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第3話 持て余す力

 

「どうやらここで行き止まりのようだな」


 鉱山の中へ続く坑道を進んでいくと、少し開けた場所に出た。


 土壌もしくはここの鉱石が生み出しているものなのか。


 道中もそうだったが、近づくにつれ次第に湿った土の匂いが強くなっていた。


 辺りを見回すと、錆びついた道具や機材が散乱し開拓の痕跡が残っていた。


 放置されてから随分時間が経っているようだ。


 内部は冷えていて、吐く息は白く、壁に灯る火がパチパチと弾ける音だけが俺たちを包む。


 その静けさがこの不気味な雰囲気を醸し出していた。


「さて司教様。この後はどうされるおつもりでしょうか?」


 カルマナは小さな肩をビクッとさせた。


「え、え〜と。ちょっと待ってくださいね〜」


 カルマナは慌てた様子でキョロキョロ見渡すと、思いついたように錆びたスコップに飛びついた。


「えいっ!」


 震える腕で思い切り地面に突き立てる。


「かったぁい!」


 ・・・だろうな。


「この鉱山の地下深くにすごいお宝が眠っていると私の勘が言っているので、この下で間違いないはずなんですけどねぇ」


 いやいや、おかしいだろ。勘だろ?


 お前がどうしてもウルフスタンに行きたいと言うからこうしてわざわざ来たんだぞ。


 そんなフワッとした感覚でここまで付き合わされたというのか。


 こんな所で時間を食っていたらロザリアに追いつかれてしまう。


 宝玉は何としても勇者パーティよりも先に集めなければならない。


 とはいえ、発想自体はあながち間違っていないというのが恐ろしいな。


 やれやれ。


「それでは日が暮れるぞ」

「何をするんです?」


 土の感覚を確かめるようにそっと地面に触れる。


 手のひらから魔力を放出し地形をマッピングしていく。


 これは・・・。


 この異様なまでに奇妙で入り組んだ構造は鉱山の特殊な地層と鉱石が作り出したのだろうか。


 そして、細かく振動する空気を伝い僅かに手に伝わる緊張感。


 最下層に何かいる・・・?


「何層もの階層が地下深くまで続いているようだ」

「おお〜『リブラ』ですか。広げた魔力により頭の中に地理的情報を刻むことで、どんな見知らぬ土地でも映像化してしまうとても便利な魔法ですね。その範囲と持続時間は術者の能力に依存すると。そんな高度な魔法を使えるなんてすごいですね。カインさんのジョブは剣士だと思っていたのですが、意外です」


 急に饒舌になったな。


 まあ、それだけ魔法には自信があるということか。


「見ただけで分かるとは伊達にアークビショップを名乗っていないな」

「おっと。我が高すぎる能力を隠していたつもりでしたが、つい溢れてしまったようですね」


 隠す気はなかったように見えるが?


 そう言いかけてグッと堪えた。


 元々、剣士というより鍛治士を目指していた。


 だが、自分の能力に限界を感じた俺は結局鍛治士をマスターできなかった。


 結局、鍛治士を諦め、剣の道に変えたのだ。


「剣士を名乗るのはとうの昔に止めた。この腕じゃまともに振れないからな」

「あれ? じゃあ今は?」


 腰に下げた短銃を抜く。


 金色の装飾が目を引く、黒銃インビシブル。


 名のある職人に作らせた、使用者の魔力を流すことで自動ブローバックを可能にした特注ハンドガン。


 その特殊な素材と構造により、連射はもちろん魔法や魔弾を撃つこともできる。


 加えて己の魔力が込められた弾であれば自動装弾も可能な逸品だ。


「今の俺のジョブは魔銃士だ」

「ほぇ〜。立派な装飾ですね。かっこいいです」


 ジョブには三段階ある。


 ビギナー。ミドル。マスター。


 誰しもビギナーから始まり鍛錬していくのだが、一段階上がるのにおおよそ十年かかると言われている。


 もちろん個人差はあるが、能力のある者は十代前半でマスターにまで上り詰めることもある。


 こいつの言う大司教(アークビショップ)とは、司祭系ジョブの一つである司教のマスタークラスでの呼び名だ。


 カルマナは見たところ十代後半。


 こいつの言うことが本当なら、一般的に見て天才と呼ばれる部類だな。


 とてもそうは見えないが。


 ちなみに、ジョブチェンジはいつでもできるがマスターに到達しなければそれまで積み上げた技術は半分以下になってしまう。


 そのため進んでジョブを変えたがえる奴はあまりいない。


「そういうお前こそ、大司教に似合わない豪華な剣を腰に下げているだろ」

「よくぞ聞いてくれました! これは世界に一振りしかない伝説の聖剣なのです!」


 煌びやかな装飾が施された金の鞘に、美しい純白の柄。見たところ、使われている素材も相当レアだ。


 まさに芸術。飾って眺めていたくなるくらい美しい一振り。


 その神々しさは誰をも魅了する。


 一級品であることは疑いようもない。


 だが、これでも一応鍛治士の世界に足を突っ込んだこともあるし、剣士としてマスタークラスだったこともある。


 剣の良し悪しは大体一目で分かるが、こんな形状のものは見たことがないな。


「その剣、何て名前なんだ?」

「私も知りません」


 ・・・・・。


「名前も知らない剣を装備しているのか?」

「実は私、剣術は得意ではありません。むしろ苦手です。重くて疲れちゃいますし」


 何だそれ。


 それなのに後生大事に持ち歩いているのか。


 それじゃ文字通りただのお荷物だ。


 よくそんな代物を聖剣などと豪語できたもんだ。


 ふと見ると、カルマナは不思議そうな顔で銃を見つめていた。


「あの、その銃で事態は解決するのでしょうか? とても綺麗ですけど、あまり強そうに見えません」


 こいつ、しれっと失礼なことを。


「問題ない。ここの地形は既に把握済みだ」

「あ、そうでした! マッピングしてましたもんね! それで、どうやって奥へ行くのですか?」


 目の前の行き止まりを指差す。


「この行き止まりはフェイクだ。ここから五キロほど進んだ所に、地下へ通じる転移魔法が仕掛けられているようだな」

「なるほど! じゃあ壁を破壊してそこまで行けばいいのですね」


 本当に司教なのか疑う暴力的な発想だ。


「もっと楽な方法がある」

「へ・・・?」


 赤い魔力に包まれた弾丸を取り出し装填する。


「その弾、ものすごい力ですね」

「ほう。こいつの凄さが分かるのか」

「ふふふ。これでも大司教、つまりはアークビショップ。魔力に関わることならお任せください」

「お前の言う通り、こいつは長い時間をかけて練り込んだ特別な魔弾で、自分の魔力を攻撃力に変換する」


 見惚れるカルマナを抱き寄せる。


「衝撃に備えておけ」

「は、はい」

「『増幅弾(グレイス・バレット)』」


 黒銃から発せられた眩い閃光とともに、地面が大きく揺れ出した。


「きゃっ!?」


 カルマナが振り落とされないようしっかり抱き寄せつつ地面を注視する。


 しばらく続いた振動が消えていく。


 煙が晴れると、目の前に巨大な穴ができていた。


「こ、これは?」

「見ての通り風穴を開けた。ショートカットだ」

「よかったぁ〜! 実は五キロも歩くのは嫌だなって思ってたんですよ」


 カルマナは小走りで穴の中を覗き込んでいる。


 一瞬、力が抜けよろめいた。


 しゃがむ彼女の背中が二重に見える。


 疲労・・・? この程度で?


廻天(ループ)』を使いすぎたことが原因か?


 いや、能力値も義肢も変わった様子はない。


廻天(ループ)』を行使した時からずっと追い詰められているような感覚が消えない。


 もしかしたら、精神から来る一時的なものかもしれない。


「ほぇ〜。ここから地下一階へ降りるのですね」

「そんな近場のために貴重な弾丸を使うわけないだろ。降りるのは地下百階だ」

「なるほど地下百階かぁ! それじゃあ底が見えないのは当たり前・・・」


 彼女の雪のように白い顔がみるみる真っ青になっていく。


「いやいやいやいや!! 百階?!」

「そんなに驚くことか?」

「意味分かりませんって! どう魔力値が狂えばそんな威力になるんですか!? あれ? 攻撃力? 自分で言ってて分からなくなってきました」


 一人で頭を抱えて悶絶している。


「昔の奴らも暇だったんだな。こんな無駄に深く掘って」

「そういう問題じゃありませんっ!!」


 甲高い声に思わず耳を塞ぐ。


 何も耳元で叫ばなくてもいいだろ。


「とりあえず落ち着け」

「ちょっと黙ってください!」


 カルマナはずいっと手のひらを突きつけ、頭を悩ませた。


「地下百階まで探索できる魔力にそれを簡単に貫通させる破壊力。一体どこをどうすれば・・・。魔法でバフをかけた? いや、流石にそれだけでは説明できない威力ですし、そんな素振りもありませんでした。じゃあやっぱりあの特殊な弾丸の・・・」


 すっかり自分の世界に入り込んでいる。


 頑固なのか負けず嫌いなのか。


 何やらぶつぶつ言っていると思ったら、カルマナは物凄い形相で俺の顔を覗き込んできた。


「能力値、見せてもらっても?」

「別に構わないが面白くも何ともないぞ」

「いいから!」


 攻撃力 4000

 防御力 4000

 魔法攻撃力 4000

 魔法防御力 4000

 体力  4000

 力   4000

 魔力  4000

 賢さ  4000

 早さ  4000


「んん・・・? は? えぇ?! 何ですかこの数値?!」

「何って、見た通りだ」

「桁一つ間違えてません?! いやいや、そうだとしても意味不明です!」


 カルマナはもげるくらいブンブン首を振っている。


「こんなのはただの目安だ」

「だってどう見てもおかしいですもん! 能力値は勇者を除いて255以上の数値は確認されていないと聞きます。つまり、普通は255が限界値なんですよ。それを十倍以上も上回ってるなんて・・・。勇者でもないあなたが」


 驚くのも当然か。


 ジョブにもよるが、たとえマスタークラスの人間でも一つの数値が二百を超えていれば十分高い。


 そして、よほど優れた者以外の一般人は、だいたい一つに偏る傾向にある。


 自分で言うのもどうかと思うが、『廻天(ループ)』なんて創造主のような神業は人の手に余る能力の賜物ではある。


 まあ、その副作用はたまったものではないんだが。


「私の能力値、見ます?」

「いらん」


 当たり前のように俺の言葉を無視して勝手に見せてきた。


 攻撃力 10

 防御力 30

 魔法攻撃力 170

 魔法防御力 200

 体力 80

 力  10

 魔力 200

 賢さ 255

 早さ 20


「普通だな」

「当たり前です! これでも魔法の扱いには定評がありますけどねっ!」


 せめてもの抵抗だろうがこれくらいなら可愛げがあるってもんだ。


「待った。一つだけおかしい箇所がある」

「何です?」

「賢さ255は嘘だろ」


 カルマナは顔を真っ赤にして憤慨した。


「失礼な! 私はアークビショップですよ! これくらい当然です!」

「いやだってそんなに賢そうに見えないから」

「ふんだ。そんなこと言って、いずれ私に感謝する日が来ても知りませんからね」


 一体どこからその自信が来るんだ。


「無駄話してないで行くぞ」

「あ、まだ話は終わっていませんよって・・・ひゃあっ?!」


 ジタバタするカルマナを片手で掬い上げる。


「しっかり捕まってろ」

「へ? ちょ、まさか!?」


 カルマナの叫び声とともに巨大な穴に飛び込んだ。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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また、読み進める途中でも構いませんので評価をしていただけると大変嬉しいです!


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