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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第69話 時代に煌めく三つの星

 

 流れた火山で形成され、波がうねるような躍動感が凝固した地形。


 そんな人間にとって有利な場所とは言い難い戦場に、無駄のない完璧とも言える陣形が敷かれている。


『来ます! 総員、戦闘準備を!』


 陣形の後方から仲間たちに向かい檄を飛ばす一人の女性が纏うローブをはためかせた。


 銀色のボブヘアとやや釣り上がった紫色の瞳。


 額に刻まれた天使の輪を思わせる紋章が、智勇兼備な彼女の慧眼さをよく表している。


 その冷静沈着な佇まいとは対照的に、覗かせる四肢には無数の傷跡が刻まれていた。


 勇者エステルは暗がかる厚い雲をじっと見上げている。


 突如激しい雷光が迸り、凝縮した一際黒い雲が、大きな一滴の雫のようにゆっくりと大地に滴り落ちた。


 黒液を振り払うように漆黒の翼を羽ばたかせ、木々や岩を砕く凄まじい衝撃波とともに魔王が姿を現した。


『貴様がこの地点に降り立つことは予測していた。過去の勇者たちが残した軌跡を侮るな』


 彼女を象徴する煌めく細剣が頭上で強い輝きを放った。


『かかれ!!』


 エステルの号令により、仲間や兵士は素早い動きで魔王に攻撃を仕掛けた。


 剣士や拳闘士が包囲し、弓や砲撃士が合間を縫うように支援。


 遠距離では、魔法使いや退魔士が攻撃と援護を展開し、無駄のない連携が繰り広げられた。


 魔王の襲撃地点を当てただけでも秀逸なのに、その上で徹底的な包囲網を構築し、追い詰める。


 妥協が微塵も感じられない。


 徹底した戦略家だ。


 だが、いくら作戦が完璧といえど相手は魔王。


 魔王の餌食になる兵士や仲間が増え、徐々に陣形が崩れていき、優勢と思われた戦局は次第に劣勢に傾いていった。


 すると、最後方から猛スピードで最前線まで駆け抜けるエステルの姿を捉えた。


 自らが出なければならないと判断したのだろう。


 まだ多くのマスタークラスも生き残っている。


 魔王を包囲していることに変わりはない。


 戦力は申し分ない。


 陣形が崩れたといっても一部に穴が空いただけの状態で、采配と指揮で十分立て直せる段階だ。


 そんな中で下したその決断の早さと大胆さは並大抵ではない。


『自らその魂を捧げに来るとは愛いな。なぶり甲斐がある』

『貴様に愛でられるくらいなら迷うことなく死を選ぶ』


 彼女の身体が淡い金色に包まれた。


 そして、彼女の周りを小さな星のような光の玉が弧を描き始める。


存在証明の等価交換(チェックメイト)!』


 叫ぶと同時に、彼女は信じ難い行動に出た。


 その細剣で自身の左腕を貫いたのだ。


 その瞬間、魔王の左腕に光る星が浮かび上がり、鏡写しのように魔王の腕が張り裂けた。


 自傷による自身へのダメージを攻撃に転換する。


 それが彼女の固有スキルなのだ。


 傷付き機能を失った腕を気にも止めずに歩み寄る魔王。


 エステルは不適な笑みを浮かべ、今度は右足を貫いた。


 光の星が描かれると同時に、魔王の右足が悍ましい血飛沫を上げた。


 魔王が一瞬体勢を崩すのを見逃さなかったエステルは瞬時に飛び込み、鋭い突きを放つ。


 魔王の体は大きく飛ばされ、ついにその背中を地につけた。


 あの魔王を傷付け、攻撃を届かせただけでも信じられないが、まさかここまで圧倒するとは。


 いける。


 勝利を目前に、俺はいつの間にか食い入るように戦いに見入っていた。


 が、すぐにそれは幻想だということを思い知った。


『ククク。我に傷を付けたのは貴様が初めてだ』


 魔王が背筋の凍るような笑みを見せると、吐き気を催すような鈍い音が木霊した。


 同時に、大きく広がる波紋のように空間が脈打つ。


 みるみるうちに魔王の姿が変わっていき、受けた傷が修復されていく。


 額の鋭利な黒き角や、手足の爪はより長く、漆黒の翼は三対となり、見たこともない姿に変貌を遂げた。


 その姿よりも、息が止まりそうな程の、そのあまりに圧倒的な重圧と殺気に見ているこちらの身体が硬直する。


 異様な力を察知したエステルがすぐさま仲間たちに向かい叫んだ。


『撤退です!! 全員、直ちに撤退するのです!!』


 その瞬間、魔王の掴んだ手がエステルを地面に叩きつけていた。


 大地が轟音とともに崩壊する。


 エステルの身体が大きく弾み、その衝撃で周囲の岩壁が砕け散った。


『かはっ・・・!!』


 全身を強打したエステルの口から、大量の血が吹き出した。


 魔王の手は緩まない。


 そのまま反動で宙に浮いたエステルの頭を掴み、球を投げるように軽々と彼女を大地に投げつけた。


 石ころのように裂けた大地を転がるエステル。


『ほう。脆弱な人間の割には耐久力がある』


 魔王から出た言葉は、彼女の戦闘能力の高さを痛いほどに示している。


 だが、そんな彼女自身は、身体中から血を流し、右腕や左脚はありえない方向に曲がっていた。


 あまりにも見るに耐えないその姿に、思わず目を背けたくなる。


 そんな状態にも関わらず、エステルは笑って見せた。


『・・・傷つくことには慣れている。喜ぶには些か早い』


 すると、彼女はまだ動く方の腕で聖剣を逆手に持ち替え、自分の胸を貫いた。


 その瞬間、額の紋章が眩い光を放った。


 彼女の身体を包む光がより一層強くなり、やがて虹色のオーラを纏った。


 あれほどの傷がみるみる回復していく様は、奇跡というよりも、一瞬の煌めきに命を燃やす星屑のように儚いものに見えた。


『はあっ!!』


 最後の力を振り絞り、変貌を遂げた魔王と互角に渡り合うエステル。


 魔王の胸部に描かれた星の煌めきが強烈な輝きを放ち、眩い光が周囲を包み込んだ。


 星の紋様が弾けると同時に、凄まじい破裂音を響かせる。


 だが、命を賭けたその攻撃が届くことはなかった。


 突如訪れた奇妙な静寂が、限界を迎える合図となった。


 彼女の四肢が瞬く間に弾け、血飛沫を上げた。


 糸の切れた操り人形のように、彼女の身体が血溜まりに沈む。


 魔王の姿がゆっくりと元に戻っていく。


 もはや壊れた玩具に興が冷めたのか、激しく空間を裂き異空間へのゲートを開く。


 血溜まりに横たわる無惨な姿のエステルを一瞥すると、そのまま異空間の中へ消えていった。


 周囲には誰もいなかった。


 皆、彼女の撤退命令を忠実に守ったのだ。


『エステル様ーーー!!!』


 しばらくして戻った仲間の一人に抱かれるエステルの眼からは、もはや光は失われていた。


『・・・どれだけ万全に準備しようと、結局、ただ完璧なだけでは超えられないのですね・・・。記録は・・・?』

『ただいま王都で迅速に進めています。ご安心を』


 その言葉に、彼女の口角が少し上がった。


『・・・この戦いを。ここで起こったことを、必ず後世へ繋いで下さい。それが、未来の勇者たち、あるいは、いつか現れる魔王を倒しうる存在の助けになるはずです・・・』


 沈黙の後、エステルはそっと呟いた。


『・・・カルマナ。まだ、そこにいますか・・・?』

『私はここですよ。エステル・・・』


 大地に刺さった、血だらけの細剣から声が聞こえる。


『・・・あなたの力になれなかった不甲斐ない私を許してほしい・・・』


 もう目が見えないのだろう。


 暗闇の中を探るように、感覚を頼りに聖剣に触れた。


『いつかきっと・・・。あなたのその願いを叶えてくれる人に、巡り逢えるはずです。こうして出会った、私とあなたのように・・・』

『エステル・・・』


 虚な紫眼から滴る一筋の涙。


『・・・私が、あなたの願いを叶えてあげたかった。悲しませてしまって、本当にごめんなさい・・・』

『そんなこと言わないで。あなたは最善を尽くしてくれました。それが何よりも嬉しい。だからこそ願ってしまう。何としてでも生命を繋いで欲しいと・・・。だから・・・』


 反応はない。


 エステルはすでに生き絶えていた。


 胸を締め付ける悲しき別れの光景が、うっすらと消えていくーーー。


 ーーー目の前に、深緑の苔に覆われた残骸が佇んでいた。


 戻ってきたのだ。


 残骸の柄にそっと触れる。


「安心してくれ。その意志は、俺とロザリアがしっかりと受け継いでいる」


 そう呟くと、それに応えるように聖剣の残骸が光に包まれた。


 やがて小さな光の星になった残骸が、俺の手のひらに収まった。


 どれだけ万全に準備しても、か。


 俺は今まで、ロザリアを失わないために最善の選択をするよう行動してきたつもりだった。


 ループにより未来が分かっていたからこそ、同じ結末にならないように準備し、挑んだ。


 だが、それでも結末は変わらなかった。


 勇者も、聖匠も、いくら完璧な戦略を立てようが必要なピースが揃わなければ魔王という厚く高い壁は壊せない。


 どれだけの代償をその身に負っても。


 たとえ個人の能力が完璧であっても。


 それぞれに与えられた役目を全うし、互いに補うことで初めて戦略というものが機能する。


 エステルは、それを教えてくれた。


 無意識に左腕の紋様を撫でていた。


 どの時代の勇者も伝承に違わぬ猛者たちだ。


 しかし、そんな彼女たちの力を最大限に発揮できる存在がいなかった。


 聖剣の力を引き出すカルマナの力を借りても届かなかった。


 だが、この時代には三人揃っている。


 ロザリア。カルマナ。俺。


 これは決して偶然ではない。


 この巡り合わせには、きっと意味がある。


 ここで終わらせろと、歴史が告げている。


 皆の想いを無駄にしないためにも、これで終わりにするんだ。


 強く心に誓った俺の手の中で、星の結晶は静かに瞬いていたーーー。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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また、読み進める途中でも構いませんので評価をしていただけると大変嬉しいです!


これからも、どうぞよろしくお願いします!



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