表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

となりの体温

作者: Uki
掲載日:2026/03/07

 朝の教室は、まだ少し冷たい。


 窓の外は春なのに、教室の空気だけ冬が残っているみたいだ。


「……寒」


 小さくつぶやいた瞬間、隣の席の椅子が引かれる音がした。


「おはよ」


 いつもの声。


 顔を上げると、君が笑っている。


「おはよ」


 僕が返すと、君は机に頬杖をついた。


「手、冷たそう」


「朝だから」


「貸して」


「え?」


 言う前に、手首を掴まれた。


 びっくりするくらい自然に。


 君の手は、思ったより温かい。


「……あったか」


 僕じゃなくて、君が言う。


 こっちの心臓のほうが、よっぽど熱いのに。


「離して」


「なんで」


「恥ずかしい」


「誰も見てねーよ」


 ちらっと周りを見る。


 確かに、まだクラスは半分も来ていない。


 でも。


 僕は知ってる。


 こういうのって、すぐ噂になる。


「……いいじゃん、別に」


 君は本当に気にしていない顔をしている。


 ずるい。


 僕だけが、こんなにドキドキしてる。


「お前さ」


「なに」


「手、めちゃ冷たい」


「だから朝だって」


「俺で温めとくわ」


 そう言って、ぎゅっと握り直す。


 逃げようとすると、逆に強く握られる。


「動くな」


「なんで」


「冷たいから」


 理由になってない。


 でも、嫌じゃない。


 むしろ。


 ずっとこのままでいいと思ってしまう。


 そんな自分が、ちょっと怖い。


 君は人気者だ。


 部活でも中心で、クラスでもいつも誰かに囲まれてる。


 僕は、たまたま席が隣。


 ただそれだけ。


 なのに。


 昼休みになると、君は必ず戻ってくる。


「やっと座れる」


「どこ行ってたの」


「友達捕まるんだよ」


 そう言いながら、僕の机に肘を置く。


「お前のとこ落ち着く」


 さらっと言う。


 そういうとこだ。


 無自覚。


 距離が近い。


 たぶん、僕だけが特別なわけじゃない。


 ……分かってる。


 分かってるのに。


 期待してしまう。


「なあ」


 君の両目が僕を見た。


「今日さ」


「うん」


「帰り、一緒帰れる?」


 胸が跳ねる。


「……いつも帰ってるじゃん」


「今日は部活ない」


「そっか」


「だからゆっくり帰れる」


 嬉しそうに笑う。


 そんな顔をされると。


 まるで僕が、特別みたいだ。


 放課後。


 校門を出ると、春の空気がやわらかい。


 並んで歩く。


 肩が、少し触れる。


「今日さ」


 君が言う。


「寒くない?」


「昼は暖かかったけど」


「夜は冷える」


 そう言って、突然マフラーを外した。


「ほら」


 僕の首に巻く。


「え」


「貸す」


「いいよ」


「いいから」


 そのまま、自分の首にも巻く。


 同じマフラー。


 距離が近い。


 近すぎる。


「……ねえ」


「ん?」


「これ変じゃない?」


「なにが」


「距離」


「寒いから」


 またそれ。


 言い訳みたいな理由。


 でも、君の耳も少し赤い。


「お前、顔赤い」


「寒いから」


 同じ言葉を返す。


 君が笑った。


「それ便利だな」


 バス停が見えてくる。


 この時間が終わる。


 少しだけ寂しい。


 すると、君がぽつりと言った。


「俺さ」


「なに」


「お前と帰る時間、好き」


 足が止まりそうになる。


「なんで」


「落ち着く」


 まっすぐな声。


 でも、それはきっと。


 友達としての“好き”。


「……そっか」


「なにその顔」


「普通」


 君は少しだけ考えてから言った。


「明日も一緒帰ろうな」


「うん」


 それだけで、胸がいっぱいになる。


 恋じゃなくてもいい。


 特別じゃなくてもいい。


 ただ。


 この隣にいられるなら。


 バスが来る。


 僕はマフラーを外す。


「返す」


「いいよ」


「でも」


「また明日使う」


 当たり前みたいに言う。


「一緒帰るだろ?」


 笑う。


 その笑顔が、あまりにもまっすぐで。


 僕は思う。


 この気持ちは、まだ言わなくていい。


 だって。


 君の隣は、こんなにも温かいから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ