第46話 最後のループ
「ーーーーーイン!」
誰かが、俺を呼んでいる・・・?
聞き覚えのあるこの癒し声は・・・。
「ちょっとカイン! 聞いてるの?!」
目の前のロザリアがテーブルを叩き勢いよく立ち上がると同時に、口に運んでいたティーカップが叩かれ床に砕け散った。
その乾いた音で我に返り、辺りを見渡し状況を確認する。
ここは・・・。
あの大食堂か。
ロザリアの態度に周囲がざわついていた。
周りの目を気にせずまっすぐ俺を睨んでいる。
太陽のように輝く金髪に、燃えるような真っ赤な瞳。
人形のように白い肌。
本物だ。
愛してやまない、俺の守るべき人生のパートナー。
『廻天』は成功したんだな。
良かった。
「な、何を笑ってるの? 私は真剣だよ」
「何でもない。とにかく、追放するんだったな。それなら、ありがたくパーティを抜けさせてもらおう」
表情に影を落とすロザリアを尻目に静かに立ち上がった。
「・・・考えは変わらないのね」
「足手纏いの尻拭いをしていたら、命がいくつあっても足りないからな」
痺れを切らしたフリードに胸ぐらを掴まれる。
「さっきから黙って聞いていれば。いい加減にしろよテメェ」
「本当のことを言っただけだが? 事実、お前たちが束になったところで俺には勝てない」
フリードの視線を追い、右下の能力値に目をやる。
攻撃力 8000
防御力 8000
魔法攻撃力 8000
魔法防御力 8000
体力 8000
力 8000
魔力 8000
賢さ 8000
早さ 8000
フリードの額に汗が滲む。
まるでこの世のものでは無いものを見ているような表情だ。
百戦錬磨のこいつですら、この数値は異常に見えるらしい。
「ちっ・・・。化け物が」
乱れた服を整え一息つく。
「せいぜいオトモダチごっこを楽しむんだな」
睨みつけるロザリアたちの視線を集めるなか、テーブルに銀貨を放り、大食堂を出た。
雨に打たれながら足早に人気のない坂道を登り、大海原を見下ろせる古びた木製のベンチに腰をかけた。
いつの間にか晴れ間が差した海は凪いでいて、暖かな陽射しを照り返した水面は輝いている。
追放される瞬間からループが始まったということは、少なくともロザリアから離れる選択は間違っていなかったと思っていいのだろうか・・・。
この化け物じみた能力値。
俺の願いとは裏腹に数値だけが積み上がっていく様は、今となっては自分でも奇妙に感じるな。
ここまで来ると、もはや間違った方向にミスリードされている気さえする。
本当に、俺は魔王を倒せるのか・・・?
軋む左手を見つめる。
腕も脚も目立った損傷もない。
左目も相変わらず使い物にならない。
コンディションは前回と同じだ。
・・・同じ?
『廻天』の影響が出ていない?
そんなことが起こり得るのか?
これまでは、必ず身体のどこかに代償として副作用が現れていた。
それが何も出ていないのは、少し引っかかるな。
これ以上俺の体から奪えるものはないということなのか。
いや、仮にそうだとしたらループは成功していないはずだ。
とはいえ、副作用が出ないのならそれに越したことはない。
恐らくこれが最後のチャンスとなるだろう。
これで魔王を倒せなかったら、ロザリアは永遠に失われてしまう。
前回の最大の失敗は、ロザリアたちに宝玉を奪われ魔王討伐の機会を与えてしまったことだ。
もう失敗は許されない。
今度こそ宝玉を集め切り、ロザリアに魔王討伐権を与えない。
より迅速な行動が求められる。
脇にひっそりと佇む白い教会に目をやる。
・・・・・。
カルマナとジュリエット。
二人の存在がこれまでとは大きく異なる点だった。
前回のループで初めて彼女たちと出会い、その出会いが何かを変えてくれると期待していたが、結果は変わらなかった。
普段と違う選択をしたことで過程が少し変化した程度のものだった。
一番欲しい未来は、手に入らなかった。
あの扉の向こうに、あいつはいるのだろうか。
カルマナ・・・。
大海原の方を振り返ったその時ーーー。
「ぐっ・・・?!」
突然、激しい頭痛に襲われた。
視界が大きく揺れる。
思わず膝をつき、必死に呼吸を整える。
ようやく治ると、いつの間にか大量の汗が流れていた。
またこの喪失感・・・。
何なんだ、一体。
とにかくすぐにここを離れないといけない。
なんとか立ち上がり、ふらつく足取りで歩き始めた。
一度だけ教会を振り返る。
もう、祈りを捧げるのはやめよう。
いるかどうかも分からない神なんかを信じてどうする。
祈りを捧げてきた結果がこれだ。
結局、未来を勝ち取るには自分自身でやるしかないんだ。
俺一人で。
ひっそりと佇む教会を背にただ一人、王都ドルガリスを旅立ったーーー。
ーーーウルフスタンへ向かう道中。
ウルフスタンを無視してヴァルムレイクへ行った方が確実に時短にはなるのだが、カルマナと訪れたあの鉱山のことが気になっていた。
最深部には『天使の加護』が眠っている。
結局あれも譲ってしまった物だし、俺にとってどうしても必要な物でもない。
だが、なぜか引っ掛かる・・・。
本当にそうだろうか?
前回、そうやって簡単に手放したから結果が変えられなかった可能性は?
どうしてか、あそこは行っておかなければならない気がする。
ふと、カルマナの姿が浮かんだ。
どうして、今更あいつの顔なんか・・・。
もう俺には関係ない奴だ。
不愉快な気持ちで歩いていると、地面に影が落とされ暗くなった。
日没?
まさか。まだ昼間のはず・・・。
『グオオオオオ!』
突然低い雄叫びが聞こえ振り返ると、背後には深緑の巨大なオークが迫っていた。
岩のようにでかい棍棒が振り下ろされる。
指一本で棍棒を受け止め、赤子の頬をつつくように棍棒を押し返した。
その瞬間、握られた棍棒は緑の巨椀をすり抜け、目にも止まらぬ速さでオークの頭部を粉砕した。
今更オークなど、その辺の子ウサギと変わらない。
「まったくもって無駄な能力値だ。肝心な魔王を倒せなければ意味がない」
とはいえ、副作用もなく前回よりも戦闘が楽になるなら願ったりだ。
前回はカルマナのせいで寄り道をさせられた。
ジュリエットの事情にも深く足を突っ込んだことで、時間を大幅にロスした。
もう邪魔は入れない。
そんな選択ミスはしない。
義肢のメンテナンスさえ怠らなければ、前回よりも早く巡礼できるはずだ。
気合いを入れるように義手のつまみを回す。
よく見ると、義手の甲に何やらうっすらと虹色の紋様が描かれていた。
「なんだこれは?」
気付かぬうちにパッシブ型の支援魔法でも発動していたか?
上がりすぎた魔力を考えればあり得ないこともないが、そもそも俺は支援魔法に精通したジョブ鍛錬をしていない。
新たな固有スキルを習得した?
いや、ロザリアじゃあるまいしどう頑張っても一人一つしか習得できない。
その可能性は低い。
だとすると、これは一体・・・。
ズシン・・・。
義手に気を取られていると、さらにオークが現れた。
今度は二体か。
もはや数など障害にならないが、これまで以上に時間的猶予はない。
速攻で終わらせる。
身構えたその時だった。
虹の紋様が一際強い光を放ち、その色合いが先ほどよりもはっきりと浮かび上がってきた。
「ぐああああっ?!」
突然発した激痛に、思わず地に膝をついた。
虹色の紋様は、まるで俺の呼吸に合わせるかのように強く弱く輝いている。
痛みに悶える俺の眼前には、好機と言わんばかりに更にその数を増やしたオークが迫っていた。
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