第49話 エピローグ(1/2)
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魔王討伐から二年が経った。
レクトが宝石を落札した直後、宝石相場は暴落した。元々加熱気味だったところに、あの宝石を巡る入札合戦が無理やり火をつけたせいか、燃え尽きるのも早く、一か月もしない間に、“魔王城から採れた珍しい宝石”としての適正な――「勇者が外国の大商人相手に全財産はたいて手に入れたものと同じ」という売り文句の分が多少上乗せされた――価格に落ち着いていった。首飾りや指輪の材料として、若者に人気らしい。
相場の暴落に合わせて、レクトの宝石の評価額も暴落した。今でも鑑定に出せば十万ゴルドくらいにはなると言われているが、買った金額と比べれば、無きに等しい。王都では「せっかくの褒賞金を、自分の分と仲間の戦士の分まで全部宝石に注ぎ込んだ勇者様」の一部始終を物語に仕立てた絵本や芝居が公開されていて、最近では魔王を倒す話よりも、この宝石の話の方が受けがいいらしい。なお、当の勇者様は自分からその芝居を見にいって、すごく面白かったと言っていたそうだ。
そのレクトが、この宝石のことで、これまでに無いほど激怒したことが、一度だけある。外国の宝石商人がレクトに会いにきて、冒険者ギルドの会議室に入って行ったと思ったら、程なくレクトの怒声が聞こえて、商人が死にそうな顔で出てきて逃げるように国に帰っていった、とのこと。同席していたガルドによると、その宝石商人がうっかり「買った時と比べればもはやゴミのような値しか付かないその宝石を自分たちが高く買ってやろう」というようなことを言ってしまったそうで、レクトが怒るのも無理はない。が、ガルドの「魔王より怖かった」は、少々言い過ぎではなかろうか。この話ももちろん、面白おかしく脚色されて芝居になっている。
エルフィは、残った自分の褒賞金、千二百八十万ゴルドを、当初の予定通り自分が経営する銀行に出資することにした。そのうちの大半は一旦国の十年借入証書の購入に回ることになるが、その金――現金があるわけではないが、銀行の財産としては確かに計上されている――と、国やギルドとの繋がりを背景に借入や出資を集め、それを元手に事業を順調に拡大しており、忙しすぎて取り寄せた魔導書を読む時間も無い、と会うたびにぼやいている。天才魔術師にして軍師にして銀行経営者でも、思い通りにならないものがある――泣く子と、仕事の予定。
ミレーヌ自身の褒賞金、残り四百四十万ゴルドをどうするかが、最後まで決まらなかった。もちろんヴォルスやエルフィにも相談して、あれこれと助言と協力はしてもらったが、結局はミレーヌが決めるしかない。散々悩んだ末に、エルフィの銀行を通して二百万を投じ、奨学金や学校運営の支援のための基金を設立、それとは別に五十万を教育関係事業への出資金とすることにした。基金の運用と事業の計画――二つ合わせて二百五十万を、例によって十年で分割、から――の具体的な中身についてはエルフィにお任せしているが、一つだけわがままを言って、魔王が現れる前にヴォルスが計画していた神殿学校の建設再開だけ、順番を早めてもらった。基金の名称を「ミレーヌ・トルソワ教育基金」とすることだけは全力で拒否したが、奨学金の一つに名前を冠されることは、受け入れざるを得なかった。
また、ミレーヌ自身の名義で、各地の教育施設に四十万ゴルド、毎年二万ゴルドを二十年に分けて寄付することにした。ヴォルスに金額と期間の理由を訊かれ、これは寄付なので十年以上に延ばすことに対して理由は必要無いし、二万ゴルドをさらに各施設に分割するので、ミレーヌが施設に干渉しすぎると見られることもない、と説明したら、これまでで一番のお褒めの言葉をもらった。最後の百五十万は、分割した上で十年借入証書の購入に充てた。
かくして、約束された魔王討伐の褒賞金一億ゴルドは、勇者一行にしかるべく支払われることとなった。
今のミレーヌの身分は、元の神殿付き僧侶兼会計係、それに加えて「国の財務官見習い」である。
褒賞金の処理が一通り片付いた後、ミレーヌに対して、ヴォルスから国で働かないかとの誘いがあり、考えた末に受けることにした。とは言え、専門的な教育を受けたわけでもないミレーヌがいきなり国の仕事をできるわけもなく、神殿の仕事に加えて勇者一行の一員としての公的な仕事もあれば、褒賞金の後処理や基金の運用状況の確認など、銀行周りでやらないといけないことも少なくないので、まずは三日に一回程度王城に行き、ハンスを初めヴォルスの部下の財務官にくっついて国の会計の実務を学んだり、ヴォルス直々の講義を受けたりしている。ヴォルスの指導は穏やかながらも妥協は無く、いつ質問が飛んでくるか分からないので全く気が抜けない。あと、ミレーヌがうっかり安易な方向に流れようとした時に、口調だけは優しく、懇々と注意されるのが、何よりも怖い。
このように、褒賞金問題が解決した後も忙しくしていたある日、神殿の厨房で帳簿をつけていたミレーヌに、レクトが会いにきた。




