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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第48話 それでも彼女は横に立つ

 

「立てますか?」


 カルマナは満面の笑みで俺に手を差し伸べている。


 どうして、こいつがここにいるんだ。


 教会には立ち寄らなかった。


 どうやってもこいつと出会うことはないはず。


 こいつが俺の名前を知っていることも不可解だ。


 この世界線では初対面のはずなのに。


「ふふん。私とあなたは運命共同体ですからね! ピンチに駆けつけるのは当たり前のことですよ!」


 カルマナは俺の訝しむ顔を見て悟ったのか、わざと胸を誇張する。


 そんな彼女の変わらない姿に心を逆撫でされた気分になる。


「ふざけるな! できるはずがない! 大体、どうして俺がカインだと知っている? どうしてさも当然のように俺の名を呼べる?! 俺のことは知らないはずだ!」


 カルマナは少し悲しげに笑い、俺の手を取った。


「そんな悲しいことを言わないでください。忘れるわけないじゃないですか」

「触るなっ!」


 カルマナの手を強引に振り解く。


 あり得ない。


 ループで記憶を引き継ぐのは俺だけだ。


 これは俺自身が何度も確認した事実だ。


 それなのに、どうしてこいつまで・・・。


 ・・・待て。


 考えてみれば、前回初めて会った時だって、俺の方から名乗った覚えがない。


 それなのにこいつは平然と、当たり前のように俺の名前を呼んでいた。


 どう、して・・・?


 心の奥底から、言葉にできない恐怖心が込み上げてきた。


「お前は・・・。お前は一体なんなんだ?!」


 カルマナは震える俺の手を再び取り、そして強く握った。


 そして、祈るようにその手を額に当てる。


「全部。全部、覚えていますよ。あなたのことも。あなたの成そうとしていることも。今私たちがいるこの世界が、あなたにとって五度目ということも」

「そんな・・・バカな。どうしてループのことを・・・」


 彼女は羽衣のようにふわりと俺を包み込んだ。


「私は、何があろうとあなたの元を離れたりしません。あなたのことを見捨てたりしません」

「やめろ!! 俺はお前を切ったんだぞ! 心無い言葉でお前を傷付けたんだぞ!」


 反射的にカルマナを突き飛ばした。


「ロザリアが倒れた時、俺はお前をただの道具として扱おうとした! それだけじゃない! 今回、お前を避けるために教会に行かないという選択までしたんだ! そんな俺に、どうしてそこまで執着するんだ!」


 こんなことを言っても何にもならない。


 カルマナが悪いわけじゃない。


 悪いのは全部俺だ。


 頭では分かっていても、こいつの優しさに苛立ちを覚えてしまう。


 まるで、自分がダメな奴だと言われているような気がしてならないから。


 それでも俺を見つめる彼女の強い意志を秘めた瞳が、次第に恐怖心を増幅させる。


「気味が悪いんだよ! その善人ぶった態度が! 偽善者のような振る舞いが!!」

「私は・・・」

「はっきり言え! 本当は俺のことが憎くて仕方がないんだろ?!」


 ふと、良いことを思いついた。


 ゆっくりと彼女の前で両手を広げて見せる。


「ああそうか。ほら、殺したいならそれでもいいぞ。ロザリアを失う世界、もはやなんの希望もないこんな世界に未練なんてない。ちょうど死に場所を探していたところだ。この辺の雑魚では時間がかかりそうだし、アルフォンスの時みたいに力を解放すれば簡単だろ?」


 彼女は歯を食いしばり、俯きながら俺に近づいた。そしてーーー。


 パンッ・・・!!


 乾いた音が響き渡ると、段々頬が熱を帯びていくのが分かった。


 振り向くと、彼女の頬には一筋の涙が伝っていた。


「・・・私があなたを憎むわけないでしょう? 殺すわけがないでしょう? 前を向いてください。諦めないでくださいよ」


 再び、そのか細い腕に抱き寄せられた。


「離せっ・・・!! 嘲笑うかのように能力値だけ上昇しても、満足に戦えないんじゃ何の意味もない! もうこんな俺にできることはないんだ! 疲れたんだよ! 叶うことのない希望を求めることに! 残酷な現実を何度も突きつけられることにっ・・・!!」


 振り解こうともがいても、顔を隠す彼女は一歩も引かなかった。


 やがて、抵抗する気力も失せた。


「本当に・・・。もう、疲れたんだよ・・・」

「私は、誰よりも近くであなたのことを見てきたんです。誰よりもあなたの辛さを知っているんです。ずっと、あなたと生きてきたんです。そんなあなたを、どうして殺すことができるのですか」


 やめてくれ。


 お前の言葉はとても優しい。


 でも、その優しい言葉が刃となって俺の心を切り裂くんだ。


「私の願いはあなたの願いが叶うこと。命を懸けてそれを支えること。それが私がここにいる理由であり、それが私の全て。だから、私はあなたを見捨てたりしません。たとえあなたに嫌われたとしても、私は離れません。たとえあなたが私のことを忘れてしまっても、私は忘れません。何があっても。絶対に」

「どうしてそこまで・・・」


 どこまでも広がる海の上で漂うように、ただ彼女に身を任せた。


「あなたはロザリアさんを救えます。あなたにはその力があります。私には分かります。あなたには魔王をも倒せる力があるって。そして、そのためにはあなたと私、どちらが欠けても駄目なんです」

「もう、まともに戦うこともできないんだぞ・・・」

「あなたが戦えないというのなら、降り注ぐ火の粉は私が全て払ってみせます。私があなたの剣になります」

「カルマナ・・・」


 彼女は左手の紋様を優しくさすった。


 紋章の光が穏やかになり、次第に痛みも引いていく。


「とても痛くて、重かったでしょう。この左腕も、左脚も。その瞳も」


 白い両手は、賜るように俺の頬までゆっくりと持ち上げられた。


「その痛みと重みを、ずっとあなた一人に背負わせてしまった。その重荷、私にも背負わせてください。必ずあなたを飛び立たせて見せますから。あなたの望む、美しく光り輝く未来に向かって」


 やがて彼女はゆっくりと立ち上がり、再び手を差し伸べた。


「だから、一緒に行きましょう」


 こんなにも俺を想ってくれる淀みのない気持ちに、俺はどう答えたらいい?


 俺の願いは、ロザリアを残酷な運命から救いだし、二人で寄り添って生きていく。


 そんな未来を掴み取ること。


 もしもそれが叶った時、カルマナはどうなってしまうのだろう・・・。


 そう思うと、俺に向けられる彼女のその笑顔がとても儚いものに見えた。


 再び、俺の心を恐怖がじんわりと侵食していく。


 恐る恐る伸ばす手が宙を泳ぐ。


 そんな不安を振り払うように、強く彼女に掴まれた。


「ふふっ。もう絶対に離したりしませんよ。覚悟してくださいね」


 信じられないことに、こいつは『廻天(ループ)』により時を超えてもなおその記憶を保持していた。


 その事実は、ずっと孤独だった俺に、言葉にできない安心感を与えてくれた。


 本当に、俺とこいつは切っても切れない関係なんだな。


 いつかロザリアと生きる平穏な日々。


 そこにこいつがいてくれたらと、心から願う自分がいた。


 全てを諦めかけていた。


 もう俺にはロザリアを救えないと、本気でそう思ってしまっていた。


 でも、お前はそうやっていつも倒れそうになる俺を支えてくれるんだな。


 いつか、そんなお前に報いることをここに誓う。


「どれだけ早く歩いても、お前だけは振り切れそうもないな」

「何言ってるんです。こっちは大変なんですよ? 目を離すとすぐに置いていかれちゃいますから」


 いつの間にか彼女に腕を絡められていた。


「というわけで、見失わないようにもっとくっつかないと♪」

「調子に乗るな」

「あだっ・・・?!」


 油断も隙もない。


「イタタ・・・。でも良かった。いつものカインさんに戻ってくれましたね」

「おかげさまでな」

「よーし! それじゃ二人の新たな旅立ち、もとい二回目の旅立ちを祝してご飯を食べに行きましょう!」

「お前もロザリアに負けず劣らずだな」


 一瞬、嬉しそうに体を揺らし前を歩く彼女の姿が朧げに映った。


 どこか遠くへ行ってしまうような。


 そんな儚さ・・・。


「ほら、早くしないと今度は私が置いてっちゃいますよ」


 振り返る彼女の笑顔に、そんな感覚はすぐに消え去った。


「それは困るな」


 これが最後の機会。


 これで終わりにするんだ。


 今度こそ、必ず未来を掴み取る。


 俺を奈落の底から引っ張り上げてくれた、カルマナと一緒に。


 固く手を繋いでくれる彼女に応えるように踏み出したその一歩は、俺にとってとても大きなものだったーーー。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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また、読み進める途中でも構いませんので評価をしていただけると大変嬉しいです!


これからも、どうぞよろしくお願いします!



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