」
西村は仲里に近づいていく。
「もういい」
そう声をかけても、トリガーを引き続ける。西村はマルニを押さえ付け、しっかり目を見て話かける。
「やめるんだ」
仲里は崩れ落ちるように座りこみ、子供のように泣きだした。
「副隊長、出血が止まりません」
北見は「奴を追って」と呻くように声を出している。
「東山、北見が負傷した」
無線で状況を報告する。
『……任務は中止だ。北見を収容して病院に送る。待ってろ』
3分後、南野が運転するDTFの車両が到着した。
「早く乗せて下さい!」
初代と西村は後部座席に北見を横にして入れる。
「副隊長は助手席にお願いします」
「初代君、仲里さんのことは頼んだよ」
西村がそう言い、車に乗るや否や。サイレンを鳴らしながら車が走り出す。
初代の目にはランプの赤い光がしっかりと焼き付いた。
*
「私のせいだ」
本部から迎えにきた白木が運転する車の中で、仲里は泣いている。
「北見先輩なら大丈夫だよ」
しかし、仲里は泣き続けている。初代はそれ以外にかける言葉が思いつかなかった。
「お前の涙で何か変わるのか……泣いてる暇があったら強くなれ」
東山が突然怒鳴った。初代はその迫力に驚かされた。そして、仲里も泣き止んだ。
車が本部の駐車場に着くと白木が口を開いた。
「仲里さん、行きましょうか」
仲里は白木に連れられて行った。初代は東山の後ろを歩いてついていく。
「隊長、あんな言い方しなくても……」
「あいつのためだ。お前も強くなれよ」
初代は反論しようと思ったが思い止まった。東山の背中がなぜか寂しそうに見えたのだ。
北見の状況が分からないまま、日が登り朝となった。東山の携帯がなったのは午前9時のことだった。慌てて東山が電話に出る。
「どうだ?北見は無事か」
『命に別状はありません。しばらくの入院が必要みたいです』
南野の報告に安堵が広がる。
(本当に良かった)
仲里は心の底からそう思った。