第49話 立場逆転
心が折れ、一時は死すら考えていた俺は、再びカルマナに救われ旅を再開することができるようになった。
「まずはウルフスタンへ行きましょう」
「もしかして、『天使の加護』か?」
「大正解っ♪ あれをもう一度取りに行くんです」
「賛成だ。俺もあの鉱山を目指すつもりでいた」
すると、カルマナの顔がパッと明るくなった。
「ほらっ! 考えていることは同じ! やっぱり私とカインさんは目に見えないかた〜い糸で繋がっているんですよ! 切っても切れない関係なんですっ」
俺の手を引くテンポが早くなったと思ったら、急にその足が止まった。
「そうだ。いっそのことカインさんには戦闘禁止令を出しましょうか。それなら固有スキルの副作用も影響しないでしょうし」
「有難い。それなら遠慮なく楽させてもらう」
「即答?! 否定してくださいよ! こんなにか弱くて守ってあげたくなる女の子に一人で戦わせるなんてどうかしてます!」
言い出したのはお前だが・・・。
「もぅ・・・。カインさんてば立ち直ったらすっかり開き直って」
「俺を地獄から引っ張り上げたのはお前だからな。責任は取ってもらう」
「なに乙女みたいなこと言ってるんですか」
開き直るというより、ちゃんと信頼できているといった感覚だな。
そう。今となってはロザリアに背中を預けている時のような絶対の安心感がある。
「お前の力を信頼しているからな。見たところ、かなり剣も使いこなしているようだし、安心しているんだ」
「おお・・・。あのカインさんがこんなに素直になるとは、本当にどん底だったのですねぇ」
一言余計だ。
「ふふふ。まあ、本当に戦うのが私一人でも大丈夫ですよ。今の私には、この伝説の聖剣『セレニティ』がありますからね」
セレニティ・・・。
その単語を聞いた瞬間、胸の奥でかすかな違和感が波紋のように広がった。
何かを思い出しそうで思い出せない、もどかしさと空虚感が入り混じる。
喪失感がじわじわと押し寄せ、まるで心の中の何かが抜け落ちたような感覚だ。
前回の、ヴァルムレイクの後から感じていた喪失感に近い気がする。
ん・・・?
「剣に名前付けたのか?」
「ノンノン。初めからこの名前でしたよ」
「見え透いた嘘を。知りませんと豪語していただろ」
すると、カルマナは待ってましたと言わんばかりに顎を上げ、手で顔を覆った。
「フッ! まんまと騙されるなんて、あなたもまだまだ甘いですね。それは仮の姿であって、本当は知っていたのですよ」
だから、そのクソダサいポーズは一体誰に向けられているんだ。
「きっと呆れた剣がお前を見放していたんだな。本来の使い方からは程遠いにしても、長い間お前に使われていたから仕方なく応えてくれたんだ。お前の言う、物にも魂が宿るとかいう思想がちゃんと証明されたというわけだ。良かったな」
「あー!? そうやってまた人を馬鹿にして! 本当に知ってましたもん! 大切な相棒の名前を忘れるほど冷たくありませんよ!」
都合よく事実を捻じ曲げたな。
長い間、か。
なぜか溢れたその言葉が引っかかった。
まるで、俺もこいつと同じ境遇だったみたいな・・・。
気付くと、カルマナはどこか悲しげな微笑みを『セレニティ』に向けていた。
そっとなぞる指先は、まるで行き場のない気持ちを表すように、行ったり来たりしている。
「思い出してくれました?」
彼女は囁くように呟いた。
それは剣に向けられたものなのか、それとも俺に向けられたものなのか。
言葉を探しているうちに彼女は顔を上げ、困ったように微笑んだ。
「まだまだ道のりは長そうですねぇ」
「いつか、お前の想いに応えてくれる日が来るさ」
「・・・そうですね」
それからしばらく互いに黙ったまま歩いていた。
彼女の意図とは違った回答をしたのだろうか。
二人を包む沈黙が少しだけ落ち着かない。
そうこうしているうちに鉱山までやってきた。
相変わらず奇妙な雰囲気が漂っている。
「ほら、覚えてるでしょ?」
「どうやらそのようだな」
「カインさんの記憶を辿ってみましたけど、何とも不器用なやり方ですよねぇ〜。これじゃ失敗するのも無理ないような・・・」
無性に腹が立ち、反射的に彼女の被るミトラを取った。
「あぁ?! 返してください! それがないと大司教としての威厳がっ!」
「ループしても反応は同じなんだな」
「もう! これはお気に入りなんですよ」
「お前が要らんことを言うからだ」
まったく。どうしてこうなったのか分からないが、記憶を共有されているようなこの感じは何ともやりづらい。
ムスッとしてミトラを被り直すカルマナを尻目に、周囲を見渡す。
開けた行き止まりにの片隅に放置された古びた道具の数々。
湿った生温かい空気。
様子を見る限り前回と変わっていない。
だが、前回とは違い、妙な緊張感がある。
理由こそ分からないが、明確にここを訪れる必要性があることを肌で感じている。
「前はカインさんの意味不明な能力値で地下百階まで貫通させたんですよね。今思い出しても驚異的な破壊力でしたねぇ」
「お望みならまた披露するか? この皮肉な能力値のおかげで、あの時より更に威力が上がっているはずだ」
魔力の籠ったオレンジ色の弾丸をカルマナに見せる。
「ちょっと見てみたい気もしますが止めておきます。鉱山と一緒に埋もれるなんて嫌ですからね」
そう言うと、カルマナは行き止まりの真ん中まで歩いて行った。
こちらに向かい手招きして地面を指差した。
「そういうわけで、差し当たってはカインさんに雑務をお願いしたいと思います」
・・・・・・。
「生き埋めになるのは嫌なんじゃなかったのか?」
すると、カルマナは人差し指を左右に振った。
いちいち人の目の前で。
「魔力弾を使わなければいいのです。今のカインさんのステータスなら通常の弾で十分だと思いますよ」
やれやれ。
本当に雑務を押し付けられるとは。
だが、こいつは曇りきった俺の心と錆びついた希望に光を取り戻してくれた。
「喜んで引き受けましょう。司教さま」
弾丸をインビシブルに装填し、地面に向け発砲した。
弾が地面に触れた瞬間に光が炸裂し、大きな地響きを起こした。
しばらくして煙が晴れると、目の前に大穴が出来上がっていた。
「ほぇ〜。相変わらず破天荒な威力ですねぇ」
辿々しく穴に近づき、しゃがみ込むカルマナ。
「痛っ・・・!」
突然、義手に灼けるような痛みが走った。
まるで熱した刃を押し当てられたように、指先から肘にかけてじわじわと広がる。
手の甲に刻まれた紋様が、虹色に脈打ち、侵食するように腕へと広がっていくのがはっきりと分かった。
駆け寄るカルマナに体を支えてもらう。
「まったく・・・。本当に情けない」
「よくやってくれました。大義でしたよ」
「それは光栄だ」
「さて、と。それじゃ降りましょうか♪」
カルマナはピッタリとくっつき腕を絡めてきた。
「期待しているところ悪いが、まだ痛みが残っていてお前を抱えてやれないんだ」
すると、彼女は自信満々な表情で俺を軽々と抱えた。
「ほぅ。お前、そんなに力あったか? 剣もまともに振れない非力さだったというのに、すごい進歩だな」
「あの時は何も知らない可憐な乙女でしたからねぇ。ご覧の通り、こうして時を経て立派な淑女に成長したというわけです」
分かったから、これみよがしに胸を押し付けるのはやめろ。
こほん・・・。
色々と含みを感じる言い方ではあるが、なるほどな。
確かにその凛々しい姿は男から見ても頼り甲斐がある。
なかなか魅力的な・・・。
って、ちょっと待て!!
よくよく考えたらこの状況は非常に恥ずかしくないか?!
「お、おろせ! 俺は自分で・・・!」
「さあ、行きますよ〜!」
話を聞かないカルマナは、俺を抱えたまま嬉しそうに大穴に飛び込んだのだったーーー。
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