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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第83話 長き宿命との訣別

 

 体の奥から力が漲ってくる。


 まるで、何でもできると思っていたあの頃に戻ったみたいだ。


 お前を初めて見たあの時に。


 ようやく、長い間忘れていたものを取り戻せた気がする。


 お前はいつでも俺を支えてくれていたんだ。


 誰よりも近くで。


 これからもお前と共に歩むんだ。


 だから。


「行こう。カルマナ」


 元気いっぱいの笑顔と弾むような軽快な声が聞こえた気がした。


 そっと彼女に背中を押されるように、ゆっくりと目を開く。


 左手に握られた聖剣セレニティが、どこか懐かしい純白の輝きを放っていた。


『天使の加護』に収められた五つの結晶の輝きも、まるで息を吹き返したように強く瞬いている。


『カルマナァァァァーーー!!!!!』


 変わり果てた魔王の剥き出しの黒い骨爪が襲いかかる。


「カイン!!」


 ロザリアのグリムガウディが、彼女の想いを反映するかのように光を発し凄まじい眩さで魔王を押し返した。


「どうしたらイモータル・ブレイカーが現れるの?!」

「分からない! まだ何か条件が・・・」


 その時、並ぶ二つの剣が俺たちの手を離れた。


 剣が意志を持つように。


 呆然とする俺とロザリアの頭上で、セレニティとグリムガウディが寄り添うようにピッタリと重なった。


 そして、滑らかに変形した『天使の加護』が、抱き寄せるように二本の聖剣を包み込む。


 その瞬間、鮮やかな虹色の光が勢いよく放出された。


 その強い瞬きに思わず目を細める。


 刹那に訪れたの幻想のなかで、俺たちは確かに見た。


 剣が重なり合うのと同じように、カルマナとイザベラが手を合わせ、二人の背中を優しく包み込むエリシアの姿を。


 ・・・なんて透き通ったエネルギー。


 今までずっとここに存在していたかのように、ごく自然にその剣は在った。


 五つの結晶の輝きが、剣に命を注ぎ込むようにその刀身に光を浸透させている。


 川に湧き出る原水のような透明感は、圧倒的な存在感を放ちながらも、今にも消えてしまいそうな儚さも備えている。


「なんて綺麗な剣・・・」

「これが、聖剣イモータル・ブレイカー・・・」


 俺たちは一瞬の油断が死を招くこの状況下で、無防備にも剣に魅入られていた。


 すると左腕の紋章が、まるで結晶に共鳴するかのように強い輝きを放った。


「これは・・・」


 ループの代償による義肢の鉛のような重みや不快感が、空気に溶けていくように無くなった。


 それに反するように、全ての能力値が減少していく。


 世界を元に戻そうとする秩序の力が。本来の聖匠としての力が俺の体を元に戻し始めているんだ。


 ロザリアの手が義手に重ねられた。


「行こうカイン。私たちの未来を掴みに」

「ああ」


 二人の手で剣の柄を掴んだ瞬間、空気を割るような激しい音と共に眩い光がロザリアの頭上に弾けた。


 聖剣『イモータル・ブレイカー』に呼応するような虹色の光輪。


 これは、天使ルシェリアと同じ・・・。


 いや、それ以上に眩耀たる輝きを放つ勇者の証は、この戦場にいる全ての動きを止め、釘付けにした。


「これが、私の・・・」


 混ざり合うように、ロザリアの右手が俺の左手に融合していく。


「天使ルシェリア。あなたの魂を救済します。皆んなの願いと、この剣の名にかけて」

『その名で呼ぶな! 知らぬ! ルシェリアなど知らぬ!!』


 魔王が時空を割くほどの強烈な咆哮を上げ、物凄い速さで突撃を仕掛ける。


 圧倒的な力を放出する魔王を目の前にして、もはや恐怖など微塵もない。


 魔王は怯えていると同時に求めている。


 その醜いまでに堕落した自分に終止符を打つ存在を。


 長い間、苦しませてしまったな。


 だが、もう大丈夫だ。


 俺たちがその願いを叶えてやる!


『滅べ!! 勇者ァァァァ!!!』


 魔王の振り下ろした腕が地面を叩き割った瞬間、纏わりつくような暗黒のオーラが噴出した。


 息の合った滑らかな身のこなしで攻撃を躱し、『イモータル・ブレイカー』を振り抜く。


 刹那の静寂。


 次の瞬間、極限まで圧縮された一閃が空間をも切り裂き、落雷のような轟音と共に魔王の右腕を容易く飲み込んだ。


 二人の腕が一体化しているにも関わらず、俺の動きに難なく合わせるなんてな。


「さすがだな」

「当然よ。誰を憧れてきたと思ってるの」

「だな。俺も同じだ」


 襲いかかる魔王に透き通る虹の剣先を向け、深く息を吸い込む。


 長き宿命は、ここで断ち切る。


 巡る運命に終止符を打つ!!


 寸分の狂なく二人同時に飛び出した。


「終わりだ!! ルシェリア!!」

「終わりよ!! ルシェリア!!」


 儚さを湛えた虹の刃が剥き出しの黒い骨をすり抜け、魔王の胸を静かに貫いた。


 混沌とした空気が凪いでいく。


『ようやく・・・この時を迎えられたのねーーー』


 そう呟く声が聞こえた。


 いつの間にか、辺りは白い霧に包まれていた。


 目の前にいたのは悍ましい魔王の姿ではなく、純真で慈愛に満ちた創造主ルシェリアそのものだった。


 朧げな幻想の中で、かつての優しさと愛を湛えた微笑みが向けられた。


『ありがとう』


 ルシェリアはゆっくりと背を向け、光の差す方へ歩いていく。


『置いていかないでくれよ。ずっと一緒だって約束したじゃないか』


 いつの間にかアルカディウスが連れ添っていた。


『もぅ! 私を置いていかないでよお母様! お父様!』


 後ろからエリシアが駆けていく。


『私たちの役目も終わりましたね』

『やれやれ。長い道のりだった』


 五大勇者たちは互いに顔を見合わせ、肩をすくめながらその後に続いた。


「お母様・・・」


 ロザリアは先人たちを見据えたまま、小さく声を漏らす。


 微かに風が吹くと、目の前にイザベラが姿を現した。


 彼女の包み込むような笑顔に、ロザリアの瞳から涙が溢れ出した。


『本当に、よく頑張ったわねロザリア。あなたは私の最愛の娘よ』

「お母様。私・・・」


 イザベラはヴェールを纏うように、ロザリアをそっと包み込んだ。


『ずっと、あなたの愛を受け止めることができなくてごめんね。でも、あの時しっかりと受け取ったわ。まだ小さかったあなたがくれた、とても大きな愛を。それは今でもずっと握りしめている。この胸のなかに』

「うん・・・」

『何があっても、私はあなたを愛しているわ。それだけは忘れないで』

「うん・・・。分かってるよ。全部、伝わってるから」


 ロザリアの頭を優しく撫でると、イザベラはニコッと微笑み光の方へと歩いて行った。


「ありがとう。お母様」


 ロザリアは、涙で濡れた瞳で真っ直ぐとイザベラの背中を見送っていた。


『よくやってくれました!!』


 突然、カルマナが下から飛び出した。


『あれ? 驚きませんね。感動の再会だというのに』

「お前の考えていることくらい簡単に読めるからな」


 彼女はムスッとした顔で俺の顔を覗き込んだ。


『むむ〜。何ですか急に大人びて。ちょっと前までウジウジ悩んでいたクセに』

「それを乗り越える力をくれたのはお前だ」

『とーぜんです! なんといっても私は・・・』

「大司教さま、だろ」


 カルマナは歯を見せ満面の笑みで応えた。


『おーい! 早く行こうよ〜! カルマナ〜!』


 遠くで皆が手を振り彼女を呼んでいる。


 カルマナは、寂しさを湛えた眼差しで皆に微笑みかけていた。


『私は、あの輪に入っても良いのでしょうか』

「不安になるなんてお前らしくないな」

『だって、私はずっと・・・』

「ほら。皆んな待ってるぞ」


 俺はずっと、彼女の笑顔に不安になっていた。


 壊れそうで。


 どこか儚げで。


 手を伸ばせば消えてしまいそうな彼女に心を許すのが怖かったんだ。


 でも、今はもうそんな恐怖は感じない。


 お前はいつだって俺の側にいてくれるから。


 そう信じさせてくれるから。


 そんな意思に反するように、視界が滲んでいく。


『もう・・・。せっかく私の門出なのに、そんな顔をしないでくださいよ。でないと私・・・』


 カルマナは、大粒の涙を流し、可愛いその顔を歪ませた。


 飛び込んだ彼女は、ぎゅっと俺を包み込んだ。


 とても強く。


『あなたと離れたくありません! あなたの声を聴いていたい! あなたの笑顔を見ていたい! ずっとあなたの隣にいたい! ずっと、あなたの温もりを感じていたいんです!』


 運命は俺たちの関係を交錯させない。


 互いの使命と願いが、俺たちを引き合わせてはくれない。


 それが分かっているからこそ、願わずにはいられない。


 離れたくないと。


 でも、俺たちは運命を乗り越えることができた。


 願った未来へ辿り着くことができた。


 全部、お前のおかげなんだ。


 だから、今度は俺がお前の願いを叶える。


 一歩を踏み出すのを躊躇う彼女の背中をそっと押す。


「さあ。行くんだ。お前の抱き続けた願いは、すぐそこに在る」

『カインさん・・・』

「心配するな。お前はもう独りじゃない。いつかまた必ず会える日が来る。俺は、そう信じている」


 彼女は涙で頬を濡らしたまま。


 それでも、これまでで一番美しい最高の笑顔を見せてくれた。


「だから、向こうで俺たちの未来を見守っていてくれ。彼女たちと一緒に」


 彼女は、溢れる涙を一生懸命拭い、強い決意を湛えた眼差しで俺を見つめた。


『では、行ってきますね』

「ああ」


 存在を確かめるようにこちらを振り返る彼女に、強く頷いて見せる。


『ありがとう。カインさん』


 心に直接呼びかける声が聞こえた。


 待っていた彼女たちの輪に加わったカルマナに笑顔が咲いた。


 ゆっくりと光の向こうへと消えていく彼女の姿を、いつまでも見守っていた。


 寂しさや不安ではなく、ありったけの希望と感謝の気持ちを込めて。


 いつまでもずっとーーー。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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また、読み進める途中でも構いませんので評価をしていただけると大変嬉しいです!


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