第60話 五つの雄魂
ロザリアたちと和解することに成功した俺たちは、それぞれの試練を乗り越えた暁に再びドルガリスに集まることを約束し、ひと足先に旅立つ彼女たちを見送った。
「次はヴァルムレイクだろ? 一緒に行ったほうが良かったんじゃないのか?」
「おやおや? ロザリアと離れ離れで寂しいですか」
「な、なぜそうなる?! 目的地が同じならわざわざ別行動する必要はないと思っただけだ!」
「ほっほ〜う? そうですかそうですか」
イラっとしてすぐさまミトラをふんだくった。
「ああっ?! 返してください! それがないと大司教としての威厳が!!」
「ダメだ。返してほしければちゃんと謝るんだ」
「ごめんなさい」
驚くほど早いな。
調子に乗ったこいつを黙らせるにはミトラを取っ払うのが一番だと気付いてから、こうして事あるごとに取るようにしているのだが、まさかここまでの効果とは驚きだ。
初めは狼狽えるこいつが面白く思えていたが、最近ではあまりにも同じ反応を示すその姿が奇妙に見える時がある。
「お前、本当に人間か?」
すると、カルマナは大袈裟に両手を広げ、その大きな垂れ目をパチクリさせた。
「どう見ても人間じゃないですか。どこかおかしいところあります?」
・・・どうやらこれ以上深く追求するのは無駄のようだ。
「ロザリアはロザリアの試練、宝玉の収集があります。私たちは私たちの試練を乗り越えましょう」
扉の前に立つカルマナ。
何をしているんだあいつは?
ルマリア大聖堂の扉に手をかけた彼女の姿に、俺とジュリエットは顔を見合わせた。
「とうとうボケたか。俺たちは今し方そこから出てきたんだぞ」
すると、カルマナはゆっくりとこちらに振り返った。
そしておもむろに腕を上げ、空気を撫でるように自然とその手を額に持っていく。
「私は悲しい。やはり、天啓を授かりし我が天眼の啓示は汝らには届かぬか」
「てんがん? けいじ?」
首を傾げるジュリエットの肩にそっと手を置いた。
「行こう。仲間だと思われる」
「ああっ!? 待ってくださいよ〜!! 本当にここなんですってぇ!!」
俺の腕に纏わりつくカルマナの顔はなんて酷いものか。
「分かった。分かったから離れろ」
ルマリア大聖堂は勇者が『祖光継諾の儀』を行う場所であり、また、歴代勇者パーティの名が刻まれた『雄魂碑』と呼ばれる巨大な石碑が安置されている場所でもある。
石碑には、儀式時にドルガリス王によりその代の勇者パーティメンバーの名が刻まれる。
当然、ロザリアをはじめフリードたちの名も刻まれているのだが、それ以外特別なものはなかったはずだ。
「ここに聖剣が眠っているとでも言うのか?」
「その通り。大聖堂の地下に」
地下だと?
「地下には石碑と勇者像しかないと記憶しているが」
「ふふっ。行けば分かりますよ♪」
半信半疑のまま、鼻歌を歌いながら大聖堂へ入っていくカルマナの後を追う。
西陽をカラフルな絵画として床に映し出す身廊を真っ直ぐ進んでいく。
剣を掲げる勇者像の佇む内陣の裏に、下へ続く階段が伸びていた。
「さあ、行きましょう」
薄暗い中、カルマナの背中を目印に長い階段を下って行くと、そこから更に回廊が伸びていた。
周囲を照らす壁の松明が乾いた音を立てている。
そのまま進んでいくと、古びた扉の前に純白の司祭服に身を包んだ一人の男が立っていた。
「石碑からその名を削除された男がここに何の用かね? ここは勇者の血を引く者のみが立ち入ることを許された神聖な場所であるぞ」
訝しみながら見下ろす司教の前にカルマナが立つ。
「こんにちは。私、カルマナ・イヴァンジェリスタと申します。そこを何とか許可をいただけないでしょうか?」
「イ、イヴァンジェリスタ?! どこでその名を?!」
カルマナの名を聞いた瞬間の司教の取り乱し方。
こいつが本当に大司教だということが証明されてしまった。
何となく残念だ。
「いやいや、どこでも何も本人ですとも。でも、その様子を見る限り忘れてしまったわけではなさそうですね。エテルヌス教徒は真面目で何よりです♪」
「勿体なきお言葉」
司教は扉を開くと、そそくさと傍に避けた。
「さあ、入りましょう♪」
金色の刺繍の入った赤い絨毯が敷かれた広々とした空間。
向かって左手には、天井まで届く巨大な『雄魂碑』に刻まれた歴代勇者パーティの名が微かに光を帯びている。
上の内陣のように奥は曲線を描いていて、その前には祭壇の代わりに五体の大きな石像が鎮座していた。
右端に向かうにつれ、像の色合いが明るくなっている。
向かって一番左のセミロングを後ろで束ねた重厚な甲冑に身を包んだ像は、真正面に聖剣を突き立て、威風堂々としている。
その隣の像は、ネックレスやピアス、ブレスレットに至るまで、やたらと装飾品が多いのが目立つ。
真ん中は、石像であるにも関わらず、その強い目力と圧倒的な孤高さが感じ取れる。
対照的に、その隣の像は物静かな雰囲気を醸し出しており、思慮深そうなその立ち姿から知的さが窺える。
一番右の像は、その他と比べるとやや見劣りするが、小さく微笑んでおり、左肩から垂れる三つ編みの髪が優しさを表していた。
足元を見ると、それぞれの石像の足元には加工された小さな石が置かれ、戦場と没年、名前が刻まれていた。
「カナリア。ネフィリス。アマリス。エステル。フローリス。皆、過去に魔王と戦った勇敢な勇者たちです」
物憂げなカルマナの視線を追い、石像たちを見上げた。
後世の人間により作られた遺物とはいえ、この空間を覆い尽くす神秘性と威厳は凄まじいものがある。
まるで今にも動き出しそうなくらいの覇気が感じられる。
これが歴代勇者。
堂々とした佇まいに感嘆していると、ジュリエットは足元の小さな石に注視していた。
「没年も戦場も全然違うのですね」
「はい。初代勇者カナリアが魔王討伐のために立ち上がって以降も、たくさんの勇者たちが討伐を試みましたが、皆例外なく犠牲になりました。その中でもこの五人の勇者は、長い歴史の中で特に特別な強い力を持った勇者でした。そして奇妙なことに、数少ない魔王からの襲撃を受けたということが、この五人の勇者に共通しているのです」
勇者の歴史では、勇者は覚醒した時を天啓とし巡礼に旅立ち、宝玉を集め、魔王の住まう異空間への扉を開いていたとされる。
だが、文献には少ない事例として、魔王自らこの世界に降り立ち襲撃したという記録も残っている。
勇者の犠牲とその歴史の長さから考えればごく僅かなものだったが、それはこの五人の勇者の時を指していたということか。
カルマナはネフィリスの像の前で両手を合わせ、祈りを捧げた。
すると、突然目の前に強い光が発し、空間ごと俺たちを覆い尽くした。
「ここは・・・」
さっきまでの厳かな雰囲気はなくなり、静けさだけがあたりを包んでいた。
どこか遠くで水の滴る音が響く。
そしてひんやりと冷たい空気。
周囲は剥き出しの岩で覆われ、天井からはほんの僅かな陽の光が合間を縫って差し込んでいた。
どうやら、いつの間にか洞窟の中に転移したようだ。
「さあ、目的地に到着しましたよ」
カルマナの指差す奥の方へ目をやると、そこには祝福を受けるようにささやかな陽の光に照らされた聖剣の残骸がひっそりと佇んでいた。
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