第55話 役割に潜む本音と建前
俺たちはロックバスティオンに入国してすぐにジュリエットと別れ、町を散策していた。
ピタッとくっつき腕を絡めるカルマナ。
「はい、ダーリン♪」
こんがり焼けた長めのパンに何かを挟んだサンドイッチが目の前に突きつけられていた。
早く取れと言わんばかりに腕を振っている。
・・・・・。
「・・・意地でもそのキャラ崩さないんだな」
「これはデートなんですよ? 恋人らしくしないと意味がないじゃないですか」
「それはそうだが、お前のは明からさますぎるんだよ」
なぜか、漆黒の翼の連中へのカモフラージュとして恋人同士を演じようという流れになった。
俺たちは奴らと接点があるわけではない。
偽装する必要など全くないにも関わらず、だ。
言い出したのはもちろん、隣で一人美味そうにサンドイッチを頬張っているこいつだ。
許してくれロザリア。
これは連中を欺くために仕方なく付き合っているのであって、決して本心では・・・。
「やっぱりカインさんと食べるのは最高に幸せですね♪」
くっ。その笑顔はずるい。
だが、この温もりに何度も癒され助けられてきたんだよな・・・。
・・・はっ!?
俺は一体何を考えてっ?!
「ほら、早く食べないと冷めちゃいますよ?」
「あ、ああ・・・」
挟まれている具は肉か?
食欲をそそる良い香りだ。
茶色い特製のソースが塗られていて、照った色合いもまた・・・。
伸ばしかけた手を引っ込める。
よく見ると、具材は太い尻尾らしきもので、火が通っているにも関わらずまだピクピク動いている。
見るからにグロテスクだ。
「ガジュラドックというらしいです。この国の名物なんですって」
カルマナは大胆に頬張り、幸せそうな笑みを浮かべてうっとりと余韻に浸っていた。
「んん〜最高ですねぇ。じっくり時間をかけて煮られた肉はとろけるほど柔らかく、それを引き立てつつも優しく包み込むような濃厚なソースが硬めのパン生地に程よく染み込んで、心地良い食感を作り出しています♪」
ガジュラザウルスという魔物はロックバスティオン特有の魔物で、外皮は革製品、牙や爪は武具にと、さまざまな用途に使用されている。
大きく垂れ下がった耳に、丸々と太った体を太く短い四つ足が支えている。
豚に牙と爪をつけ、より凶暴にしたような姿といえば分かりやすいかもしれない。
ガジュラザウルスの尻尾は太く、脂肪分を多く含んでいて、このように食用として利用されるのが一般的な部位だ。
肌にも良いとされ、特に女性に人気がある。
ガジュラザウルスは生命力が強いため、手足を切り落としたとしてもしばらくは動き続ける。
俺は、そんな奇妙な生き物が昔からどうしても受け入れられない。
「俺の分も食べていいぞ」
「本当ですか?! ありがとうございますっ」
目にも止まらぬ速さで奪われた。
この食欲はロザリアに匹敵するかもな・・・。
あれからかなり時間が経ったが、特に変わり映えしないまま尾行を続けていた。
「う〜ん。まだジュリエットさんに動きはないみたいですね」
「もう少しの辛抱だ」
ジュリエットに接触する漆黒の翼の奴らを釣るためだ。
尾行は忍耐力がものをいう長期戦。
常に目標をロックオンし、集中力を切らしてはいけない。
そうこうしているうちに、いつの間にかすっかり夜の帳が降り、町中の光が夜空を照らしていた。
しばらく後をつけていると、ようやくジュリエットに変化が起きた。
三人の黒服に身を包んだ、いかにも裏社会らしい身なりの男三人に囲まれている。
「漆黒の翼でしょうか?」
「十中八九そうだろうな」
「入国してからかなり時間が経ってます。なかなか見つけられなかったのでしょうか」
「この町に入ってからリブラを発動していたが、やはり元々包囲網は出来上がっていたようだ。慎重に機会を見計らっていたんだろうな」
「方角からして例の倉庫ですね。って・・・」
突然、カルマナは妙に憂いを帯びた深いため息を吐いた。
「どうした? さっきのサンドイッチが当たったか?」
「違いますよ! 相変わらずの魔力量に呆れただけです。今となってはあんなに驚いていた自分が懐かしいです」
「俺にとってはこれが通常運転だからな」
二回目の溜め息が聞こえた・・・。
「とにかく、俺たちが侵入するのはアルフォンスが倉庫に入ってからだ。ジュリエットと俺たちで奴を挟み撃ちにし退路を断つ」
「失敗はできませんね」
恐らく、自ら進んで条件を呑み指示に従う振りをするジュリエットが眠らされることはないだろう。
彼女の演技力の高さは、時折見せるモノマネにもよく表れている。
ある程度行動は制限されるだろうが、事の顛末を知っている俺たちも彼女もそれは想定済み。
今のジュリエットなら問題なく対処できるはずだ。
とはいえ、前回アルフォンスはすぐさまライオネルに発砲した。
故に、奴が倉庫に入った瞬間を狙う。
タイミングが命。
男に囲まれたまま歩くジュリエットは、港の外れの倉庫に入って行った。
やはりあそこか。
離れた場所から倉庫を見張っていると、武装した数人の男を引き連れアルフォンスが中へ入って行くのを確認した。
横で待機するカルマナに合図する。
「行くぞ」
虫の鳴き声の響く中、俺たちは颯爽と倉庫の扉へ向かい駆け出した。
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