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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第66話 堕落と忘却を見守りし精

 

「単刀直入に言いましょう。魔王の正体は、この世界を創造した天使ルシェリアです」


 馬鹿な・・・。


 創造主ルシェリアが魔王だと?


 そんな突拍子もない話を信じろというのか。


 奴は勇者一族を。この世界の人間を根絶しようとしているんだぞ。


「遥か四千年前、天より地に舞い降りた彼女は、まだ名も無きこの地を豊かにしようと世界と自身の分身を作り出した。それが、現在この世界に生きる人間のルーツです」


 確かに、セドリックに聞いた昔話と内容が酷似しているが・・・。


 だが、あまりにも唐突すぎる。


「きっと、一人では寂しかったのでしょう。人間の姿は彼女の容姿にとてもよく似ていた。それから時が経ち、やがて人々は自立し、各々が多様な技術を身に付けていった。人間は大いに繁栄し、それぞれの営みを育むようになると、命を授けてくれたルシェリアに感謝の念を抱くようになり、それを伝えるための供物を捧げることにしました」


 様々な疑問が湧き出るなか、カルマナの優しく包み込むような語り口に、その思いをぐっと胸の奥にしまい込む。


「食物。衣類。武具。装飾品。様々な供物が捧げられましたが、ある時彼女は、その中で彼女にとって一際強く惹かれるものを見つけた。それは、数多くの剣の山に埋もれる一本の剣でした。創造主をも魅了したその剣には、他にはない特別な力が備わっていたのです」

「それが剣に宿る魂。つまりは精霊・・・」

「ご明察です。彼女はすでに様々な職が誕生していた中で、それを作った者が鍛治士であることを突き止め、その人物と接触した。アルカディウスという名の彼は、鍛治士の中でも特に有能で、周囲からの信頼も厚い人物でした」


 創造主に捧げる聖なる供物を作り出す鍛治士。


「まさか、そいつが最初の聖匠なのか?」

「その通りです。正確には、彼の死後にそう呼ばれるようになったのですが」

「そして、そいつが打った剣にお前が宿った・・・」

「そういうことですね」


 聖剣と聖匠の始まりは、天使ルシェリアへの供物だったのか。


 カルマナの誕生も。


 しかし、まだ勇者の名前が出てこない。


 現在のように勇者と聖剣の関係は、一体どうやって構築されたんだ?


「天使ルシェリアはアルカディウスを大いに気に入り、彼もまた、創造主と創造物という枠を超えた感情を抱くようになりました。やがて二人は恋に落ちるのですが、アルカディウスの住む村には、これを快く思わない者が少なからずいました。そして、彼は恨みを買った村人の一人に殺害されてしまったのです」


 ジュリエットは言葉失い、ただ悲痛な表情で口元に手を当てている。


「それを知ったルシェリアは深い悲しみの底に突き落とされました。それほどまでに、アルカディウスを愛していたのです」

「彼女は、自らが生み出した人間がそのような行動を起こしたことに酷く落胆しました。そして、供物を捧げ彼女を元気づけようと訪れる人々を遠ざけるようになった。やがて、その悲しみは人間への憎しみへと変貌していき、ついには村を襲い壊滅させた」


 そして、その感情が世界へ向けられた・・・。


 なんてことだ。


 天使ルシェリアの取った行動は、まさに人間そのものだ。


 創造主といえど、人のように慈愛の心を持ち、人のように孤独を恐れ、人のように悲しんでいたというのか。


 カルマナは、俺の心中を汲み取るかのように静かに頷いた。


「そして、その憎悪は自らが生み出してしまった愚物、人間という存在そのものに向けられるようになりました。彼女は、人間と、創った世界を壊そうと強く誓った」

「神々しく頭上で輝く彼女を象徴した光輪は、彼女の心の嘆きを表すように黒く染まっていき、やがて砕け散った。そして、癒しを与える聖なる翼は禍々しい悪魔の翼と成り果て、かつての純白さや清純さの面影は消え去ってしまったのです」


 天使ルシェリアの堕落・・・。


「こうして、彼女は現在私たちの知る醜く邪悪な存在へと変貌を遂げ、現在に至るまで数えきれないほどの勇者と人間をその手にかけてきたのです」

「だから、魔王は抗い続ける勇者や人間を消し去るために何度も襲来していたということか」


 しかし妙だ。


 歴史を振り返っても魔王の襲来間隔は不定期で予測ができない。


 少なくとも数百年の間隔はあったようだが、仮に奴が世界を滅ぼそうと考えているなら、わざわざ時間を空ける意味があるのか?


 創造主ならば、世界を消し去るくらい簡単だと思うが・・・。


 それに、ルマリア大聖堂にある五大勇者の石像に刻まれていた没年は、近代に近づくにつれ間隔が短くなっていた。


 偶然なのか?


 それとも何か意味が・・・。


 気付くと、カルマナの澄んだ瞳は遥か遠くを見ていた。


「ルシェリアはアルカディオンの打った剣をとても愛していた。愛剣としていつも傍に置いてくれた。すでに剣の中に生まれていた私の存在は、当然ながらルシェリアに気付かれていて、よく話相手になってくれました」

「きっと、他の人から見たらルシェリアは独り言を言っているように見えたのでしょうね。それでも構うことなく、彼女は友人として私を必要としてくれた」


 その眼差しは、遠い過去の記憶を辿り、思いを馳せるような懐かしさや寂しさが滲み出ている。


「彼女は、私の姿を見ることができた唯一の存在です。互いに特別な存在である私たちが心を通わせるのに、そう時間は掛かりませんでした」


 彼女は、吐く白い息が消えゆくのを儚げに見送る。


「いつか、物には魂が宿るという話をしましたよね」

「ああ・・・。」


 彼女の言う物には魂が宿るという考え方は嫌いじゃなかった。


 どうしてか、とてつもなく強い説得力があったからだ。


「ずっと、自分のことを言っていたのです。私は、ほんの少しでいいから、誰かに理解してもらいたかった。人知れず後悔や失望感を抱き、悠久の時を彷徨い続けたあまりにも滑稽な、私という存在を」


 その言葉で、全てが繋がった。


 ヴァニラ遺跡で俺を救ってくれた時も。


 クリスタルドラゴンを倒した後にインビシブルを手渡してくれた時も。


 そういう意味が込められていたのか。


 そんな悲痛な思いも知らずに、俺は・・・。


 カルマナの瞳の光が、より強く、覚悟を滲ませたものへと変わる。


「私の願いは魔王討伐。ですが、それと同時に、これは彼女の魂の救済でもあるのです。私は、ルシェリアを憎しみの苦痛から解放してあげたいと、心から願っています。彼女の唯一無二の友人として」


 悠久の時を漂流することになってでも叶えたいカルマナの願い。


 それは、何にも代え難い彼女の優しさの表れなんだ。


「微力ながら勇者たちを支えてきましたが、その全てが失敗に終わりました。それでも必死に足掻き続けたこの四千年間を無駄にするわけにはいかない。立ち止まるわけにはいかない。もう、終わりにしたい・・・。でも、生命としての限界が近づいていました」

「深い絶望に憔悴しきり、もはや死に場所を探していたその時、一本の剣に辿り着きました。未完成の上、お世辞にも綺麗とは言えないその剣の温かさに、なぜか私は惹かれました。優しく包み込んでくれるようなその剣で眠ろうとした時、私を呼ぶ声が聞こえたのです」


 彼女の慈愛に満ちた満面の笑みが咲き誇る。


「カインさん。あなたの呼ぶ声が」

「あなたの存在が、消えゆく私の命に再び息を吹き込んでくれたんです」


 その言葉に、心の中を覆っていた分厚い雲が消え去っていくのを感じた。


 長い間ずっと光が差し込まなかった道角の影に、ようやく陽の光が照らされたような、そんな清々しさで心が満たされていった。


 同時に、必死に探し回っていたものが足元に落ちていたことに気付き安堵した時のように、それは呆気なく見つかった。


 まるで、ふと無くしものを見つけたのを思い出した時みたいに。


「全部、思い出した・・・」


 聖剣インフィニティ。


 セドリックの小屋で出会って以来ずっと・・・。


 コロシアムでの命を削るような苦しい戦いの時間も。


 ロザリアと出会い、魔王討伐を目指すまでの長い時間も。


 ずっとそばに居て、ずっと一緒に戦い続けてくれた俺の愛剣。


 自分の不甲斐なさに嫌気が差し、現実から目を背けるように投げ捨てたあの剣。


「あれは、お前だったんだな」

「もう〜。ここまで説明してやっとですか。四千年の時を漂流するよりも長く感じちゃいましたよ」


 それ以上は口を噤み、彼女は何も言わなかった。


 代わりに一筋の涙が頬を伝う。


 それが、彼女の想いの全てを物語っていた。


 彼女はただ温かい微笑みを浮かべて言った。


「お帰りなさい。カインさん」


 たった一言。


 そっと掬い上げるように優しく投げかけられた彼女の言葉に、抑えきれない想いが込み上げてくる。


 長い冬が終わり、雪解けた心がゆっくりと、じんわりと温かみを帯びていくように。


 止めどなく湧き上がる様々な感情は、溢れる涙となって俺の頬を温かく濡らしていたーーー。

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