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第40話

 ***


 胡散臭い。

 ルードは、そう思った。


 ルードは冒険者ギルドに所属する冒険者である。もっとも、最近は依頼を受けるよりもギルドで事務手伝いをしていることの方が多く、魔王城の採掘にも参加していない。友人たちには冒険者を辞めて事務員に転職した方がいいんじゃないかとからかわれていて、自分でももしかしたらそうかもしれないと思うことも、無くはない。


 このところの仕事は、主に魔王城から採れた宝石の入札処理である。

 数か月前から採掘がはじまり、珍しい色合いと、魔王城産であるという物珍しさとが相まって、国内の資産家を中心に人気が高まっている。最近では外国からも入札にやってくることがあって、今応対しているのもそのうちの一人である……少なくとも本人はそう言っている。


 少し前に採れた一際大きな宝石が競売に出てくることは、ギルドの中でも噂になっていた。ごく小さな石でも十ゴルドから数十ゴルドもの値がついているだけに、この宝石がいくらになるかで盛り上がっていて、お祭り好きの連中が企画して落札金額を当てる賭けまで始まっている。二百から三百あたりに予想が集中する中、ルードは千以上に張った。千ゴルドと言えばゆうに数年は遊んで暮らせる額であり、それがこんな石一つに費やされるのかと思うと、真面目に事務仕事をやっているのが馬鹿馬鹿しくなってこないでもないが、かといって一獲千金を求めて冒険に出ようという気も無い。どちらかというと、一億ゴルドを貰えるからって魔王を倒しに行く勇者の方がおかしいのだと、堅実を旨とするルードは思う。


「これ、いいですか?」


 ルードの目の前で入札登録の書類を書いていた客――入札希望者――が訊いてくる。訛りが強くて言葉が少し聞き取りにくいが、言ってる意味は分かる。


「はい、確認します……大丈夫ですね。身元を証明するものは持っていますか?」

「はい、持っています。これです」


 客が荷物から巻物を出して渡してくる。

 巻物を開いて内容を確認する。本人と保証人の名前らしきものがあるが、外国の言葉なので読めない。どうせ書類はギルドから国に回して確認するので、ルードがその内容を気にする必要は無い。ただ、入札登録書類に書いてあった身元保証人の名前は少し気になった。ドナーティ一というのは、確か海の向こうの大国、フォルセナの豪商だ。つまりこの客はドナーティ家の誰かの代理人、ということになる。身分証明書が本物ならば、だが。


「はい。お預かりします。こちらで内容確認した後お返ししますので、三日後にまた来てください」

「分かりました。三日後、また来ます」

「身元が確認できましたら、入札が可能となります。入札のやり方は分かりますか?」

「分かりません。教えてください」

「では、説明します。身元確認後、入札資格証をお渡しします。これが無いと入札できませんので、大事に保管してください」

「分かりました。大事にします」

「入札が始まりましたら、この受付で入札資格証を見せていただき、入札金額記入用紙をお渡しします」

「分かりました。記入用紙」

「その記入用紙に入札金額を書き、あちらの箱に入れてください」


 金額記入用紙は案件ごとに番号を振って分けられているので、一つの箱に全ての案件の入札用紙を入れるようになっている。


「分かりました。箱に入れます」

「入札期間は三日間となっています。入札が開始されると、三日目の夕方に入札が締め切られ、翌日の昼に最高金額と入札者が掲示されます」


 つまり、一つの入札案件につき、三日おきに結果の確認と集計の仕事が出てくる、ということになる。ルードは正規の職員ではないのでそちらの手伝いはしていないが、最近は複数の入札が同時に走ることも多く、なかなか忙しそうである。


「分かりました。見に来ます。自分の名前、あれば、落札ですか?」

「いえ、最高金額が掲示されてから、さらに三日間、その金額を超える入札が無ければ、落札となります」

「分かりました。三日間、自分を上回るもの、無ければ、落札」


 最高金額を自分で更新することも可能ではあるが、それをやる入札者はまずいない。競合が発生した時はたいてい三日ごとに一位が入れ替わることになる。掲示が更新される時は、結構な人数が集まって来て、これもちょっとした催し事のようになっている。


「他にお訊きになりたいことはありますか」

「ありません。ありがとうございました。三日後、来ます」


 そう言って、ドナーティ家の代理人を名乗る客は帰っていった。


 胡散臭い。

 あらためてルードは思った。

 別に不審な点があったわけではないが、「ドナーティ家の代理人」を名乗っている時点で既に胡散臭い。とはいえ、そこの詮索はルードの仕事ではない。身分証は国が念入りに確認するのだろう。

 身分証に入札書類を添えて確認依頼の箱に入れていると、次の客がやってきた。


「はい、こんにちは。入札登録ですか?」


 数日後、身分証が本物であるとの結果が国側から帰ってきた時には、このことはもう忘れていて、他の書類と一緒にそのまま処理を進めた。

 ルードが再びその客のことを思い出すのは、一回目の入札結果の確認で、五十万ゴルドなどというとんでもない金額を見て、驚愕の叫びを上げた後のことになる。

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