3-3.ヒーローの条件
「侵入を許すなんて、使えんな」
「てめぇ!仲間が2人死んでるんだぞ」
「井下、やめろ!」
園田が権堂に掴みかかろうとした隊員を止める。
SATと特殊戦部隊の隊員が小競り合いを始める。
「少しは黙ってられないの」
冷たい顔をした北見が間に入る。
「なんだこの女!」
瞬間、その男は床に沈んでいた。
「聞こえなかった?黙れっていったのよ」
あまりの迫力に静まり返る。
「北見、その辺にしとけ。問題とすべきは侵入経路だ」
北見を諌めながら東山が言った。
「お前らのミスだろ」
権堂がつっかかる。
「それは否定しませが、問題はより深刻だと考えられます」
あっさりと非を認められたことで、権堂は非難の矛を畳むしかなかったのか口を挟まない。
「ポイントはトイレから現れたということ」
「まさか……屋上の貯水タンク」
園田が指摘する。
「馬鹿か。それなら他の所からも出る。そもそも、屋上にいたなら、ヘリに乗るところを襲うだろ」
強い口調で権堂が否定する。
「いや、そのまさかです」
「根拠のない、戯言だな」
「知性があるんですよ。少ない獲物を我慢して、多い獲物を狙った……」
全員が息をのんだ。BSCは何らかの生物を主体として創られる。創造の過程で様々な能力を付与することも可能である。しかし、知性の付与が成功したという記録は公式には存在しない。
「本部に連絡する。警備を怠るな」
権堂は離れて、本部と連絡を取り始める。
「屋上を確保する必要があるな」
東山が難しい顔で呟いた。
*
「本部に連絡して、すでに任務を完了したDシェルターのヘリをこちらに回すよう手配した」
「西村副隊長早いですね」
初代が感心したように言う。
「あそこはあいつが指揮してただろうからな」
合理主義者の西村にごり押しは通用しない。まして論戦を挑もうなどとは愚かの極みとも言える。唯一、西村に勝てるのはここにいる東山だけである。
「援軍は来ないんですか?」
田井が尋ねる。
「そんなの来るわけないだろ」
吐き捨てるように権堂が言う。
プライドだけは高い権堂がそんなことをするわけがない。
「屋上の安全を確保すべきだと思いますが」
東山が進言する。
「お前はいちいち口を挟むな。早坂!隊の半分をつれていけ」
特殊戦部隊の副隊長に命令を下す。権堂は明らかに冷静さを欠いていた。
「5人でですか?」
早坂が困惑しながら聞く。
「早くしろ!」
早坂は4人を選抜し屋上へと向かう。
「行かせていいんですか?」
初代が東山に聞くが何も答えない。
やがて激しい銃声が聞こえてきた。住民達はたちまち冷静さを失い、右往左往する。
「隊長!」
東山は目を見開いた。
「北見、初代来い!」
屋上に向かおうとする東山を権堂が止める。
「手柄は渡さ……」
東山はホルスターから拳銃を抜き、銃口を権堂に向けている。
「あんたには上に立つ資格がないんだよ」
冷たく言い放ち、屋上へと駆け出す。
権堂は立ち尽くしている。
「お気の毒ね」
北見が通りすがりに呟いた。
*
3人が駆けつけたときには、早坂ともう1人の隊員しか残っていなかった。
「撃て!」
早坂達を援護する。
「すみません。助かります」
泣きそうな顔をしながら早坂が礼を言う。
「礼は後にしろ」
屋上には14体のP01がいた。分裂によって数を増やしたのだ。
「くそ!!」
銃とP01の相性は非常に悪い。銃弾は小さな穴を空けるがすぐに修復されてしまう。
「マシンガンは駄目だ。北見、散弾銃を使え」
北見は背負っていた散弾銃に慣れた手つきで弾を装填する。
ガシャ! ドン!!!
近距離で放たれた弾丸はP01に風穴を空ける。そして、そのまま崩れさる。
「効いてるな。14体だいけるぞ!!」
東山は声を張り上げて鼓舞する。手持ちの弾を撃ち尽くした頃には、動く敵はいなくなっていた。
「終わったぁ」
早坂が笑顔で言う。
「みんな良くやった。戻るぞ」
東山も笑顔で返す。全員が階段を下りようとしたとき、
ゴポッゴポッ!
ビチャ!
嫌な音に全員が振り向いた。
タンクからP01が溢れ出ていた。さらに下の階からも銃声が響いてきた。
「下も…」
「嘘だろ…」
絶望の声がもれる。
使える装備は護身用の拳銃しか残っていない。
「ここまでか……」
諦めかけたそのとき、DTFの3人には聞き慣れたローター音が耳に響いてきた。
『諦めるのは早いんじゃないか』
「西村!」
白木の操縦するDR-Jから噴射器を装備した無数の人影が降下してくる。
「噴射!!」
命令と同時に白いガスが噴射され辺りを包み込む。
「冷たい……」
北見が呟く。
「冷凍ガスだからね。こいつらは凍らせると生きてられないんだ。アメリカが情報を隠してた」
西村が白いガスの中から現れた。
「東山、手こずってるみたいだね」
西村がにこっとして話しかける。
「別に問題なかった。お前こそ勝手にDR-J飛ばすなんてな」
「勝手に?まさか!ちゃんと許可は取った。問題ない」
笑いながら言い放つ。
「それより、下も危ない。頼む」
「それを先に言ってくれよ」
西村は南野、仲里を連れて階段を駆け降りる。
東山達もあとに続く。
ダン!
扉を開くと、住民達は片側により集まり、園田達は銃を構えていたもののP01は確認出来なかった。
「大丈夫か、権堂は?」
東山が聞く。
「何とか鎮圧出来ました。権堂さんは……子供を庇って」
園田が答える。
「あいつが……最後はヒーローになったな」
東山は悲しげな顔で言った。
「またいつ現れるか分からない。輸送を早く再開しよう」
「お前はいつも現実的だな」
「褒め言葉として受け止めておくよ」
その後、輸送完了と同時に自衛隊が陸、空から掃討作戦を開始しP01を殲滅。
この事件では特殊戦部隊67人、SAT12人、民間人874人が犠牲となった。
*
DTF作戦室
「よく1人も死なずに戻ってこれたな」
南野が安堵の表情を浮かべながら言った。
「本当に良かったです」
仲里は涙声になっている。
「そうだ、お前らに嬉しい報告がある」
東山が唐突に話しだす。
全員の視線が集まる。
「支部長から、各自に交代ではあるが1日の休暇が与えられる」
「はぁ」
「1日……」
「半日じゃないだけましね」
冷たい反応が飛び交う。
「うるさい!!本当ならヒーローに休みなんかないぞ」
「じゃあ東山は休みなしでいいね」
「……俺はヒーローじゃない!!!」
作戦室を笑い声が包んだ。
読んでくれた方々に感謝します。
まぁ相変わらずグダってますね。
キャラが定まっていないし……
次回からは、番外編ということにしてキャラ設定を明確にしたいと思います。