第42話 束の間の安らぎ
ここは、まさに俺たちの住む世界と隔てられた、全く異なる空間だ。
周囲は時空の歪みで歪曲し、朽ち果てた瓦礫が行く当てもなく、ただ宙を漂っている。
「ここが、異空間・・・」
ロザリアたちは警戒しながら周囲を見渡している。
何度来ても胸糞悪い場所だ。
心がざわついてやまない。
「あれが、俺たちの目指すべき場所だ」
指差す先に視線を送る皆が思わず息を呑んだ。
蛇のように曲がりくねった荒れた道の先に、漆黒の城が静かに鎮座している。
薄暗いモヤのようなものに覆われ稲妻が走る様子は、魔王の居城に相応しい禍々しさを示していた。
「ここから先はコロシアムでいうところのSS級に相当する魔物がウヨウヨしている。油断するなよ」
すると、フリードが対抗するように俺の前に立った。
「はっ! 誰にモノ言ってんだ。お前に言われなくても分かってるっつーの」
「勘違いするな。俺はカルマナとジュリエットに言っただけだ。もとより、お前たち足手纏いの心配などしていない。図にのるな」
「テ、テメェ!」
フリードの顔が赤く染まる。
「ぷっ。ダサッ」
それを見ていたヴィオラは思わず声を漏らした。
「てめぇヴィオラ! どっちの味方だ?!」
「あんたみたいに子供じゃないのよ。事情はどうあれカインが私たちのパーティに加わったことで大幅な戦力強化になった。今更無駄に張り合うなっての。そんなことに意味がないってくらい、考えなくても分かるでしょ」
「子供に言われると無性に腹が立つな・・・」
相変わらず仲のいい連中だ。
特にヴィオラがいいスパイスになっている。
だが・・・。
「訂正しておくが、俺たちは別にお前たちのパーティに加わったわけじゃない。あくまで同行しているだけだ。勇者パーティからは正式に除名されているしな。だがそれでも、魔王は俺が倒す」
「ふーん。ま、どっちでもいいけど」
実際、こいつらにはやらせるつもりはない。
こいつらが目の前で連携を崩すのを何度も見ている。
それを知ってなおこいつらを頼るのは、沈みゆく船に自ら飛び乗るようなものだ。
ロザリアを何度も手にかけた魔王を倒すのは俺の役目。
俺が成し遂げなければならない。
そうでなければ、この身に刻んだ代償の意味がなくなってしまう。
「ほらほら、喧嘩している場合じゃないっしょ。魔王を討伐するのが目的だ。それさえ達成できればやり方なんてなんでもいいのさ。ね、麗しい司教様?」
カルマナは手を回そうとするジュリアンの手を目にも止まらぬ速さではたき落とした。
「私はカインさんのものです。残念ながら、あなたのようにお金も持ってなさそうなチャラい男性には微塵も魅力を感じませんよ」
「偏見すごいね?!」
こいつは司教とは思えないくらい金に目がないからな・・・。
「そ、それならこっちの清楚でおとなしそうな子は〜・・・」
ジュリエットは俺でも追うのがやっとの速度で双剣を抜き、ジュリアンの喉元に切先を突きつけた。
目が完全にロザリアと対峙した時のエレノアそのものだ。
母親譲りの研ぎ澄まされた殺気はもはや芸術の域だ。美しさすら感じる。
「薄切りと厚切り、どちらがお好みですか? お好きなようにスライスして差し上げますよ」
「死ぬのは確定しているんだ?!」
ロザリアはいつの間にか俺の横で笑っていた。
「あははっ。カルマナもジュリエットちゃんも頼もしいなぁ。あんなタジタジのジュリアンを見るの久しぶりだよ」
「二人とも、ああいうノリは好きじゃないみたいだからな。まあ、実際ウザいだけだから自業自得だな」
「ひどい言い方〜。そういうカインだって、二人の時は結構積極的なくせに」
「そ、それとこれとは別だっ! 大体、それはお前に魅力がありすぎるのが原因なんだ」
するとロザリアは驚いたように目を見開いた。
「何よそれ?! 私のせいなの?! って、あれ? ていうかそれは喜んで良いのでは・・・」
ロザリアは勝手に納得して嬉しそうに一人頷いている。
とりあえず黙っておこう。
「でも、カインてば少し見ない間になんか丸くなったよね。上手く言えないけど、あの二人といる時のあなたの表情、すごく穏やか」
「自分では分からないな」
「心から二人を信頼している証拠だよ。きっと」
「さて。どうだか」
「ふふっ。素直じゃないところは全然変わらないのにね」
勇者としてあまりに重い宿命を背負っているというのに、こうして敵地のど真ん中で笑えるロザリアの精神力には驚きだ。
「本当に、いい仲間に出会ったんだね」
「そんなつもりはなかったんだがな」
「カインは優しいから皆んな自然と集まっちゃうんだよ」
まったく。揃いも揃って平和な連中だ。
俺はそんな人間じゃない。
こうしている今もずっと、内心自分の目的のことばかりを考えている。
いよいよ敵陣に乗り込んだから気を張っているというのもあるが、元々人と馴れ合うことに慣れていないし、さほど好きでもない。
カルマナやジュリエットと出会ったことで展開が変わったのは事実。
だが、これを好機として掴み取れるかは俺次第。
いつまでもぬるま湯に浸かっていると、いざという時に動きが鈍くなる。
「下らないこと言ってないでさっさと行くぞ」
異空間でも変わらず自己を貫く面々に呆れつつ、密かに抱いた安心感を押し込めるように、大きく一歩を踏み出した。
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