番外編.南野公康の休日
休みの日に一体何があったのか!!!
「南野!北見!」
「はい」
俺と北見は隊長に呼ばれた。
「お前達が休暇1号だ。明日の任務が終わり次第ゆっくり休んでくれ。以上」
1ヶ月ぶりの1日休暇だ。正直、急に休みになっても思いつくことがない。
とりあえずあいつらに連絡してみるか。
*
自分の部屋に戻り、携帯を開く。
仲の良い奴を何人かpick upして電話をかけてみる。
呼び出し音がなる。
プツ
「もし……」
『留守番電話サービスに接続します』
まぁ予想はついていた。仲の良い奴はみんな警察官だから忙しいのだろう。ただ、8人中7人とは……
最後の1人に発信する。
プツ
『どうしたんすか?先輩』
「よう!須藤。元気か?」
『まぁ。で、何かようすっか』
「ああ……明日暇か?」
『ちょうど非番っす。あ、どっか行くんすか?なら海しか行きたくないです』
「海……」
『夏と言えば海と女で決まりですよ。じゃあ、8時に迎えに来て下さい』
「ちょ、まっ!」
ブツ
須藤は、俺が交番勤務のときに後輩として入ってきた。相変わらず先輩に対する礼儀を知らない奴のままだ。
顔は福山雅治に阿部寛を足して2で割ったような感じだ。まぁ、この説明で伝わったことはない……要するにイケメン。若干、軽い感じがたまに傷になる。
「海……まぁいいか」
俺はあの鰐のことを思い出していた。
*
朝起きてみると、太陽がギラギラと光輝き絶好の海水浴日和だった。
「さて、行くか」
荷物を積んで、車を出す。
須藤の配属は八王子市で、まだ独身寮に入っている。
俺がいたのは2、3年だったが懐かしく感じる。
寮の前に車を止めるとすかさず須藤が乗り込んで来た。
「どうもっす」
「どうもじゃねぇよ。先輩をこき使いやがって」
「誘ったのは先輩じゃないっすか」
須藤は少しもビビらないから正直疲れる。
「で、どこの海だ?」
「湘南でお願いします」
「しょうがねぇな」
車を走らせる。
「先輩!」
「なんだよ」
「タクシーみたいっすね」
「うるせぇ」
「後で酷い目に会わせてやるからな」と心に止めておいた。
この時期の平塚方面に向かう道はえらく渋滞する。
おかげで須藤の無駄話を長く聞くハメになった。
結局着いたのは11時過ぎ。
ここは東京から日帰り海水浴も出来、家族にも人気のスポットで、ビキニのお姉さん達も一杯いる。
「やっぱいいっすね」
「あんまり、キョロキョロすんな。疑われるぞ」
「大丈夫っすよ。一応は警察官ですよ」
*
トボトボと須藤が歩いてくる。
「遅かったな。待ちくたびれぞ」
「なかなか信じてもらえなくて……上司に電話しましたよ。カメラすら持ってないのに」
「まぁ、お前が悪い」
須藤はあまりにもキョロキョロしてたもんだから、事務所に連れていかれた。
しょんぼりした姿は同情を誘うが、ざまあみろとも思う。
「決めました。自分、彼女作ります」
また妙な決心をしやがった。
「彼女と来てたら、こんなことにはならなかった。違いますか」
「確かに、そう……」
須藤は女の子に駆け寄っていっていた。
「それが駄目なんだよ」
俺は1人呟いていた。
須藤は20回あまり撃沈を重ね心が折れて、戻ってきた。
「めちゃめちゃタイプな子がいたんですけど、怖いお姉さんが睨んでくるんですよ……」
「そっか、可哀相にな」
適当にあしらう。
「ひどいですよー」
「そうだな。じゃあ泳いでくるから、荷物番してろよ」
せっかく海に来たのに泳がないのはもったいない。トレーニングもかねて、とにかく泳ぐ。
周りからしたら変な奴だと思われるだろうが関係ない。
1時間ちかく泳いで海からあがってくると須藤が駆け寄ってくる。
「先輩、さっき話した女の子がピンチです」
「お前……警察官だろ」
「僕は文系なんで」
先輩には強いが、喧嘩なんかには滅法弱い。
須藤が指差す方を見ると、女の子が男3人に囲まれている。多分、強引なナンパだろう。
「しょうがねぇな」
男に向かって歩いていく。
「嫌がってるんだからやめとけ」
「そうだ!」
黙ってくれ須藤。
「何、この子の彼氏かなんか」
「まぁ違うな」
「じゃあ口挟まないでくんないかな」
如何にもチャラチャラした男で、喋り方から腹立たしい。
俺の怒りのボルテージが上がってくる。
男の1人が女の子の腕を掴んだ瞬間、限界に達した。
「おまっ……!」
その瞬間、男の1人が吹っ飛んだ。状況を飲み込めないうちに2人目、3人目とDOWNしていく。
呆然としていると視界の端に何かが入ってきた。
ゴッ!!
ゆっくりと倒れていくように感じた。須藤の声が遠くに聞こえる。
この感じ……初めてじゃないな。
俺は意識がなくなった。
*
ここはどこだ。
周りが暗くなっている。
「何時になっちまったんだ……」
「7時よ」
隣から聞き覚えのある声が聞こえてゾッとした。
「き……北見?」
「油断してるからそうなるのよ」
「ビックリしたわ。いきなり上段まわし蹴りとはな」
「訓練のときは避けてるじゃない」
「訓練と実戦は違うだろ。あー流石に効いた」
まだ頭がガンガンする。
「ところであの子は?」
「美奈子のこと?さっき須藤って人が送っていったわ」
さすがだな……あいつ。先輩を置いていくしたたかさ。
「美奈子って知り合い?」
「……妹よ」
俺は盛大に吹き出した。
「もう1発くらいたい?」
「いやーやめときます」
強い海風が吹き付け、暑さが和らいでいく。
「家族、あの子しかいないのよ」
いつもは冷静で強い女性だが、今日は違う。何と言うか、悲しげな感じがする。
「泣きたいときは泣けよ」
「南野……やっぱりあんたは馬鹿ね」
「そうかもな」
いつもの調子に少しほっとする。
「私は泣かないわよ。強くなるって決めたから」
「了解。じゃあ基地に戻るか」
俺は立ち上がって駐車場に向かって歩き始める。
後ろからキーが投げられた
「それ私の車のキーよ。あんたの車は後輩が乗っていったわ。」
須藤、次の休み覚えておけよ。
須藤のことで頭が一杯で油断していたとき
「ごめん……ありがとう」
波に掻き消されそうな小さな声だったが確かに聞こえた。
俺はそれだけで嬉しくなった。
「どういたしまして」
俺も小さな声で返す。
星の綺麗な夜だった。
読んでくれた方々に感謝します。
相変わらずの稚拙さ。読んでて若干恥ずかしいです。
うまくなれるように頑張ります。