間話⑥ー煌めくコンフェッティー
※視点が変わりますのでご注意ください
ここは、どこだろうーーー。
上を見ても、下を見ても、どこを見渡しても真っ白い風景が広がっている。
もしかして、天国・・・?
死後の世界って本当にあったんだ。
でも、一体どうして・・・。
ズキン。
痛みに思わず額に手を当てると、ある光景が浮かんだ。
この世のものとは思えない、禍々しく伸びる漆黒の双角と翼。
見たもの全てを氷漬けにしてしまうような冷めた眼。
そんな魔王を斜め上から見下ろしている。
そうか。
私は今、あの決戦を見ているんだ。
そこに、ドレスを着た黒髪の少女が飛び込んでいくのが見えた。
魔王に攻撃を仕掛ける私の姿だった。
その時、駆けていく私の中に引き寄せられるかのように、意識だけが映像に引っ張られる感覚を覚えた。
不思議。自分に自分が乗り移っているような、そんな感覚。
その瞬間、心臓を鷲掴みにされたような重々しい感情が一気に蘇った。
恐怖に塗りつぶされ怯えきった眼は、焦点がまるで合っていない。
体は強張りぎこちない。
嫌でも解る。
魔王と対峙し、あのとてつもない圧倒的なオーラに触れた時、すでに私の心は折れていたんだ。
映像を見せられているだけなのに、目の前にいる魔王に対してあの時抱いた恐怖は現実そのもの。
こんな不安定な精神状態で飛び出して行くのは、どこからでも攻撃してくださいって言っているようなものだ。
隙だらけ。無事で済むわけがない。
人形のように感覚のない体が、魔王の掌から発せられた衝撃波により吹き飛ばされ、壁に激しく衝突した。
ほら、やっぱり。
こんなの、誰がどう見たって分かる結果だ。
体はピクリとも動かない。
どうやら気を失ってしまったようだ。
自業自得。
それでも、目の前に広がる残酷なまでに悲惨な情景は止まることはない。
カルマナ様が、私を庇おうと飛び出した。
喰われそうなカルマナ様を助けようと自らの体に鞭を打ち攻撃を仕掛けるお師匠様。
みんなバラバラだ。
陣形も。それぞれの心も。
連携も何もあったものじゃない。
そして、二人を守ろうと魔王の間に滑り込むように割って入ったロザリア様。
一瞬、思わず目を背けた。
恐る恐る顔を上げると、最悪の光景が目に入った。
ロザリア様の美しい肢体は魔王の狂爪に切り裂かれ、流れる鮮血と共に無惨に腸が漏れ出ていた。
その真紅の瞳からはかつて宿した輝きは無くなっていた。
地獄のような光景に、胸が押しつぶされそうになった。
ロザリア様・・・!!
枯れるくらい声を出しているはずなのに、不気味とすら思える静寂だけが私を包み込む。
見たこともないくらい蒼白な顔で叫ぶお師匠様。
やめて・・・!
これ以上見せないでっ・・・!!
お師匠様がカルマナ様に何かを叫んでいる。
今まで見たことないくらい怖い形相でカルマナ様を睨んでいる。
およそ人に向けるべきではない蔑んだ視線。
そんな二人の姿が涙で歪んでいく。
・・・・・。
・・・私のせいだ。
私が無茶な行動をしたからみんなが・・・。
私が取り乱したりなんかしたから、ロザリア様がっ・・・!
己の行動に深く後悔しその場に崩れ落ちた。
自己嫌悪に陥り頭を抱えていると、再び情景が変化した。
これまでの絶望的な光景は、いつの間にかすっかりなくなっていた。
今度はある場所に立たされていた。
セピア色の空に、どこまでも広がる水平線。
色褪せ古ぼけた昔の写真を見ているようだ。
何だかアンティークの世界に紛れ込んでしまったかのよう。
ふと足元を見ると、水面の上に立っていた。
海・・・?
水面は風に揺らぎ、少しさざなみが立っている。
視線を上げると、切り立った崖の上にひっそりと佇む教会が目に入った。
しばらく教会を眺めていると、景色が緩やかに歪み出した。
気付けば頬に温かいものが伝っていることに気づいた。
あれ?
私は、泣いているの・・・?
どうして・・・?
悲しくはない。
だってここは、見知った場所でもなければ特別思い入れのある景色でもない。
それなのに、胸が強く締め付けられるようなこの苦しみは、一体どこから湧き上がってくるの?
あなたは・・・誰?
自分の中に感じた、まるで他人のもののような感情に問いかける。
すると、映された景色は再び姿を変えた。
今度は今し方見上げていた崖の上だ。
青い空。
同じくらい深く青い海。
振り返れば、青い屋根が映える白い教会がポツンと建っていた。
さっきと打って変わって、カラフルで生き生きとした色彩に囲まれていた。
視線を広がる水平線に移したその時だった。
空から光に包まれた小さな花びらのようなものが一枚、ひらひらと舞い落ちてきた。
目を凝らしてみると、小さな花びらの中に、まるで映画のワンシーンのような映像が映っていた。
これは・・・。
顔を上げると、映像を映した花びらのようなものは紙吹雪のように、あるいは深々と降る雪のように降り注いでいた。
一つ一つが強い輝きを放ち、そのどれもが様々な映像を映していた。
そして、とても強い力を感じる。
導かれるように、そっと花びらの一つに手を伸ばす。
すると、突然強い風が吹き、思わず目を瞑った。
目を開くと、目の前で巨大な魔物と勇敢に戦う少年の背中が目に入った。
細く小さな手には、身長よりも長い剣を携えている。
小さいけれど卓越した体捌きと、大人顔負けの剣技。
それが誰なのかすぐに分かった。
お師匠様だ。
そうか。
これは、お師匠様の記憶の断片なんだ。
気付くと、再び光の花びらが舞い落ちる崖の上に戻っていた。
もう一度、今度は違う映像を写した花びらに触れる。
元気いっぱいの金髪の女の子に手を引かれ走るお師匠様の姿。
背中にはあの長い剣が担がれている。
また景色が変わった。
大きくなった先ほどの金髪の少女と肩を寄せ合い会話をするお師匠様。
この綺麗な人はロザリア様だ。
二人とも楽しそうに会話をしている。
お師匠様の傍には、まるでピッタリと体を寄せ体を預けるロザリア様のように、かの剣がそっと置かれていた。
ーーーどれくらい時間が経ったのだろう。
気付けば、いつしかお師匠様のことをもっと知りたいという衝動に駆られ、自ら花びらを求めるようになっていた。
まるで散乱した大切な玩具を必死にかき集めるように。
記憶の断片を見る度に成長していくお師匠様やロザリア様の姿を垣間見た。
無数に舞い散る花びらの中で、一際強い光を放っていたものがいくつかあり、その中のいくつかは目を背けたくなる光景だった。
魔王との決戦。
果敢に挑むも無惨に殺されてしまうロザリア様と、それを嘆くお師匠様。
四度、その光景を見た。
信じられないことに、お師匠様はロザリア様が殺される度に時を戻していたんだ。
魔王に挑むたびに、お師匠様の姿が私の見慣れた姿へと変わっていく。
いつの間にか、武器も剣ではなく銃に変わっていた。
能力値が飛び抜けていくごとに背負わされる体の不自由。
時を戻す代償。
それでも、お師匠様の願いは寸分も乱れることなく輝き続けている。
お師匠様は、たった一つ未来の結末を変えるために戦い続けているんだ。
ずっと一人で・・・。
なんて無慈悲で、残酷な運命なんだろう。
お師匠様がこんなにも苦しんでいたこと、私は何も知らなかった。
私たちが魔王に挑んだあの戦い。
お師匠様は己の全てを賭けていたんだ。
それなのに、私の取った安易な行動で全てが崩れた。
私が、お師匠様の想いを粉々に砕いてしまったんだ・・・。
力なくその場に座り込むと、景色は記憶の断片が降り注ぐあの崖の上に戻っていた。
崖の先にお師匠様が立っている。
その絶望に満ち、悔しさを滲ませた視線は、鞘に収められた剣に向けられていた。
やがて、お師匠様の見つめる剣に向かい、舞い散る記憶の断片は一気に収束していく。
だめーーー。
それだけはいけないーーー。
どうしてか凄まじい焦燥感が湧き上がった。
荒波のように押し寄せるどうしようもない悲しみが、強く私を締め付ける。
私の中で何が起こっているのか全然分からない。
また、他人のような誰かの感情だ。
この渦巻く感情はきっと私のものじゃない。
誰のものかは分からないけれど、とてつもない寂しさだけがひしひしと伝わってくる。
ただただ締め付けられる胸の痛みに、涙を堪えることができない。
やめて! お師匠様・・・!!
叫ぶけど声にならない。
水の中にいるような息苦しさを感じる中、必死に手を伸ばす。
張り裂けそうな想いは伝わることもなく、ついにお師匠様はその剣を大海原に向かい投げ捨てた。
突然、全てが綺麗さっぱり無くなってしまったような、恐ろしいくらい静かな虚無感に襲われた。
疎外感。孤独感。無力感。
じわじわと湧き起こる悲しみの感情たち。
世界から断絶されたような感覚だけが、心を支配していた。
でも、何よりも、あの人に見放されてしまったことが私の心を抉った。
深く。深く・・・。
もうぐちゃぐちゃでわけが分からない。
この感情の嵐はなに?
どうしてこんなに苦しいの?
どうしてそれでもそばに居られるの?
分からない。
自分が自分じゃないみたいだ・・・。
滲むお師匠様の背中を見つめたまま、溢れる涙を拭うこともせず、ただその場に座り込んでいた。
やがて、目の前に広がる風景は光の粒の中へ消えていき、気付けば真っ白な世界にいた。
古びた大きな時計版がどっしりと構え、その重い秒針を進めている。
呆けたまましばらく時計版を見つめていると、針がわずかに振動し始め、重くゆっくりと時を刻む音が止まった。
そして、力一杯持ち上げるように針が一つ戻った。
その瞬間、記憶の断片たちが紙吹雪のように舞い上がりながら集まっていき、太い一本の束となっていく。
やがて、それらは一本の光の道となり遥か遠くまで伸びていった。
今なら解る。
お師匠様が能力を発動したんだ。
先へ進めと、言われているような気がした。
気付けば、あの例えようのない虚無感はどこかにいってしまっていた。
ふと、お師匠様との日々を思い出す。
お師匠様は、いつも私に眠る力を信じてくれた。
こんな私に自分を信じろと言ってくれた。
カルマナ様に剣を返す時、何も言わないでいてくれた。
いつも優しくしてくれた。
おもむろに立ち上がり、彼方まで伸びる光の道をまっすぐ見つめた。
この先に待つのは、五回目の世界線。
お師匠様・・・。
無意識に作っていた小さな握り拳を見つめる。
今度こそ、力になりたい。
今度は私がお師匠様を支えるんだ。
お師匠様を閉じ込めた時の監獄を、私が壊すんだ。
終わらせなきゃいけないんだ。
もうあの時の私じゃない。
もうこれ以上、お師匠様にだけ背負わせたりしない。
未来を変えるんだ。
助けるんだ。
ロザリア様とお師匠様を。
待ってて。お師匠様!!
決意と覚悟を秘めた力強い足取りで光の道を進んでいく。
そして、記憶の断片たちが作り出す色鮮やかなアーチをくぐり、私は光のなかへ飛び込んだーーー。
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