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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第31話 想いは涙に乗せて

 

 しばらく声を震わせ泣いていたカルマナは、静かに立ち上がり、アルフォンスの遺体に両手を合わせた。


 死に顔は人の生き様を表すと言うが、それはあながち間違っていないのかもしれない。


 こいつの顔は苦痛に歪み、本当に悪魔のような酷いものだ。


「こんな人として最低の奴にも慈悲を与えるのか?」


 カルマナは静かに首を振った。


「魂の宿らなくなった器に、善も悪もありません。ならば、この世界に生まれ落ちた一つの生命として、浄化されることは許されていると」


 カルマナが呟くように詠唱を唱えると、アルフォンスの体が淡い光に包まれ、犠牲になった彼女たちのように光の粒となり天へと昇っていった。


 昇りゆく光を見送ると、カルマナは祭壇で寝かされたジュリエットに自らが着ていた司祭服をかけた。


 眠るジュリエットの頬に、一粒の涙が落ちる。


「私、最低です。やられたらやり返すなんて、聖職者失格です。ましてや、人の命を弄ぶように奪ってしまうなんて・・・」


 ジュリエットの頭を優しく撫でるカルマナの眼には、大粒の涙が溢れていた。


「どんなに悪人でも、どんなに酷い人でも、生まれた以上命を全うする権利があるはずなんです。本来、そういう人をこそ導かなければいけないのに。それを、私はっ・・・」


 カルマナは、被っていたミトラで顔を隠し、破れそうなくらい強く握りしめた。


 正直言って、俺にはエテルヌス教の教えや聖職者の考えなど分からない。


 命が平等だとも思わない。


 生まれた瞬間に絶望の淵に立たされる人間や、生き方を選べない人種というものが存在することを知っているからだ。


 そして悲しいことに、どんなに善意を向けたとしてもそれが響かない相手というのも一定数いる。


 俺の知る限り、アルフォンスも間違いなくその部類だ。


 そういう人間とは分かり合うことはできない。


 一歩間違えれば、死んでいたのは俺たちの方だ。


 だから、アルフォンスが死んだことに対して特に思うことはない。


 だが、こいつのしていたことは。悪戯に命を弄んだことは、決して許されない。


「お前が間違っているとは思わない。安心しろ。たとえ世界中の教会を敵に回しても、俺はお前の味方だ」

「でも、私は司教最高位のアークビショップです。司教をも導かなければならない立場の私がこんなこと・・・」

「幸い俺以外に見ている奴もいないしな。何より、俺たちの大切な仲間を守れたんだ。これでよかったんだと、そう思え」


 ミトラで顔を隠していたカルマナがようやく顔を覗かせた。


「・・・そう、ですね。カインさんもジュリエットさんも、失いたくありません」

「人間、誰しも全てにおいて善人でいるなんて不可能だ。あまり気負うな」


 とはいえ、実際彼女の人の変わりようは異常だった。


 性格もそうだが、あの魔力と動きは、とても本人とは思えないほど冴え渡っていた。


 それは本人も自覚しているのか、戦いが終わり意識を取り戻した時に彼女が自分の手を見つめるその手は、まるで他人に向けられるような視線だった。


 自分の体じゃないような。


 そんな目だった。


「う〜ん・・・。あ、れ・・・。お師匠様・・・?」

「目が覚めたか」

「ここは、どこでしょうか? 何だか記憶が曖昧で・・・」


 ジュリエットは何とか体を起こして辺りを見回している。


「急に動かない方がいいですよ」

「カルマナ様。私・・・」


 ジュリエットは思い出したように目を見開いた。


「お父様っ! お父様は?!」


 息が乱れるジュリエットの肩にそっと手を置き、困惑に揺れる瞳をまっすぐ見つめた。


「よく聞け。お前の父親ライオネルはアルフォンスに撃たれ、死んだ」

「・・・・・・え?」


 唖然とするジュリエットは、金色の瞳をただ見開いていた。


 やがて、その小さな唇が震え出した。


「お前を粛清した後、自分も後を追うつもりだったらしい」

「そう、でしたか」


 カルマナはぎゅっと口を結び、一瞬躊躇うが、恐る恐る懐中時計を差し出した。


「ライオネルさんから頼まれました。これを、あなたに渡してくれと」

「これは・・・?」


 微かに震える手で時計を受け取る。


 彼女はゆっくりと懐中時計の蓋を開き、中に入っているものを見た。


 彼女の頬に、一筋の涙が伝う。


「・・・どうして、あの人が私の絵なんて」

「ライオネルさん、言ってました。あなたを愛していると。最愛の宝だと」


 その言葉が引き金となり、小さな涙の粒は、まるで彼女の心の叫びを代弁するかのように静かに溢れ出した。


「・・・おかしいな。お父様もお母様も、私のことなんてただの道具くらいにしか思ってなかったはずです。それなのに、どうして・・・」


 彼女は何度も頬を拭う。


 それでも涙は止まらない。


「あ、れ・・・? どうして、止まってくれないの・・・?」


 カルマナはそっとジュリエットを抱きしめた。


「きっと、あなたと共にいることが、ライオネルさんにとってどんなアンティークよりも価値のあるものだったのでしょうね」

「カルマナ様・・・」

「そうでないと、こうして時を止めたままの時計を何年も持ち歩くわけがありませんから」


 ジュリエットは、とめどなく溢れる想いをぶつけるように、カルマナの胸の中で泣き続けた。


 彼女の大きな泣き声だけが聖堂内に木霊する。


 きっと、彼女の中でこれまでの葛藤や怒り、喜び。


 色々なものが混ざり合って溢れ出したんだ。


 普通の女の子が決して背負うことがないような重荷をこの華奢な双肩に背負っていたのだろう。


 しばらく泣き続けた後、ジュリエットはようやく落ち着きを取り戻した。


「・・・すみません。もう大丈夫です」

「立てるか?」


 ジュリエットの手を取りそっと立たせると、彼女は顔を拭い、少し赤く腫れた目で俺を見据えた。


「試練の前に寄りたい所があるのですが、良いでしょうか?」

「ああ。もちろんだ」


 ・・・今宵、様々なことが起こった。


 一歩間違えれば転落しかねない綱渡の連続だったが、そのおかげで仲間のことを前よりも知れた気がした。


 ジュリエットの家族のこと。


 カルマナの想い。


 誰もが納得するような閉幕ではなかったかも知れない。


 それでも、仲間を救うために最善は尽くしたと思う。


 今は、それで良しとしておこう。


 様々な感情を抱きながら、俺たちはアストリア大聖堂を後にしたーーー。

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