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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第43話 前哨戦

 

 魔王の居城は迷路のように広く、SS級モンスターの蠢く魔物の巣窟だ。


 王の間まで辿り着くにも命懸けで困難を極める。


 しかし、猛者揃いのロザリアパーティにとって、それは大した障害にはならない。


「オラァ!!!」


 フリードの剛拳から放たれた拳圧が群れを成す狼の頭を次々と消し飛ばした。


「はっ! どいつもこいつも雑魚ばかりで張り合いがねぇな!!」


 豪快な笑い声を響かせるフリードの後ろから、巨大な獅子が口を開き襲いかかる。


「『紫式部(グラビティ・バインド)』」


 ヴィオラがトンっと杖を鳴らすと、獅子の体がふわりと宙に浮いた。


 獅子は必死にもがくが、その場で空気を掻くだけで一向に標的へ近づけない。


「どうせなら美しく踊ってよね」


 ヴィオラが杖を左方向に軽く振ると、獅子の巨体が左側の壁に目にも止まらぬ速さで衝突した。


『グガッ・・・!!』


 苦痛に吠える獅子の体が再び宙へ投げ出される。


「あはっ 下品な鳴き声♪」


 反対方向へ杖を振ると、獅子は右側の壁に衝突した。


 天井。床。壁。


 ヴィオラの魔法により手玉のように操られ、あらゆる場所に叩きつけられた獅子の体が次第にその形を歪なものへと変えていく。


 他の魔物たちを巻き込みながらフロア内の壁に衝突しては跳ね返り、やがて血の滴る歪な肉塊へと姿を変えた。


 そこへさらに巨大な獅子が数体現れる。


「あははっ! まとめて愛撫してあげるわ!」


 ヴィオラが両手をゆっくり持ち上げると、数体の獅子が宙に浮いた。


 既に赤い肉玉となった魔物を操り、襲い来る他の獅子へ容赦なくぶつけていく。


 狙いをつけられた獅子たちが次々と衝突し合い、同じように赤い肉だるまに変わっていった。


 そこら中に肉片が飛び散り、あっという間に地獄のような景色に様変わりした。


「おお〜。お嬢、変なスイッチ入っちゃったねぇ。んじゃ、僕もたまにはやる気出しますかね」


 ジュリアンは数多の屍の奥から蛇行し向かい来る大蛇に狙いを定め、槍を構えた。


「ふっ!!」


 口を開けた大蛇にタイミングを合わせ槍を投げる。


 あまりの速さに発生した衝撃波が背後の壁に亀裂を生んだ。


 槍は光を纏い、口を開けた大蛇の喉奥を容易く貫通し、後続の大蛇数体もろとも串刺しにした。


 ジュリアンが糸を手繰り寄せるように手を引くと、投げられた彼方の槍が一瞬で彼の手に収められた。


 あれだけいた大型の魔物が、ほんの僅かな時間で物言わぬ死体の山となっていた。


 このように、ロザリアのパーティは個々人の個性が強すぎるが故に、基本的に連携を取ることがない。


 ロザリアはそれを踏まえた上で彼らに自由に戦わせる。


 下手に指示を出すことで、彼らの能力が十分に発揮されないことをよく知っているからだ。


 そして、彼女はフリードたちが自由に戦えるように戦場全体を俯瞰し、足りない部分を自身で埋める。


 一見好き放題しているように見えて、実は合理的な戦闘スタイル。


 これも、他にないロザリアパーティの特徴の一つだ。


 とはいえ流石だ。


 久しぶりにこいつらの戦いを間近で見るが、やはり実力は申し分ない。


 ふと見ると、カルマナもジュリエットも唖然とした様子で突っ立っていた。


「ほぇー。皆さんすごいですねぇ。これ、私たち要ります?」

「ですね・・・。私、なんだか自信がなくなってきました・・・」


 カルマナもジュリエットも、勇者パーティの面々の戦いぶりを見せつけられてすっかり弱気になっている。


「雑魚の相手はあいつらに任せておけばいい。せっかく進んで露払いを引き受けてくれているんだ。俺たちは有り難く体力を温存させてもらおう」

「カインさんのメンタルはレアメタルですか? あ、なんか語呂がいいですね!」


 この状況でそれを言えるお前も似たようなものだと思うぞ・・・。


 すると、フリードがズカズカとこちらに向かって来た。


「誰がお前らの露払いなんて引き受けるか! 舐めるのもいい加減にしろ!」

「雑魚相手にわざわざ大将が出る必要はないからな」


 お前の声はただでさえ神経に障るんだ。


 いちいち絡んでくるな。


「大将はロザリアだ! お前らは仕方なく同行を許されたおまけなんだよ! 自覚しろ!」


 イライラさせるがなり声を我慢し、飛んでくる唾を払い除ける。


「お前の方こそ自分の力を自覚したほうがいいと思うぞ」

「テメェ!!」


 一触即発状態の俺たちの間にロザリアが慌てて割って入った。


「はいはいそこまでだよ。喧嘩している場合じゃないでしょ」

「ロザリアも大変ねぇ。魔王の居城まで来てこんな子供を相手にしなきゃいけないなんて同情するわ」


 ヴィオラはどうでもよさそうにあくびをしている。


「ちょっとヴィオラ! 火に油を注ぐようなこと言わないの!」

「えー。だって本当のことだし」


 こいつの言う子供とやらに、俺も入っているのだろうか・・・。


 カルマナは肘で小突いてきた。


「カインさんが子供でも私は構いませんよ♪ それはそれでお世話のし甲斐がありますし♪」


 ・・・・・。


 思わずカルマナのミトラをふんだくる。


「ああ?! 返してください! それがないと私の威厳がっ・・・!」


 ぼすっと被せると、カルマナの前でジュリアンが跪いていた。


「僕の活躍、見てくれたかい?」

「いえ全然」

「マジっすか?!」


 よほどショックだったのだろう。


 ジュユリアンはその場でシクシク泣き始めた。


「でも、すごい一撃でした。あんなにリーチのある槍を小石のように軽々と投げられるなんてビックリです」

「ありがとう! ジュリエットちゃんは優しいんだね!」


 ものすごい反応で手を取ろうとするジュリアンの体が急にぴたりと止まった。


「触れたら心臓刺しますね」

「スミマセン・・・」


 ズシン・・・。


 一瞬、床が激しく揺れた。


 ズシン・・・。ズシン・・・。


 再び床が振動する。


 低いうめき声のする方へ目を向けると、奥から四つ足の魔物がゆっくりとこちらに向かい歩いてきた。


 それが歩を進めるたびに床が激しく揺れ、地面が割れる。


「こいつぁなかなか大物だな」

「あ〜・・・。手毬にするにはちょっと大きいわねー」


 獅子と山羊の頭部に鱗に覆われた長い尻尾の先端から奇声を上げるドラゴンの首。


 巨大な鷲の翼を羽ばたかせ、強靭な筋肉に覆われた四つ脚。


 古の化け物キマイラだ。


「さて、と。そろそろ私の番かな」


 身構える彼らを悠々と越えると、ロザリアは不敵な笑みを浮かべ、俺たちの前で優雅に聖剣『グリムガウディ』を構えた。

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