第54話 少女の決意と変える未来
色とりどりの明かりが灯る出店通り。
人々の雑踏で賑わうウルフスタンの町明かりに照らされながら、俺たちは宿屋を探していた。
ジュリエットと思わぬ形で再開した俺たちは、結局ここで宿を取り一晩過ごすことに決めたのだ。
それにしても相変わらず賑やかな町だ。
もうすっかり夜だというのに、肉の焼ける香ばしい匂いや果物の焼ける甘い香りが町中に漂っている。
そんな人で溢れる大通りを抜けると、町の外れにあるひっそりと佇む木造の宿屋を見つけた。
「ここにしよう」
木の香りと優しいオレンジ色に揺れる蝋燭の炎に癒された部屋のベッドに腰掛ける。
「つまり、ジュリエットも前回の記憶を引き継いでいるということか」
「はい。この現象が未来に何かしらの変化を生じる可能性もあるんじゃないかって」
カルマナに続いてジュリエットまでとは驚いた。
「もし悪い方へ影響してしまえば、お二人と再開できないんじゃないかと怖くなってしまって・・・。いても立ってもいられなくなって、それで飛び出してきたんです」
五回目のループが成功した時、すぐに町で確かめてみたが一般人で記憶を引き継いでいる奴は誰もいなかった。
この二人だけだ。
仲間として行動を共にしたからか、それともカルマナ同様『廻天』の影響下に居合わせたからなのか。
いや、そうだとしたらロザリアたちも記憶を引き継いでいてもおかしくない。
カルマナのようにジュリエットにも断片的に俺の記憶が流れ込んでいるのだろうか。
「あの時はお師匠様がロザリア様の代わりに巡礼している理由や、その行動を深く理解することなく、ただ剣技を磨きたい一心でご一緒させて頂きました」
そういえばジュリエットと剣を交えた時、俺の技を見るや急に態度が変わったな。
あの変容ぶりと熱量には驚いた。
「お師匠様のロザリア様への想いに触れてから、ずっと考えていました。魔王との戦いの時、己の弱さが招いた行動によりお二人やロザリア様を窮地に追い込んでしまった。あれは全部、私のせいだって・・・」
今にも泣き出しそうにうつむく彼女の表情から、後悔の大きさが痛いほどに伝わってくる。
「だから、全力でお二人を守りたいって、支えたいって思ったんです。もう、こんな惨めな思いはしたくない。もう二度とお荷物になりたくない・・・」
「それは違う。魔王に負けたのは俺のせいだ。俺が判断と選択を誤ったから、お前たちやロザリアのパーティを危険な目に合わせてしまった。お前はよくやってくれた」
カルマナは安心させるようにジュリエットの頭を優しく撫でた。
「あんな禍々しい力を見せられたら誰だって正気じゃいられませんよ。私だってまともに動けませんでしたし。誰のせいでもありません」
「カルマナ様・・・」
「強いていうなら全部一人で背負おうとしたカインさんのせいですね。事情を知っていれば力になれることがあったはずですから」
カルマナの視線が痛い。
わざわざ念を押さなくてもいいだろ。
「・・・反省している」
「あははっ。ちょっと意地悪が過ぎましたね」
彼女は考え込むように首を傾げた。
「むむぅ? でも大丈夫ですか? 私とカインさんが出会うのはループの初めの方でしたので影響は少ないかもしれませんが、ジュリエットさんに関してはその・・・。お家の問題とか裏社会の問題とか色々あったじゃないですか。その未来が変化しちゃったりしませんか?」
「お二人と出会った時はすでに家を出ていましたし、漆黒の翼も脱退していました。ですので、少なくとも私に関して未来が大きく変わることは恐らくないでしょうし、お師匠様の未来にも影響は出ないと思います」
ジュリエットは申し訳なさそうにうつむいた。
「お父様やアルフォンスとの出来事は避けらないと思いますが・・・」
カルマナはジュリエットの手を優しく握る。
「思い出させるようなことを言ってごめんなさい。不安にさせてしまいましたね」
ループしている以上、このまま巡礼を続けていけば前回と同じことが起こるのは必然。
だが、事前に起こることが分かっているなら対処できる。
「提案なんだが、ライオネルを助けないか? 救える命は救いたい」
魔王との対決にさほど影響がない出来事ではあったが、何よりジュリエットの悲しむ姿は見たくない。
助けられるかも知れない命をみすみす見殺しにするのも気分が悪い。
それが大切な仲間の肉親なら尚更だ。
エレノアにも世話になったしな。
あまり時間がないとはいえ、今はもう俺たちのやるべきことは決まっているんだ。
もう道を見失うこともない。
気付くと、カルマナは涙で目をうるうるさせこちらを見ていた。
「偉いです!!」
「別に偉くない。仲間の肉親が死ぬのが分かってて放置するのは後味悪いだけだ」
「大丈夫です! ここにいる三人は同じ記憶を共有している仲ですからね! きっと助けられますよ!」
「お師匠様。カルマナ様・・・」
啜り泣くジュリエットの頭をそっと撫でる。
「大丈夫だ。もうあんな悲しい思いはさせない」
「お二人があの時どんな気持ちで助けに来てくれたのか、今なら全部分かるんです。お二人のためにも、私は全力でその想いに報います」
「あの時は、ロザリアやエルドリックに追われることへの焦りから自分の体の変化を疎かにした。その結果あんなことになった。同じ失敗は二度としないさ」
すると、カルマナはニヤニヤしながら目を細めた。
「あの時のカインさん、自分が壊れそうなのに必死でしたもんねぇ」
「うるさい」
ジュリエットと聖剣が漆黒の翼の連中に監視されるのはロックバスティオンに入ってからだ。
狙われたのは気の緩んだ真夜中。
入国の段階でジュリエットと別行動を取れば連中の警戒心も和らぐかもしれない。
「よし。そうと決まればすぐに船に乗ろう」
「ま、この私がいればカインさんの出番はありませんけどね」
確かにな。
自慢の聖剣も鞘を抜き、ちゃんと剣として扱えている。
それ以上に、彼女の身体能力の向上が著しい。
身のこなしがここまで改善することなんてあり得るのか?
これは前回では考えられないことだった。
まさか俺のようにループの影響で?
いや、能力値を見ても至って普通だ。
だとしたら、一体何が・・・。
「ロザリアさんの方はどうしますか? 急がないと追いつけなくなってしまいますよね」
「それは大丈夫だ。ロザリアが『祖光継諾の儀』を終えるのに十四日。二週間もあれば、あいつらがドルガリスにいる間に終わらせられるはずだ」
「なるほど! そこまで織り込み済みだったというわけですね」
左腕の紋様の制約で戦闘時間が極端に短くなってしまったが、前回に比べればコンディションは遥かにマシだ。
二人もいるしな。
「よーし! それでは早速向かいましょう!」
こうして、俺たちはライオネルを救うべくロックバスティオンへ急行するのだったーーー。
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