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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第77話 運命が交錯する場所

 

 互いの本当の役割を知った俺とロザリアは、勇者と聖匠それぞれの試練を越えてきた。


『グリムガウディ』と『セレニティ』。


 そして、二本を繋げ第三の聖剣を創造する鍵となる『天使の加護』。


 実際に五つの結晶を全て集めることができたし、呼応するように『天使の加護』に埋め込まれた結晶を見ても、歯車が回り始めていることは明確だ。


 全てのピースは揃ったはず。


 しかし・・・。


「まだ何か足りないものがある、ということか?」


 カルマナは少し埃っぽい教会の天井を見上げた。


「あなたという人はどこまでも・・・」


 彼女の視線を追うが、ステンドグラスに差し込む柔らかい陽の光が微かに揺れているだけだった。


 語りかけるようなその言葉が一体誰に向けられたものなのか、気にせずにはいられなかった。


 カルマナは思い出したように笑顔を繕う。


「本当なら新たな聖剣が誕生するはずだったんですけど仕方がありませんね。でも、準備は整っているはずですのであとはタイミングだけですよ」

「本当か? いざ魔王と戦う時にやっぱり現れませんでしたでは済まされないんだぞ」

「大丈夫ですよ。必ず現れますから」


 一変して、彼女の真剣な眼差しが俺を捉える。


 ・・・まったく。


 信用していいのかどうか不安だな。


 魔王と対峙する前に万全にしておきたかったということなんだろうが、少し逸っただけなのかもしれない。


 ロザリアは励ますようにカルマナの肩を持った。


「私たちにできることは全部やったよね。あとは、アルカナム大聖堂で『開闢の儀』を行えば魔王の住まう異空間への扉を開くことができる。決戦はもう目の前だよ」

「そうですね。兵は神速を貴ぶと言いますし、早めに動いた方が・・・」


 突然、教会内が薄暗くなった。


 同時に低く唸るような雷鳴が轟いた。


 この、息苦しく押しつぶされそうな感覚・・・。


 間違いない。魔王だ。


 どういうことだ?


 これまでの世界線ではどれも『開闢の儀』により扉を開き、こちら側が乗り込んでいた。


 まさか奴の方から来るとは。


 それよりも、そんな予想外の出来事に冷静を保っている自分に驚いた。


 いや、今は悠長に考えている場合ではないな。


 急いで外へ出ると、空は暗黒の厚い雲に覆われ、稲妻が走っていた。


「運命かな。お母様と同じ戦場になるなんて」

「怖いか?」


 ロザリアは自信に満ちた眼差しで俺を見つめる。


「まさか。負ける未来なんて微塵も想像できないもの。むしろ、向こうから来てくれるなんて手間が省けてちょうどいいわ」

「お前、肝が据わっているな」

「きっと、皆んながいてくれるからだよ」


 ロザリアのニコッと微笑む姿に安心感を覚える。


「皆んな聞いてくれ。魔王の放つ衝撃波には記憶とスキルを無力化する力がある。これまでやり直そうと挑んだ戦いは、それによって大きく乱されたからなんだ。注意してくれ」


 すると、隣に立ったフリードが拳を鳴らした。


「それだけ聞けりゃ大丈夫だ」

「ああ。頼りにしている」


 俺の言葉に、彼は一瞬きょとんとした顔を見せた。


 しかし、それはすぐに笑いに変わった。


「はははっ! お前に言われる日が来るなんてな!」

「そんなにおかしいか?」

「おかしいさ! あれだけクールぶっていたお前がねぇ!」


 ヴィオラは呆れた様子で深いため息をついた。


「あんた、今まで何を見てきたわけ? カインはずっと優しかった。あんたみたいに分かりやすく表に出さないだけよ」

「ヴィオラ・・・」

「か、勘違いしないでよ!? 私はただ赤毛猿の態度が気に障っただけだからっ!!」


 さりげなく隣に立ったヴィオラは頬を赤らめ、恥ずかしさを隠すように空を見上げた。


「そういうお嬢もわりと同類っていうね」


 ジュリアンがこっそりと耳打ちしてきた。


「それはともかく、君とまた一緒に戦えて僕は嬉しいよ」

「お前だけは、最後まで客観的に判断してくれてたよな。感情と事実の狭間で苦しんだはずだ。辛い想いをさせてすまなかった」


 一瞬だけ、彼の目が潤んだ気がした。


「まったく君ってヤツは・・・。でも、すごくやる気が溢れてきた。頑張っちゃうよ〜」

「ああ。俺も全力で戦う」


 これだけの重圧の中で普段通りでいられるこいつらだからこそ、背中を預けるに相応しい。


 そして、こいつらも。


 ジュリエットは鮮やかな翡翠の宝石の埋め込まれた双剣『ブルータス』を抜いた。


「その剣も様になったな」

「記憶の花吹雪の舞うなかで、私は誓いました。もう絶対に迷わないって。今度は私がお師匠様を支える番だって」

「お前は本当に成長したよ。その剣技も。精神力も」


 ジュリエットは、まるで昼下がりのお茶会の時のような、優雅な笑みを見せた。


「あとはそれを証明するだけです」


 その気品と自信に満ちた金色の瞳に、思わず引き込まれる。


「この姿でカインさんと出会ったのはここでしたね。見放されてしまったのも・・・」


 懐かしむように教会を見つめるカルマナ。


「・・・そうだな。この場所は俺たちにとって忘れられない場所になった」

「思えば、カインさんと一緒に旅をしたのも随分昔のことのように感じますね」

「おいおい。まだ終わってないだろ」

「あはは。そうですね。いざ決戦を前にしたら、つい感傷に浸ってしまいました」


 どこか遠くへ行ってしまいそうな彼女をこの場に留めるように、細いその手を握った。


「魔王討伐は俺たちだけじゃなく、幾千年分のお前の願いでもあるんだ。必ず成し遂げる」

「カインさん・・・」

「だから、頼りにしているぞ。運命共同体」


 溢れる涙を拭い笑顔を咲かせるカルマナ。


「はいっ。私たちは運命共同体です。何があっても」


 その笑顔はどこか儚い。


 踏みとどまるな。


 その答えは、魔王を倒した先できっと分かる。


 だからここで終わらせる。


 最後の最後までこびり付いている、この感情の正体を確かめるために。


 そして、この長い勇者の宿命と訣別するために。


 幾重にも重なり合い、紡がれてきた想いと願いは必ず届く。


 次第に地面が揺れ、雷鳴が一層低くなる。


 ゆっくりと渦巻く厚雲に向かい、生温かい風が巻き上がる。


 そんな禍々しい光景に、満ち足りた希望と想いを乗せるように、ゆっくりと渦巻く邪悪な雲を見上げた。

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