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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第75話 紡がれた希望の光

 

 イザベラは仲間たちを引き連れ、颯爽とドルガリスの町を抜けると、人気のない坂道を駆け上がった。


『カルマナ。聞こえる?』


 すると、彼女の聖剣が淡い光に包まれた。


『聞こえてるよ。イザベラ』

『前に話したよね。あなたの願いを叶えるのは私じゃない。私はただの導き手。だから、私にもしものことがあった時は頼むからね』


 しばらくの沈黙の後カルマナの声が響いた。


『分かってます。でも、そんな悲しいこと言わないで。私は・・・。私は、独ぼっちはもう嫌なんです。目の前で誰かがいなくなってしまうのを見たくない。だから、自ら死ぬような真似だけは絶対にしないで。生きることを放棄しないで・・・』

『んもぅ! カルマナったら卑屈なんだから。ネガティブなのは良くないわよ?』


 揶揄うように軽やかに弄るイザベラ。


『なっ?! それはイザベラが酷いからです! 四千年もの長い間抱き続けた私の願いを真っ先に拒否したの、忘れていませんからね!?』


 すると、森の中にイザベラの笑い声が響いた。


『仕方ないでしょ〜? 叶えてあげたいのは山々だけど、私じゃ無理なんだもの。私の役目は他にあるのっ♪』

『まったく・・・。これだけ長く生きてきて私の願いを受け入れてくれなかった勇者はあなただけですよ』

『まあまあそう言わずに。大丈夫よ。とーぜん、おとなしく負けるつもりはないから』

『・・・そうですね』


 坂を登り終えるとすぐに、ドルガリスの高台でひっそりと佇む教会の前で、イザベラは仲間や兵士を引き連れ魔王の襲来に備え布陣を敷いた。


 雷鳴轟く暗雲を見上げる彼女たちの頭上で、眩い光が大地を刺す。


『皆んな! 警戒を怠らないで!!』


 泥が滴るような雲の中から、魔王がゆっくりと降下する。


 大海原を背に崖の淵に降り立った魔王はおもむろに周囲を見渡していた。


『もう一つ、在るはずだが』

『あらあら! 天下の魔王さんも調子が悪い時があるのねぇ。残念だけど、勇者はここにいる私一人よ』


 その言葉に、魔王は不気味な笑みを浮かべた。


『此度は貴様が我を阻むか。しかし貴様らも飽きずによくやる。無駄な足掻きだということが未だ解らぬとは愚かだな』

『無駄かどうかはやってみなければ分からないでしょ〜!』


 イザベラの号令と共に、兵士たちが魔王に襲いかかる。


 が、これまで同様全くと言っていいほど効果がなく、無惨にも仲間たちが犠牲になっていく。


 何度も勇者が破れ去るこの光景を見てきた。


 その度に胸が痛んだ。


 今回も、結果は分かっている・・・。


 それでも、目を背けるわけにはいかない。


 イザベラが残したものを受け取り、未来へ繋げるために。


 やがて最後の一人になったイザベラだが、スキルもまともに使用せずに魔王と対等に渡り合っていた。


『ほう。存外楽しめるものだ』

『ありがとっ・・・!!』


 魔王の猛攻をなんとか捌くイザベラの動きが鈍くなってきた。


 体力が限界に近づいているとはいえ、さすがロザリアの母。


 ここまで持ち堪えた勇者は過去にいなかった。


 だが、それは魔王にとってほんの束の間のことに過ぎなかった。


『その魂、摘み取ってやろう』


 そして、構えた聖剣を容易く粉砕し、その鋭利な爪がイザベラの腹を突き破った。


『かはっ・・・!!』


 鮮やかな朱色が、温かみのあるピンクのスカートを染めていく。


 周りに横たわる仲間たちの屍と同じように、彼女は静かに血の海に沈んだ。


『くくく。これまでの愚かな奴らと同じだ。自らの脆弱さに後悔しながら果てるがいい』


 そう言い残し、魔王は開いた時空の歪みの中へ消えていった。


『・・・カルマナ。大丈夫?』


 虚な瞳で教会を見つめるイザベラに応えるように、カルマナの声が響いた。


『なんとか無事みたいです。でも、あなたが・・・』

『・・・ふふ。見た? やっぱり過大評価じゃなかったみたい。魔王は気がつかなかった。己を打ち破ることになる、その小さな命に・・・』

『固有スキル感覚共有(レゾナンス)のことですか?』


 脱力しきった笑みを浮かべ、イザベラは呟いた。


『・・・感覚共有(レゾナンス)は、感覚だけを共有するわけじゃない。私の存在と、力そのものを伝えることができる。私という命が尽きることで消える魂のエネルギーを、あの子にも共有させたの。そうすれば、あの子は死んだことになる』

『もしかして、あの子に贈ったピアス・・・』


 イザベラはなんとか仰向けになり、次第に晴れ渡っていく空を見上げた。


『・・・ふふ。そういうこと。あの子が苦手なのは剣技だけ。スキルはもちろん、その素質はずば抜けていた。きっと、魔王はロザリアの存在に気付いてしまう・・・。そう思っていたけれど、魔王の目からロザリアを守ることができた。私が死んでも、しばらく効果はあるはずよ』

『・・・私の役目はただ一つ。あの子が成長するまで、その存在を隠し続けること。ロザリアという希望の光を、未来に繋げること』


 彼女の血の滴る口元が緩む。


『イザベラは強いですね。自分の信じた未来に命を懸けられるなんて』

『・・・あの子が生まれた時に悟ってしまったの。魔王を倒すのはこの子なんだって。先の未来を覗き見たような感覚だった。だから、私はあの子を育てることだけに、全てを捧げた・・・』


 虚な瞳から涙がこぼれ落ちる。


『あの子の大きくなった姿、見たかったなぁ・・・』


 そして、その瞳をゆっくりと閉じていく。


『あなたの願いとその想い、私が必ず繋いでみせます。あなたの親友として』

『・・・ふふ。ごめんね、自分のことばっかりで・・・。本当は、あなたの願いも・・・』

『分かっています。全部、分かっていますから、もう休んでください』


 響くカルマナの声を子守唄に、この世界にそっと添えるように、彼女は呟いた。


『愛してるよ・・・。ロザリア』


 想いを叫ぶように、彼女の左薬指の天使の紋章が強い光を放っていた。


 大海原を見下ろす高台の景色が、次第に白い霧の中へ消えていったーーー。



 俺を導いた光の玉が、目の前でふわふわと浮いている。


 胸が張り裂けそうなくらい痛々しい光景のはずなのに、俺の心は不思議と穏やかだった。


 イザベラは他の勇者とは何かが根本的に違う。


 まるで、フローリスの過去を見た後のような、前向きな気持ちだ。


 ・・・そうか。


 イザベラも、フローリスと同じように未来に希望を持っていたんだ。


 いや、フローリスよりもっと具体的に。


 答えを知っていたかのように。


 ロザリアという存在が魔王を打ち倒し、この長きにわたる勇者の宿命を終わらせると分かっていたんだ。


 だから、迷いなく自分が盾となった。


 二人が宿命を終わらせるとイザベラは言っていた。


 一人はロザリア。


 そして、もう一人は俺だ。


 魔王を倒すには、一人だけが飛び抜けていても意味がない。


 勇者と聖匠。


 聖剣とカルマナ。


 共に命を懸けてくれる仲間たち。


 幾つも重なった勇者たちの想い。


 全てが互いに役割を果たして初めて、未来の形が完成するんだ。


 イザベラ。安心してくれ。


 あなたが繋いでくれたこの温かい希望の光を、俺が必ず解き放つ。


 勇者としても、一人の女性としても、歴代最強に相応しく育ったあなたの愛娘ロザリアと一緒に。


 だから、最後まで見届けてくれ。


 俺たちの先に待つ、あなたが確信した未来の形を。


 光の玉に手を差し伸べた時、眩い光が俺を包み込んだ。


 輝く景色の中でうっすらと消えていくイザベラに別れを告げると、手を引かれるように光の玉に導かれたのだったーーー。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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また、読み進める途中でも構いませんので評価をしていただけると大変嬉しいです!


これからも、どうぞよろしくお願いします!



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