真実の愛ってやっぱり素敵ね!
誤字脱字報告いつもありがとうございます。
ドロドロ王宮姉妹喧嘩part3はーーじまーーるよーーー!!!!
──真実の愛って、とても素敵。たった一人にだけ捧げるそれは昔から女の子の憧れだった。それは、勿論私も同じ。
私の両親もそうだった。お父様はこの国の王太子で母は成り上がりの男爵令嬢。身分差の恋もとても素敵。ドキドキしちゃう。
でも物語のようにはいかないものね、父には幼い頃からの許嫁がいたし、側妃となる人だって決まっていた。
だけど、二人は折れなかったわ。お互いの愛を信じて根回しをして、愛妾としてお父様はお母様を傍に置くことを周囲に認めさせた。
お母様だって馬鹿ではなかったから、正妃となる許嫁様を常に立てて侍女として仕えることも躊躇わなかったし、側妃にも気を遣って二人の橋渡しだってしていた。お陰で第一王子に当たる男児と第一王女となる女児を互いが産んだ後、すぐに子を孕むことを許されて──生まれたのが私、イザベラ!
私、自分のことが大好きよ!お母様とお揃いの葡萄みたいな紫の瞳に、お父様譲りの麦のような金髪、顔はお父様そっくりだけど笑うとお母様譲りのえくぼが出来てとってもチャーミング!頭だってそれほど悪くないし、マナーだって正妃様が用意してくれた先生達のお陰で綺麗だし、友達だって沢山いるもの。女の子はいつだって世界で一番かわいくなきゃね!
──でも、私、不満だって勿論あるわ。
なんでお母様はいつも一緒にいてくれないのかしら、とか、お父様の前では皆優しいのに、お父様がいなくなると世話を放棄するメイドとか、あまり美味しくない冷えた食事とか、色々。
そんな時は決まって涙を抑えられなくて、これじゃあ素敵なお姫様になれないってずっと蹲っていたっけ。──それを、見つけてくれた人が私の真実の愛の相手だった。
柔らかな、光を翳すと桃色に見えるミルクティーの髪、キラキラ夜空のお星様みたいに輝く青い瞳。いつだって優しく微笑んで、内緒だよ、って言いながらお菓子やおもちゃをもってきてくれて、一緒にご飯を食べてくれて、眠れないってだだをこねたら絵本をずっと読んでくれて、抱き締めてくれた人。
小さくてかわいいものがすきで、私が飼ってるスナネズミをこっそり見に来て、それをバレてないと本気で思っていたかわいい人。
お兄様、王国の輝ける太陽、王太子ウィルフレド。私の、初恋。
幼い頃の初恋だ。年は離れていたけれど、私はまだ片手で収まるくらいの年で月しか生きていなかったし兄も子供だった。色などつくはずのない、穏やかな気持ちで終わるはずの、いつか兄妹愛に至る、ままごとのような恋。それを、
それを、私はぶち壊されたのだ。お兄様の暗殺という、取り返しのつかない方法で。
──ウィルフレドお兄様。知ってるわ。貴方が見た目通りの貴公子じゃないくらい。
知ってるわ。貴方が、ずっと正妃様を殺した側妃を憎んでいたことくらい。
よりにもよって、側妃はお兄様の妹を、正妃様の第二子をかの方が宿してるその時に毒を盛ったのだ。……姉のように慕っていた正妃様を自分の確認不足で殺してしまったと自責の念に堪えきれず、私の母はおかしくなって、父の用意した離宮に幽閉されてしまった。当然私も憎んでいる。
仕方ないわ。お母様。全てを明らかに出来たいまだからいえるけど、毒の盛り方は巧妙だった。気がつけなくても仕方がない。……仕方がない。
正妃様は美しい人だった。お兄様と同じ色の柔らかな髪に、緑の葡萄のような瑞々しい瞳。豊穣の女神様のようだと幼心に憧れていた。
私が愛妾腹と見下されているのを把握してすぐ「私達の宮においでなさい」と抱き締めてくれた人。母が慕うのも無理はない。生まれながらの王妃様。私の、第二のお母様。
その人が倒れた時のことはいまだに夢に見る。父である国王が手配した薬湯を飲んだ瞬間彼女は血を吐いて、父もなにが起こったのか分からないと正妃様を必死で抱き締めて医者を呼んで叫んでいた。
その時は一命を取り留めた正妃様だったけど、そのせいで腹の子供──妹のオリヴェイラは月足らずで生まれてしまった。毒の影響でいつ死んでもおかしくなくて、兄と一緒に泣きながら祈って、祈って。
正妃様は毒にむしばまれながらも子を産んで、回復しきれずに起き上がることなく数ヶ月後に命を落とした。
私は忘れない。美しかった秋の木の葉のようなその髪が白く抜け落ちて、白玉のようなその肌が枯れ木のようにしわがれてしまった彼女の最後を。
泣くことすら出来ずに絶望のあまり寝台に縋りつくしかできない母の顔を、自身のせいだと、薬湯を飲ませたのは自分だと謝り伏す父。優しかったその瞳を涙で濡らして、どこかを見つめるお兄様。忘れることなど出来るはずがない。
「………ふたりで、オリヴェイラを守ろう。イザベラ。どれ程苦しくとも、どれ程悔やんでも、もう二度と、母上は還ってこないのだから。」
でもその日から、日に日にお兄様は窶れていって、日に日に、その瞳は鋭くなって、まるで溶ける間際の氷のように儚くなっていった。
お兄様が死んだのは、それから三年後。同じように、変わり果てた姿で死んでしまった。
泣いて、泣いて、泣いて、涙が涸れるまで泣いて、あのお兄様がなにも残さず死ぬはずがないと立ち上がるまでに半年かかった。
「ねね、だいじょぶ?」
そう、お兄様と同じ色を持つ妹がずっと傍にいてくれたから耐えられた。持ち直せた。
そして、あのお兄様がなにも残さずになくなるなんてことはないと確信して読んだお兄様の日記。そこには薬湯を煎じた医師の潔白が証明されていた。彼はすでに拘束されて処刑されていたけれど、薬湯の成分には問題がなかったし使っていた工房にも毒となるものは見つからず、同僚くらいとしか会うこともなく、城にずっと詰めていた。…彼自身に落ち度はなかった。
なら、どこで混入したのか。誰が混入したのか。城の中の人間、それも王家に近しい者であるところまでは絞り込めていた。お兄様はほとんど断定していたけれど、証拠がないと悔しそうに綴られたその文字を読んで私は自分の人生をこの『証拠』を探すことに使おうと決意したの。
お兄様以外の男性なんて、誰も彼も同じ。私が笑いかけて少し身を寄せればだらしなく眦を下げてペラペラと色んなことを教えてくれる。
皆の想像通りの愛妾の娘らしく、少し抜けた喋り方にはしたない行動をしていれば皆が勝手に私のことを誤解してくれて動きやすかった。それで突っかかってくるまともなご令嬢には真摯に謝罪してお話しして引き込んで、少し疲れたらオリヴェイラとお茶をする。オリヴェイラは年をとるごとにますます正妃様に近づいていって、唯一私が素をだせる大切な子。
結婚相手には公爵家を選んだわ。権力があって、お金があって、私の調べたいことを調べられるくらいの情報源のあるお家。そして、王宮から距離のある、正妃様とお兄様の暗殺の犯人なりえないお家。いざとなったらオリヴェイラをつれて王宮から逃げれるように。彼を選んだ。
「……私、イザベラお姉様とのお茶の時間が一番好きなんです。」
そう、ほんのり耳を赤くして、はにかんだオリヴェイラ。私の、大切な妹。
辛いだろうに、苦しいだろうに、恨み言も泣き言も言わずに耐え忍ぶ強い子。
「お姉様の瞳は葡萄みたいで綺麗ですね。……私、葡萄が一番好きだから羨ましい。」
『イザベラの目は君のお母さん譲りで素敵だね。……内緒だけど僕も母上も、好きな色は紫色なんだ。』
あぁ、あぁ、オリヴェイラ。私、貴方を決して奪わせないわ。私の大切な人、愛しい人の血を継ぐ貴方を、私の幸福そのものの形をしている貴方を、絶対に守り切る。例え、何を犠牲にしても、必ず。
なのに、
「……イザベラお姉様……。」
泣き腫らした顔で私に会いに来たオリヴェイラ。迂闊だった。王宮から距離をとるために、証拠を集めるのに必死になっていたばかりに、私はあの子が傷つくのに気がつけなかった。
「お姉様が、お姉様が産んだのはジョシュア様の……!」
あぁ、やっぱり。
さっさと殺しておくべきだった。
──お兄様。お兄様が証拠がないといいながらも確信を持っていた犯人。その娘。親子揃って私の大切な人を傷つける、醜い女ども。
許せるはずあって?
──お兄様は毒がどういう物かも気がついていた。薬湯は誰が飲んでも身体に異常の現れないものだった。なのに、正妃様は飲んで血を吐いた。ただ、血の巡りをよくして体を温めるだけのそれで。
ならば、正妃様が薬湯を飲む前に仕込まれていたか、薬湯を口にすると同時に毒となるものを盛られていたと考えるのが妥当。そしてそもそも悪阻で食の細かった正妃様が口をつけた物は数が少ない。
果物、薬膳、紅茶にミルク、そして飴。
まず薬膳はない。これは潔白だと兄が断定した医師によって作られた物だ。事実、この薬膳は私の母も、側妃も食べている。薬湯にたいして害となる物は入っていない。
次に果物。これもない。なぜならこれはお兄様と私も口にしていた上に薬湯のご褒美で貰うことが多かった。
次に紅茶とミルク。これもない。正妃様は紅茶にこだわりを持っていて、決まった方法、決まった茶葉、決まったミルクを決まった量いれなくてはどんな些細な変化にも気がついていた。異物が混入する隙はない。
ならば、ならば、最後に残った物に毒が含まれていたと考えるのが妥当。少しでも栄養をとるために、あの時の正妃様は砂糖をふんだんに使った色んな味の飴をよく口にふくんでいた。これなら、少しくらい変な味がしたとしても見逃してしまうだろう。
……お兄様は気がついていたのだろうか。きっと、気がついていても信じたかったのではないだろうか。
飴は、エリザベータお姉様がキッチンからよくお土産でもってきた物だったから、妹を疑いたくなくて、信じたくて……口に含んでしまったのではないだろうか。
どちらにせよもう遅い。証拠は揃った。オリヴェイラを傷つけたあいつ達に心を寄せることも、考え続けるのももういやだ。
キッチンで飴を用意していたパティシエ。そのパティシエがよく材料を買っていた専門店のオーナーがお兄様と正妃様が死ぬ直前に二度変わっていた。その足取りを追うと、そのオーナーは側妃の実家である侯爵家の領地で消息を絶っている。このオーナー二人がどこからか取り寄せた薬草を何度か件のパティシエに渡していたという記録を押収し、それを使ったという証言もとった。
だから、だから私は。
「国王陛下。お耳に入れたいことが。」
あの日から、瞳から色を失い笑うことのなくなった父に、調べた全てを暴露することにしたのだ。
真実の愛って素敵ね。お姉様。どんなに醜く老いさばらえても、貴方の王子様は貴方の元に駆けつけたわ。でも、そのせいで貴方の王子様は死んでしまった。当然よね。
平民が今にも死にそうな王女を運ぶ馬車をこじ開けて、あろうことか抱き締めたのだから。不敬よね?
大丈夫よお姉様。貴方もすぐそちらへ行けるわ。貴方の体を使って、毒が本当に毒になるのか確認できたのだから、すぐあちらに行けるわ。
貴方のお母様もずっと一緒にいてくださるって。可哀想に、女王になると思ってかわいがってきた娘が酷い姿になったのを金切り声を上げて悲しんでるらしいわ。…あぁ、貴方はずっと一緒にいるから勿論知っているわよね?
お父様。お父様はもう休みたいんですって。心をとっくに壊していたのに、王たる責任感といずれかならず犯人を解き明かすという気力だけでもっていたから、本当に小さくなってしまったの。最後の仕事としてお姉様のお爺様のお家を、お姉様の不祥事を使って降爵させた上に色々やってるみたい。お父様も怒っていたのね。
凄いわよね、愛って。皆が皆、誰かを愛していたからこんなにも悲惨なことが起こっちゃったし、そのせいで幸せになる人もいれば不幸になる人もいる。でも、愛する人と一緒にいるのって幸せなことでしょう?
私、今幸せよ。だってオリヴェイラが笑っているんだもの。
お兄様と同じ色を持つ、私の生きる全て。あの子が幸せだと言うのなら私、この汚い手を一生かくして生きていくわ。……あの子が望むから、貴方の娘の優しいお母さんになってあげる。
ほんとは縊り殺したいくらい憎いけど、疎ましいけど、そんなことはお兄様も正妃様も望まないのは分かっているから。
──優しいお母さんになるわ。絶対に利用しないし傷つけない。この子が貴方みたいに育たないようにずっと見続ける。愛してみせるわ。ええ、嘘ってはき続ければ本当になるのよ?私がその証拠。
「真実の愛ってやっぱり素敵ね!」
【~~今更過ぎる登場人物~~】
オリヴェイラ:『ねぇ、お姉様。それくださいな。』の主人公。第三王女。エリザベータに多大なる憎悪を滾らせている。次期女王として頑張りつつ子供は王子を二人王女を一人産む。エリザベータと元旦那以外には気弱かつ穏やかで優しい性格。お人好しともいう。キレるとやばい。
エリザベータ:『これだけけして手放せない』の主人公。第一王女。詰めが甘く傲慢で楽観的な恋愛脳。両親の悪いとこ受け継いだある種のサラブレッド。キレると酷い。
イザベラ:真実の愛によって生まれた今作の主人公。第二王女。冷酷で残忍。オリヴェイラ政権の闇はこいつが全部引き受ける。嘘を本当にするのが得意なので娘(姪)のことは本当に愛せる。キレるとエグい。
ジョシュア:王女二人の人生を狂わせた戦犯。エリザベータとの真実の愛にいきて斬り殺された。
隣国の第二王子:一般通過入り婿。子煩悩。幸せに生きれる。
国王:三姉妹の父親。真実の愛と最高のビジネスパートナーが同時にいなくなっちゃって心が壊れた。国を平和に存続させるためだけに気力だけで生きてる。オリヴェイラ政権が安定したらそっと隠居して真実の愛と死ぬつもり。
正妃様:オリヴェイラとウィルフレドの実母、イザベラの義母。夫の真実の愛を『しょうがないなぁ』と笑って許した芯の強い優しい人。この人が殺されたことが全ての始まり。
側妃様:侯爵家出身。娘を王位につけるために何でもやった。全て無駄になった。夫の愛を得ようとしたがそれも真実の愛があらわれてしまったのでできなかった。娘に先立たれてから長く(生き地獄で)生きる。
ウィルフレド:第一王子。姉妹全員の人生を狂わせた戦犯。別に妹を信じたから飴をなめたわけではない。部下もほとんど人生を狂わされている。一番王の素質があった。
姪:エリザベータとジョシュアの娘。イザベラの養子(戸籍上は実子)。名前はアンネマリー。愛されてスクスク育つ。本当を嘘だと認識したとき、次の地獄が幕を開けるかもしれない。ならないかもしれない。