表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夏のゴーストライター、きみは天使の分け前を  作者: 陽野 幸人
第四章 告白の夏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/101

告白の夏 9

『うん。一般企業だと色々な年齢の人、色々な人と関わるんだよ。

先生も年齢はバラバラだけど、子どもと生活する時間が圧倒的に多いから』


「業務の大半が子どもと対面することですからね」


『それに上司と部下、先生と生徒の関係性は違うから。

大学を卒業して、いきなり生徒から先生と呼ばれる。

医師も歯科医師も先生と呼ばれるけど、彼らは患者さんとのやりとり。

先生と生徒。これは最初から相手に対し優位な立場が存在しちゃうから。

そこで大きな勘違いが生まれちゃうんだよ』


「なんの実もない人間が偉そうにできる職業ですからね」


『まあ、ね。一般企業は多かれ少なかれ虐げられたり、叱責されたり、

成績を求められたり、物事に立ち向かう精神が養われるし、

部下ができて指導することで自分も成長するんだよ。

これは会社内だけじゃなく人としての成長に繋がるよね。

色々な年代と密に関わることで成長できる。色々な経験が人を成長させる。

先生にも序列はあるけど上司部下という関係として密接に関わるか、

と言えば、そんなことはないからね。多くの時間は子どもたちと過ごすから』


 小中高大という流れを経て教師になる。

中には社会人を経験してから就く者もいるけれど。


「ほとんど同じ経験をした者同士以外と触れ合うことがないから、

精神が止まったまま……幼稚な人間のままという可能性があるということですか。

その子どものような大人が子どもに教えているということですね」


 小学校時代に多くいた、すぐに癇癪を起こす教員たちを思い出す。

今考えても普通の人間なら怒らないところで自身の感情を爆発させていた。

子どもが駄々をこねるように。自身の至らなさを棚に上げ職員室に隠れてみたり。

まるで、そのようなマニュアルがあるかのように、よく聞く話だ。


「父の友人が自宅に来た時に興味深い話を聞きました」


『なに?』


 母の料理を食べ絶賛していた表情と相反する顔を思い出す。


「その人は都内にある旅行会社に勤務しています。

昔って社員旅行というものが多くあって、教師たちも同様の旅行があったそうです」


『へー、そうなんだ。社員旅行って楽しそうだね』


「そうですか? 今は少なくなったようですけど。

――その人曰く、仕事をしていて一番関わりたくない職業が『教師』のようです」


 茜音さんは三本の指を口元に当て『あー』と、納得したような顔をする。


「酒を飲んで暴れたり行く先々や宿泊施設に迷惑をかけるそうです。

誰も止めずに共に暴れる。人間性を疑うと笑っていましたよ。

おそらく五歳児のような感じなんだと思います。

教師なんて、そのようなものなんですよ」


 父の友人は教師の団体旅行が入ると同僚同士で押し付けあっていると苦笑していた。


『そうだねー。私もまともな先生って、そんなに見たことないかも』


「小児性愛者、一般常識の欠如、精神的に未熟。

教師が生徒に、わいせつ行為、性的暴行、盗撮、不必要な暴力、イジメにも加担。 

もう無理ですよ、この国の教育は。教える側が人として破綻しているんですから」


『ちゃんとした人もいるんだろうけど……ね。

良識ある先生はモンスターペアレントで心を痛めちゃったりもするだろうし』


「その点もおかしいと思いますよ」


『どういうこと?』


「モンスターペアレントを言いくるめることもできない無能なんですから。

そこそこ成績の良い営業マンなら普通に対処できますよ。

クレームに関して言えば、カスタマーセンターなどのほうが大変だと思いますけど」


『あー、確かに老若男女からのクレームが来るもんね』


「授業、準備、事務処理、モンスターペアレント、人間関係、残業。

そういうものに疲弊しているアピールをするのであれば教師を辞めればいいんですよ。

誰もその人に教師をやってほしいと頼んでないんですから。

自分が選んだ道で文句を言っていることが、どれほど愚かなことかを理解していない。

辞めたければ辞めればいい。できなければ辞めればいい、そう思います。

誰も頼んでいないんです、誰にも強制されていないんです。

その人でなければいけない仕事なんて、この世にないんです。

そういうところでも勝手に騒いで、正に大人じゃなくて子どもですよ」


『朝陽くん、なんか今日すごく怒ってる……ね』


 凪咲の件で教師がした行動の怒りは胸の辺りに渦巻いている。

さらに今まで見てきた教師たちの顔も浮かび、負の感情はレンガのように積み上がる。


 世の仕事の大変さにしても父の背中を見ているから多少は理解しているつもりだ。

最近はずいぶんと減ったけれど、六時には自宅を出て日付が変わるまで仕事をしていた。

常に気を張っている仕事のようで休憩もほとんど取ることができないようだ。

人と密に関わり連携する業務のため気苦労も絶えないらしい。

父の口から教えられたことではなく母から聞いたことだ。

現代の働き方として正しいとは思わないが、

教師だけが特別に長時間労働、激務、心労が多いわけではない。

他にも大変な仕事はいくらでもある。

教員は給与が少ないと言うけれど、平均年収は一般人より二百万円以上は高い。

定年退職金も二千万円を超えるし年間二回の賞与も多額だ。


 しばらく瞼を閉じていた茜音さんは何やら思案している。


『――凪咲ちゃんのイジメのことだけどさ、

朝陽くんは、どうしてイジメが無くならないと思う?』


「人が……人であるからです。人は他人と比べ優劣を明確にしたいと考えます。

人に嫌がらせをして自らが上であると錯覚し安定を図る場合もあると思います。

それに自身と違うものは跳ね除ける、動物にも同様のことがあります」


『私たちは人間だよ。実害のない相手に対して攻撃する必要はないよ。

それとさ、すべてのことをイジメという言葉で片付ける、これは論外だと思う。

イジメという行為はよくないとしても、なにかがある場合も一括にするから。

だから、問題解決にならない。

なんでもダメ、ダメ、って楽なんだよ。物事の原因を追求しなくていいから。

さっきも言ったけど、先生は心の成長が止まった人が多いから、その人には解決できない』


「凪咲の場合に限っていえば、人を助けたが故に目を付けられたということですけど」


 目の前には早めに色付きを変えた葉っぱが二、三枚降ってくる。


『人に嫌がらせをしたいだけのイジメもあるし、様々な要因が絡んだイジメもあるよ。

イジメられた側とイジメた側という対立構造だけで見ると、なにも変わらないよ』


「どうしたら変わると思いますか?」


 茜音さんは日が傾いた遠くの空を見つめる。


『双方の話、双方の言い分をしっかりと聞くこと。イジメという行為はよくないよ。

でもね、イジメられた側になにかの落ち度があった場合。

これを見ずに加害者だけを責めると双方にとってよくないよ。

両者の話をしっかりと聞かないといけない。

これは、本音で。誘導尋問や定型文じゃなくてね』


 確かに被害者、加害者という構造はイジメという行為に対してだ。

イジメに至る根本的な原因に辿り着いているのだろうか。


『イジメという行為はダメ。大人の社会にもある。

だからこそ、お互いが考えないといけない。なぜ、そうなったのか。

加害者も被害者も、これからを生きていくんだから、

直すべきところがあるなら、お互いに直すべきなんだよ。

加害者がすべて悪い場合は、徹底的に指導するべきことだけどね』


「すべてイジメた側が悪い、という安易な思考は改めるべきだ、と」


『うん。なにかがあるからイジメがある。

前に平良さんが言ってた。イジメの多くは双方の家庭内に問題があるって。

当事者は、そんなこと無いと言うけど、一番見るべきは家庭内だって』


「家庭……ですか」


『うん。今の話を誤解してほしくないんだけどイジメはダメだよ。

落ち度がない被害者の子もたくさんいるよ。

そうじゃない場合、双方の話を本音で聞かないと根本の解決にはならないよ。

――今はさ、性的なことを動画で撮るなんて、本当に最低なこともあるよね。

人として本当に最低なことだよ。撮られた側はどうしようなく心が壊される』


「そうですね……ネットに出されでもしたら回収できないですからね」


『私が知り合った子の中には性被害にあっている子も多くいた。

平良さんに相談したことがあるの。そしたら教えてくれた』


「なにをですか?」


 視線をアスファルトへ落とした彼女は話を続ける。


『押収品……動画なんかは警察、検察、裁判官に見られちゃう。

被害者としてプライバシーの配慮はされるけど裁判にも出ることになる。

だから、被害者は二次被害にあうって。もっと酷いことも起こるみたい』


「酷いこと?」


『盗撮動画、性的暴行の動画、性的イジメ、児童ポルノが警察に押収されると、

コピーしたり元の動画を家に持ち帰る警察官がいるんだって。

自分が楽しむため、欲望のために、ね。職業と立場を利用して本当に……最低。

捜査では被害者の子に会うんだよ?

どういう心境で、どんな顔で、その子に会ってるのって思う。

そんなの……ひどすぎるよ』


 茜音さんは目を潤ませ声を詰まらせた。


 傷ついた被害者は知る由もないのだろうが、

警察官の中にはそういう人物がいる、というのは事件を調べれば出てくる。

警察組織は証拠品の管理も杜撰であるようだ。


「僕は……本来の学校とは、かけ離れたものが今の現状だと思います」


 明治政府は国力を上げるために経済、軍事、教育に力を入れた。

他国と渡り合うための富国強兵。義務教育は明治時代に生まれた。

第二次世界大戦後に小学校六年間、中学校三年間という現在まで繋がる形を成した。

この制度があるから日本の識字率はとても高い。

もっとも江戸時代の識字率も各国と比べれば非常に高いもので、

これは寺子屋があったことに由来する。

日本語は三種類あり世界的にみて難しい言語とされているが、

それでも多くの日本人が読み書きできるというのは誇るべきことだ。

しかし、今の日本の教育は教える側に問題があった。


「子どもに教える立場の『教師』という職業には高い倫理観が必要ですけど、

彼らのそれは一般人より劣ります。これはデータを見れば一目瞭然です。

年間約二〇〇件の教師による性加害が学校で起こっています。

これは毎年横ばいですし異常な数値です。学校には教師による確かな性加害があります」


 毎年起こる教師による性犯罪。これが減らないことは非常に問題だ。

誰も動いている気配がない。動いていても結果が出なければ無価値だ。


『うん。多いよね。本当に気持ち悪いし怖いよ。子どもは先生を信用しちゃうから』


「人を信じること、という思考停止の弊害ですよ。

むしろ教師になるという選択をする人に対し、

『性犯罪者』という風に捉えても問題ないと思います。

捕まっているのは氷山の一角ですよ。

個人的な考えですが、なにかの犯罪の実態は、その十倍はあると考えます」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ