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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第72話 聖剣を繋ぐもの

 

 フローレンスバレーで聖剣の念を晴らした俺たちは無事に五つの結晶を手に入れ、王都ドルガリスへ戻った。


「何とか集め切ったな」

「滞ることなく進めましたね! さすがお師匠様!」


 自分のことのように笑顔を浮かべるジュリエット。


 何だか少し大人びたように思えるな。


 普通の女の子が経験することのない修羅場を潜っているからかもしれないな。


 本当に頼もしい限りだ。


 ふと、手のひらで光る五つの結晶を見つめる。


 本当にこれらが魔王を倒す鍵になりうるのだろうか。


 俺自身が何か特別なことをしたわけではない。


 五人の勇者の無念と、その覚悟を垣間見た。


 それだけの話。


「ロザリアたちは・・・。まだ戻っていないみたいだな」

「心配しなくても、ロザリアならすぐ合流できると思いますよ」


 まあ、それもそうだ。


 実際、難なく試練を突破しているのこの目で何度も見ているしな。


 気付くと、カルマナが笑顔で俺の顔を覗き込んでいた。


「ふふっ。大丈夫です。カインさんはちゃんとやり遂げましたよ」

「どうにも実感が沸かなくてな。本当に聖匠として成長できたのかどうか、自分でも分からないんだ」


 すると、カルマナは大きな垂れ目を見開いた。


「えぇっ?! 見違えるくらい成長したじゃないですか!」

「そうだろうか」

「勇者たちの過去を見るまで、あなたには心の迷いが生じていました。本当に聖匠の血を引くのか。無事に試練を乗り越えられるのか。そして、本当に魔王を倒せるのか」


 カルマナの人差し指が俺の胸にそっと置かれる。


「でも今は、あなたの中で不確実だったものがしっかりと定まっている。見据える先を遮る暗闇は晴れています」


 確かに。


 五回目のループが始まってから重なる代償により心が折れていた俺は、カルマナやジュリエットに支えられ魔王を倒すという願いを再び思い出すことができた。


 一人では達成できない。


 仲間と、そしてロザリアたちと協力することが最善の道だと気付くことができた。


 それはこれまで繰り返してきたループの中で最も大きく価値のあることの一つだ。


 ただ、カルマナから改めて真実を聞かされたことで、自信が無くなった。


 いや、不安が増したと言った方がいいか。


 だが、フローリスの生き様を見て、俺の願いと覚悟は揺るぎないものになった。


 これまで形の見えなかった未来が、ようやくはっきりと見えた気がした。


「ふふっ。それを成長と呼ばずに何て呼ぶんです?」


 カルマナは、まるで俺の考えていることが分かっていたかのようにごく自然に言葉を紡いだ。


「今のカインさんは、自分が聖匠であることを疑わず、魔王を倒せると確信している。それは言葉の節々からも読み取れます。何より、今まで口にできなかった確信を、あなた自身が発することができた。これは非常に大きな変化ですよ」


 もはや聖匠であることに対して何も疑問はなかった。


 言われるまで気付かなかった。


 すると、カルマナはまた例の奇妙なポーズを取り、手をかざしていた。


「六割、といったところか。フッ。着実に覚醒が始まっているようだな」


 だから誰に向けて言っているんだ・・・。


「下らないこと言っていると、その隙だらけのミトラを取るぞ」

「だ、だめですよ! これがないと大司教としての威厳がっ・・・!!」


 取らなくても同じ反応なんだな。


「それにしても、六割とは思ったより低い見積もりだな。それだと勇者の試練を終えたロザリアと合わせても残りは埋められないと思うが」


 すると、ミトラを取られまいと警戒していた彼女に笑顔が咲いた。


「おお! さすがカインさん! その通りです♪」


 ほとんど見ているだけだったとはいえ、せっかく勇者たちの無念を晴らしたというのにそう嬉しそうに言われると少し複雑な気分だな・・・。


「なら、十割にするにはあと何が足りないと言うんだ?」

「ほら、これですよこれ!」


 カルマナは腰に下げた聖剣セレニティをずいっと俺の前に差し出した。


 確かに、魔王を倒すにはセレニティが必要だと言っていたが。


「これは仮の姿。真の力を解放するには足りないものがあるのだ」


 やれやれ。またそれか。


「そういうのはいい。真面目に答えろ」

「私は至って本気ですとも。本当に足りないんですよ。もう一本が」


 もう一本?


 現存する聖剣といえば、ロザリアの・・・。


 まさか・・・!?


 カルマナはニコッと微笑んだ。


「そう。聖剣グリムガウディです。二本の聖剣が重なる時、魔王を倒すための第三の聖剣が姿を現します」


 な、んだと・・・。


 勇者と聖匠は切っても切れない関係。


 それは勇者と聖剣も同じ関係であるという証明でもある。


 そもそも、こうして同じ時代に聖剣が二本存在すること自体が奇跡のようなものだ。


「長い歴史の中で幾多の想いを重ねた勇者の宿命。そして、秩序を創造・修正する聖匠たちの想いが紡ぎ上げた奇跡と軌跡」

「悠久の時を越え、それらが勝利を掴むための二つの聖剣を引き合わせた。魔王を倒すためには、セレニティとグリムガウディの両方が必要なのです」


 考えてみれば、ロザリアとの一騎打ちの時、立ちはだかったカルマナとロザリアの間でセレニティとグリムガウディが共鳴していた。


 ドルガリスへ向かう船の上でも。


 あれは互いに引き合っていた合図だったのか。


 そんな重要な剣を俺は投げ捨ててしまった。


 あまつさえその記憶まで手放してしまうとは・・・。


 切羽詰まっていたとはいえ、あまりに滑稽。


 カルマナが必死に止めるわけだ。


 俺は、自ら勝機を放棄していたんだ。


「だが、それならどうして俺が勇者の無念を晴らす必要があった? グリムガウディがいるならロザリアと協力すれば済む話に思えるが」

「実はですね、ただ二本があるだけでは意味がないんですよ。それらを繋げる鍵が必要なんです」

「鍵・・・?」


 カルマナは、正解はこれですよと言わんばかりに胸元のネックレスを強調した。


「『天使の加護』・・・」

「大正解っ♪ 二本の聖剣を重ね、真の聖剣へと覚醒させるには『天使の加護』が媒体となる必要があります。そして、ちゃんと機能させるために、聖匠の試練で得た結晶が必要なのです」


 そういうことだったのか。


 カルマナがウルフスタンの鉱山に拘っていたのはその『鍵』を入れるためだったということか。


 ・・・ん? それだけ大事なものを、どうして初めて出会ったあの時に言わなかったんだ?


 俺がカッツォに『天使の加護』を渡してしまったのを見ていたはずだ。


「どうして四回目のループの時、黙っていたんだ?」


 すると、彼女は頬を赤らめ、照れ隠しに舌を出した。


「急いでカインさんに伝えたかったのですが、不完全な状態で人化したために本来の力と記憶が霞んでしまい、所々飛んでしまっていたのですよ」


 何て間抜けな・・・。


 俺の視線を察したのか、彼女は誤魔化すように咳払いをした。


「と、とにかく万全ではなかったんですっ。そのせいでこの子もまともに扱えませんでしたしね。自分の宿る剣なのに歯痒い思いでしたよほんと・・・。そういうわけで、『天使の加護』の存在もうろ覚えだったんです」


 なるほどな。


 確かに、前回では時々この世の生き物とは思えない雰囲気を纏っていたり、無意識に聖剣の残骸の居場所を示していた。


 あれらは全部、記憶の混濁によるもので、カルマナの力が十分に戻っていなかったから起きていたのか。


 まったく。焦ってことを急ぐからだ。


 ・・・と言いたいところだが、目先のことに惑わされてものすごく遠回りした俺が言える立場ではないな。


 しかし、幾千年の時を流れし偉大なる精霊も人間のような簡単な間違いを犯すんだな。


 そう思うと、なんだかこいつがおかしく思えた。


「何笑ってるんです?」

「いや、大司教さまも凡ミスするんだな」

「何ですってぇ?! 無駄に四回もループを繰り返したカインさんには言われたくありません!」

「ははっ。本当だな」


 俺とカルマナのやり取りを眺めていたジュリエットが急に笑い出した。


「お二人って、本当よく似ていますよね。不器用なところが特に」

「こ、この人と一緒にしないでください! 私は緻密な計画をですねっ・・・」

「はいはい。分かりましたから」

「あっ?! 何ですかその大人びた余裕は! さては一回ループしただけで大人の階段を数段飛ばしましたね?!」


 涼しい対応をするジュリエットに噛み付く勢いで憤慨するカルマナ。


 一体どちらが聖職者やら・・・。


「ただいま〜!!」


 振り向くと、ロザリア一行が遠くで手を振っていた。


 満面の笑みが試練を無事に終えたことを物語っている。


「ほら、いつまでも遊んでるなよ。この後行く場所にはあいつらも連れて行くんだろ?」

「そうでした! 忘れるところでした!」


 そんな緩くて良いのか・・?


「そういえば、肝心な場所を聞いていなかったな。一体どこへ行くつもりだ?」

「ふふっ。それは着いてからのお楽しみ、ということで♪」

「お前、焦らすの好きだよな」


 何故だろう。


 好きなようにさせてやろうと思った。


 今までのように適当にあしらうような感じではない。


 心の底から、彼女の望むようにさせてあげたいと思った。


 きっと、カルマナの過去を聞いて以前よりも彼女に対する理解がより深まったからなのだろう。


 そんな思いに浸りながら、ジュリエットと二人で駆けていく彼女の白い背中を見つめていた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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また、読み進める途中でも構いませんので評価をしていただけると大変嬉しいです!


これからも、どうぞよろしくお願いします!



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