第76話 来るべき返還と集いし欠片
目の前に佇んでいた聖剣の残骸が光の粒となり、静かに天へ昇華していく。
どこか踊るように、軽やかに昇っていくその姿はイザベラの心を反映しているように思えた。
ロザリアは、ただ黙って聖剣グリムガウディの柄を見つめていた。
よく見ると、剣の柄や柄頭にピンク色の花があしらわれていることに気が付いた。
あれは、イザベラの聖剣の素材。
彼女の形見なんだ。
ロザリアはおもむろにピアスを取り、手のひらに乗せた。
「あの時お母様がくれたのは、そういう意味があったのね」
「ずっと・・・。私の想いはお母様に届いていないんだって、心のどこかで感じてた。思っていた反応と違ったり、突拍子もないことを言い始めたりしたことがあったから、子供ながらに話が噛み合わないなって思ってた・・・」
彼女は祈るように、手のひらのピアスを両手で包んだ。
その手にぽつぽつと雫が滴り落ちる。
「ずっと、気付いてあげられなくてごめんね。でも、ちゃんと伝わったから。全部、伝わったから。私が今ここにいられる理由も。お母様の想いも。全部・・・」
泣き崩れるロザリアの肩を支える。
「大丈夫だ。俺たちもイザベラの想いを受け継ぐ。皆んなもきっと同じ気持ちのはずだ」
「当たり前だろ。俺たちは仲間だ」
振り返ると、当然といった様子でフリードは拳を鳴らした。
「その通りさ! 僕たちは何があってもロザリア姫のパーティだよ♪」
「あぁ〜暑苦し。わざわざ言葉にするまでもないわよ」
相変わらずの調子のジュリアンと、頬を赤らめそっぽを向くヴィオラ。
いつもと変わらない彼らの態度に、ロザリアは赤い目尻を拭った。
「皆んな・・・。ありがとう。カルマナも、ジュリエットちゃんも」
カルマナとジュリエットも、強く、優しく頷いた。
俺たちは、これまでにないほど心を通わせることができた。
なんて心強いんだろう。
仲間の存在がこんなにも力を与えてくれるなんて、今までの俺なら信じられなかっただろうな。
だが、もう全てが手の届くところまで来ている。
あとは、掴み取るだけだ。
金属の左手を強く握ると、その滑らかな動きに気がついた。
紋章が濃くなっている・・・?
これまで左半身は重荷でしかなかったはずなのに、何だかすごく軽い。
聖匠の試練をこなし始めてから感じてはいたが、いつの間にか痛みも引いている。
やはり、正しい道を選択している兆しなのだろうか。
ふと顔を上げると、カルマナが笑顔で聖剣を差し出していた。
「これを、あなたに返す時が来たようですね」
目の前で、聖剣『セレニティ』がキラリと光る。
「どういう意味だ? それはお前の剣だろう」
「何言ってるんですか。元々あなたが投げ捨てた剣です。持ち主に返すのは当然ですよ。だいたい、今の私はこの剣に宿る身なんです。あなたが使ってくれないと、私もこの剣も本領発揮できません」
「そ、それもそうか」
伸ばした手がぴたりと止まる。
待て・・・。
本当に受け取ってしまっていいのか?
また、あのまとわりつくような感情が湧き出してきた。
このまま受け取ってしまえば何かが終わってしまう。
・・・そんな気がする。
「もぅ! 女の子を待たせるものではありませんよ」
そう言うと、カルマナは二の足を踏む俺に押し付けるように『セレニティ』を持たせた。
しっくりと馴染む柄。
まるで剣と混ざり合い溶けてしまいそうな、そんな一体感がある。
「ふふっ。何だか私も体の奥から力が漲ってくるのを感じます。やっぱり、私にとって身も心もカインさんとの相性は過去最高です。思わず昇天してしまいそうで癖になっちゃいますね♪」
「あのな、もはや形だけだと思うが、曲がりなりにも司教のクセに紛らわしいことを言うな。俺とお前は・・・」
気付くと、ロザリアが俺の服を掴んでいた。
「それ、ほんとなの・・・?」
弱々しく乙女のように潤わせた真紅の瞳にドキッとした。
今まで見たことないくらい儚さを感じる。
「ち、違う! こいつはあくまで精霊としての立場から言っているんだ! 人間の俺が精霊と関係を持つわけないだろ?!」
「前はあんなに求めてくれたのに・・・。今の私って、そんなに魅力ないかな・・・」
あろうことか、ロザリアは切なそうに豊満な胸を持ち上げた。
「お前まで何言い出すんだ?! ていうかお前には恥じらいというものがないのかっ?!」
助けを求め咄嗟に周囲を見回す。
フリードたちは呆れ返ってため息をついている。
なぜか、ジュリエットとジュリアンは目を輝かせていた。
カルマナだけが意味深な笑みを浮かべていた。
イラッ・・・。
目にも留まらぬ速さで背後に回り込み、彼女のミトラを奪った。
「お前のせいだぞ。この淫乱司教めが」
「ああっ?! 返してください! それがないと大司教としての威厳がっ・・・!」
「いっそこのままバラバラに切り捨てるか?」
「ダメですっ!!」
カルマナも劣らぬ素早さで俺の手からミトラを奪い返した。
やるな。
こいつの意思により聖剣『セレニティ』の所有権が俺に移ったことで能力が戻ったか?
・・・って、こんな下らないことをしている場合ではない。
「そういえば、前に二つの聖剣が揃えば第三の剣が現れる、とか何とか言ってなかったか?」
「ああ、言いましたね」
そんな大事なことを思い出したように言うなよ。
「集めた結晶を貸していただけますか?」
言われるままカルマナに五つの結晶を手渡す。
すると、まるで求めるように彼女の首にかけられた『天使の加護』が宙へ浮いた。
「あれ? そのネックレス・・・」
ロザリアが首を傾げていると、聖剣『グリムガウディ』が淡い光に包まれた。
同じく俺の『セレニティ』も呼応する。
カルマナは、胸の前で浮遊する『天使の加護』に注ぐように、優しく結晶を放つ。
すると、それぞれの結晶は『天使の加護』の表面に刻まれた穴にピッタリとはまった。
その瞬間、二本の聖剣と『天使の加護』が互いに共鳴し、強い虹色の光を発した。
やがてゆっくりと光が収まっていく。
これでついに魔王を倒しうる第三の剣が現れる。
大きな期待を胸にゆっくりと目を開ける。
「ん・・・?」
さっきと変わっていないような・・・。
ロザリアの腰には『グリムガウディ』が。
俺の手には『セレニティ』が握られている。
結晶を取り込んだことで、『天使の加護』は少し煌びやかになった印象。
だが、それ以外は特に目立った変化は感じられなかった。
唖然とするロザリアと顔を見合わせる。
「えへっ♪ なんか違ったみたいです♪」
小悪魔っぽく舌を出すカルマナ。
「・・・・・は?」
冗談みたいな本当の出来事に、俺を含めその場にいた誰もが目を丸くしていた。
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