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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第29話 向けられた狂楽と静かな怒り

 

 ロックバスティオンから少し離れた場所に浮かぶ孤島、アストリア島。


 そこには、古代に建てられたと言われるアストリア大聖堂の跡地がある。


 今でこそエテルヌス教の総本山は王都ドルガリスとされているが、そのルーツはアストリア大聖堂だと言われている。


 そこが奴らのアジトだという情報を得た俺たちは、すぐに船を出し孤島へ向かったのだった。


「これはまた古い教会ですね。見てください、壁にあんなに蔓が這っています。あの蔓がなかったら崩れちゃいそうですね」

「エテルヌス教発祥の地と言われるアストリア大聖堂の成れの果てだな。今でこそもぬけの殻だが、かつては頻繁に人々が訪れていたらしい」


 勇者を信仰するエテルヌス教はここから始まったとされている。


 魔王に挑むために自らの命を賭け世界を巡礼する勇者の姿を見て力になりたいと思った古代人たちは、勇者の負担を軽くすべく町をあげて勇者をもてなした。


 やがて彼らは勇者への想いを忘れることのないよう教会や聖堂、石像を作り、祈りを捧げるようになった。


 その動きは戦えない人々の強い関心を惹き、瞬く間に世界へ拡大していった。


 いつしかそれは勇者の宿命を敬う聖なる導きの教えへと発展し、宗教として確立された。


 それがエテルヌス教だ。


 そんな世界的な宗教発祥の地は、今ではすっかり忘れ去られた場所となっている。


「いかにも闇組織が好みそうな場所だな」

「まったく。あのような極悪人が神聖な教会を根城にするなんてつくづく許せませんね。あの人は必ずこの聖剣で成敗します」


 まともに振ることすらできないのによく言う。


 極悪人という点は同意だが。


「この通り、俺の体は義肢が本調子ではない。あまり無茶な行動はするなよ」

「わ、分かっていますとも」


 カルマナは聖剣を抱え、ごくりと唾を飲み込んだ。


「入るぞ」


 崩れ掛け、半開きのドアを少し開け中へ入ると、床の大部分を草木が侵食していた。


 崩れた天井から差し込む月明かりが青々と茂る蔓や雑草を照らしている。


 建造物と自然の生命力が作り出す幻想的なコントラストに、一瞬心を奪われた。


「・・・誰もいないようだな」


 真っ直ぐ進んでいくと、朽ち果てた祭壇の上に女神像らしきものがひっそりと立っていた。


 上半身は崩れ去り、かろうじて残った下半身部には斑点のように苔がこびり付いている。


 かつての姿を想像することしかできないことが、その儚さを強調していた。


 カルマナは、そんな女神像の残骸を静かに見上げ、悲しげな視線を向けていた。


「聖職者として、やはりこのような姿は心が痛むものなのか」

「いえ、そういうわけではありません。ちょっと女神様が寂しそうに見えたのでつい」

「寂しいと言っても上半身は朽ち果てていて、その表情は想像するしかないな」


 俺の言葉に賛成するように、カルマナは恥ずかしそうに舌を出した。


「きっと、ここで祈りを捧げた人たちも大勢いたんですよね。その人たちの想いや願いは、ちゃんと届けられたのでしょうか。今でも、そのたくさんの想いは繋がっているのでしょうか」


 時代はゆっくりと、しかし確実に移り変わっていく。


 一年を彩り、移り変わっていく季節のように。


 積み上げた時間や歴史の分だけ人の想いもまた積もっていく。


 カルマナはきっと、そうやって紡がれた願いや想いが途切れてしまうことを不安に感じたのだろう。


「それにしても何もないな。アジトというからには、どこかに入り口があると思うんだが」

「カインさん。こっちこっち」


 女神像の後ろからひょっこり顔を出したカルマナが手招きしている。


「どうした」

「ほらここ。なんだかおかしいです」


 祭壇の後ろに回り、カルマナの指差す地面にそっと触れる。


 すると、生温かい風が手を撫でた。


「空気が通っている。ということは・・・」


 インビシブルで強めに地面を叩くと、綺麗に正方形の形に地面が崩れ去った。


 地下へと続く階段が真っ直ぐ伸びている。


「お手柄だ。この下にジュリエットたちがいるはずだ。準備はいいか?」

「私はいつでも大丈夫ですよ」


 長い階段を降りていくと、石畳の通路の先に先ほどまでとは違う煌びやかな装飾の扉が目に入った。


 どう見ても後から作られたものだ。


 松明の照らす薄暗い通路を抜け、扉の前に立つ。


 カルマナに目配せして合図を送る。


 勢いよく扉を開くと、祭壇の上に下着姿で寝かされたジュリエットにまさにキスをする瞬間のアルフォンスの姿が飛び込んできた。


「おや? これはこれは麗しい司教様。自分から来るなんて大胆ですねぇ。聖職者の君と色々楽しめると思うとゾクゾクします。この背徳感が堪りませんねぇ」

「ジュリエットさん!!」


 カルマナはアルフォンスの言葉に耳を貸すことなく眠ったジュリエットに声をかける。


「心配しなくてもこの子の後で存分に可愛がってあげますから、もう少し待っていてください。それとも一緒に楽しみますか? 僕としてはそれも非常に興味深いですが」

「あなたは神を冒涜するだけに飽き足らず、弱き女性をも辱める。そんな存在がこの場にいること自体が耐えられません。こんなことをして、許されると思っているのですか?」


 カルマナは静かに、そして研いだ刀のように鋭い殺気をぶつける。


 普段の彼女からは想像もできない目つきでアルフォンスを睨みつけている。


 アルフォンスはそれに応えるように、ゆっくりと丁寧にジュリエットを横たえこちらに向き直った。


「だから愉しいんじゃないですか。聖なる場で、神の御前で性交する。これほど快感を覚える環境なんて他にありますか?」


 アルフォンスは上から下まで舐めるようにカルマナを見つめる。


「その上、聖職者と交わるなんて、想像するだけで絶頂感を味わえます」

「・・・私はあなたを心から軽蔑します。神様も教会も、あなたの汚れた欲望を満たすために存在するわけではありません」

「くくく。いいですねぇ。正義感に満ちた子が壊れていく瞬間ほど、楽しく美しいものはありません。気が変わりました。ジュリエットを愉しむ前に、先ずはあなたにするとしましょう」


 悍ましいオーラを放ちこちらに向かいゆっくりと歩み寄るアルフォンスに、カルマナを守るように対峙した。


「させると思っているのか?」


 高らかに狂気的な笑い声を響かせる狂人に、湧き上がる怒りを乗せて黒銃インビシブルの銃口を向けたーーー。

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