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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第34話 聖なる言の葉は雪の如く

 

 インビシブルのバレルをスライドさせ、トリガーの駆動を確認する。


 この銃をこんなに重いと感じるなんてな。


 左腕の関節部は破壊され、かろうじて繋がっている状態。


 左脚も魔力回路が回復しておらず、現状ただの金属の重りと成り下がっている。


 その影響で無駄に高かった能力値も地を這いずったまま。


 はっきり言ってコンディションは最悪だ。


 だが、相手はあのロザリア。


 これらを差し引いても一筋縄ではいかない相手であることは疑いようもない。


 どう考えても分が悪いが、幸い戦い方から仕草の癖に至るまで、全て知り尽くしている相手だ。


 知恵を絞ればやれなくはない。


「お師匠様、本当にロザリア様と戦うつもりですか? 今ならまだ撤回できるんじゃ」

「それはダメだ。これは俺にとって避けては通れない問題だ。最後の宝玉を有する王都ドルガリスのガラクスタン王も絡んでいるとなると、どの道こうなっていただろうしな」


 気付けば、またしてもエレノアに腕をさすられていた。


 相変わらず神がかった気配断ちだな。


 それなりに修羅場は潜ったつもりだが、これにはどうしても慣れない。


「・・・せめて、義肢を直してから戦えるように交渉しても良いかと」

「今の状態は俺の慢心が招いた結果だ。ロザリアの気持ちに応えるためにも、気持ち的にそれはしたくない。その上で負けるようなら、俺には宝玉を集め切る実力がなかったというだけだ」


 カルマナは口を結び、じっと俺を見つめていた。


「なんだいたのか。エレノアに気配の断ち方でも教わったか?」

「決闘を取り下げましょう。どう考えてもカインさんに勝ち目はないです」


 何を言い出すかと思えば。


「それはしないと言ったはずだ。大体、ロザリアも越えられないようでは魔王を倒すなんてもっと無理だ」

「無理ですよ。相手は歴代最強の勇者。体調が万全ならばいざ知らず、そんなボロボロの状態で戦って勝てるほどロザリアさんは弱くありません」


 やけに含みのある言い方に、心がざわつき始める。


「・・・言いたいことがあるならはっきり言え」

「ならお言葉に甘えて。今のカインさん、とても見苦しいですよ。何をそんなに頑なになっているのですか? 何をそんなに焦っているのですか? 宝玉を集めることがそんなに大切ですか? そんなに必死に足掻いて何が得られるのですか?」

「だから、何度も言ってるはずだ。俺は魔王を倒さなければならない。そのためには勇者よりも先に宝玉を集め、魔王討伐の資格を得なければならない。そして、それを達成するためにはロザリアと戦うしかないんだ」

「・・・負けると分かっているのに、ですか?」


 こいつ・・・。


「戦いの結果など、終わってみなければ分からない。戦闘というのは常に綱渡り。俺にできることは、置かれた状況に対して全力で・・・」

「そんなのは馬鹿げてるって言ってるんです!!」


 俺の言葉をかき消すように、カルマナの怒声が響き渡った。


「あなたのやっていることは矛盾しています! 口では抗っていると仰いますけど、どう見ても死に急いでいるとしか思えません! なのに、置かれた状況に対して全力で対処しているなんて、本気で言っているようには思えませんよ!」

「・・・黙って聞いていれば勝手なことを。俺が死に急いでいるだと? 馬鹿な。万が一にもあり得ない。あまりふざけたことを言うと本気で怒るぞ」


 俺が死んだらロザリアを守れないどころか、二人揃って死ぬことになる。


 そんなの本末転倒だ。


「あなたは勝てない! この状況を見れば誰だって分かりますよ! いいえ、仮にロザリアさんに勝てたとしても、魔王を倒すなんてもっと無理です! そんなやり方しかできないから、いつまで経っても結果が変わらないんですよ!!」


 なぜ、それをお前に言われなきゃならない。


 お前に俺の何が分かるというんだ。


 ざわつく心の波は怒りに変わる。


 こいつは、越えてはいけない一線を越えた。


 考える前に声を荒げていた。


「決して変わらないことを変えるために、こうして抗っているんだ! どんなに手を尽くしても変わらない結果に絶望を抱いたことがあるのか?! 相手に何度も同じ反応をされる切なさや虚しさは?! 叶うのかもやり切れるのかも分からない不安の中で、たった一人で挑み続ける孤独感がお前に分かるのか?! 無責任に知った風なことを言うな!!」


 肩で息をしていた。


 全てを吐き出し、頭が真っ白になった。


 こいつに言っても・・・。いや、誰に言っても分かってもらえるはずなんてないのに。


 それが分かっていたはずなのに。


 気付けば、カルマナの目には溢れんばかりの大粒の涙。


 やがてそれはとめどなくこぼれ、雪のように白い頬を濡らした。


 まるで怒りに支配された俺の心を洗い流すように、包み込むような優しい笑顔で俺に微笑みかける。


「・・・分かりますよ。その絶望感も。切なさや虚しさ。孤独感も。・・・あなたのことは、何もかも」


 震える声で、そっと置くように溢れたその言葉に、心が鎖で縛られたように強い痛みを引き起こした。


「今のあなたの眼には、何が映っていますか? そこに、私やジュリエットさんの姿はありますか?」

「それは・・・」

「これまでの旅で、互いに絆を深め合ってきたではありませんか。支え合ってきたではありませんか。そんなかけがえの無い時間を共にできたことを、私はとても嬉しく思っています。私にとって、あなたやジュリエットさんは命を懸けるに値する、心から信頼できる仲間です。それはきっとジュリエットさんも同じです」


 表情を崩さぬよう努めていた優しいその顔が一気に崩れた。


「だからこそ、あなたの言葉がとても痛い。・・・張り裂けそうなほど、痛いのです」


 涙で湿った目を擦り、何とか笑顔を作ったカルマナは、静かに俺に背を向けた。


「少し、風に当たってきますね」


 何て言ったらいいのか分からず、言葉を探している間にカルマナの姿は消えていた。


「俺は・・・」


 何も言い返せない悔しさと、見るべきものが見えていなかったことに対する自分自身への失望に苛まれ、しばらくその場を動くことができなかったーーー。

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