第25話 予期せぬ真実
目を覚ますと、無防備に開け放たれた窓に白いカーテンがそよ風に揺れていた。
外は暗く、遠くでフクロウの鳴く声だけが聞こえる。
夜の静寂の中で、聖剣とジュリエットの姿が消えていた。
目の前の現実に目を疑った。
まさか、また彼女が持ち去った?
いや、昨日の様子を見る限りそんな素振りはなかった。
どういうことだ。
「カインさん・・・?」
目を覚ましたカルマナもすぐに異様な状況を悟ったようだ。
「剣が無くなった。済まない、油断した」
カルマナは俺の左腕にそっと触れた。
「能力値が回復していない状態であれだけ魔力を消費したら、誰だって疲れちゃいますよ」
「気付いていたのか」
「今更ですよ。私を誰だと思っているんですか?」
「大司教アークビショップ様、だろ」
すると、カルマナは得意げに人差し指を横に振った。
「ブッブー! ハズレ! 正解は、運命共同体でした〜」
押し付けんばかりに強調した人差し指を向けてくる。
こいつ・・・。
「それはそうと、ジュリエットさんだと決めつけるのは早計な気がします。私たちといる時の彼女は純粋で、とても楽しそうにしていました。そんな彼女が嘘をつくはずがありません」
「ああ。本当に盗むつもりだったら、チャンスはいくらでもあったはずだ」
それに、昨日の彼女の様子は少し変だった。
今の魔力ではリブラを使えるのはあと一回か・・・。
だが、悩んでいる暇はない。
目を閉じ意識を集中させる。
・・・この付近にはいないな。
くっ。探索範囲を拡張しようにも体が重くて広げられない。
絞り出すように意識を研ぎ澄ませ、範囲をできる限り押し広げると、わずかに町の外れにある港に複数人の気配に触れた。
よく知る気配が一つ混ざっている。
安堵した瞬間、糸が切れたようにリブラが解けた。
「ぐっ・・・!」
たまらず床に膝をつく。
視界はぼやけ、汗が吹き出した。
くそ・・・。
少し能力値が下がった程度でこれだ。
「カインさん! しっかり!」
「大丈夫だ。それより港へ急ぐぞ」
「港?」
「ああ。そこにジュリエットがいる」
気配から察するに、昨晩言っていた裏社会の連中だろう。
「戦闘になるかも知れない。用心しておけ」
「私のことよりカインさんです。顔色が悪いです。義肢のこともありますし、これ以上無理をしない方が・・・」
「馬鹿を言うな。俺が行かなければ誰がジュリエットと剣を取り戻すんだ」
「そ、それは・・・」
カルマナを安心させるように、義手のつまみを回して見せる。
「大事なものなんだろ」
彼女が、いつもやりすぎかと思うくらい入念に剣の手入れをしているのを何度も見ている。
その表情は家族、あるいは恋人に向けられているように穏やかで、優しさに溢れていた。
ただのモノとしてというよりは、そう、まるで本当に人と接しているんじゃないかと思うほどに。
以前、物には心が宿るといった様な話をしていたが、こいつにとってあの剣はそういう存在なんだろう。
そんな風に大切にされた剣は、今や俺にとっても大事なものだ。
何よりこいつの悲しむ姿は見たくない。
「急ごう」
後ろ髪を引かれる様にのしかかる左半身の重みに鞭を打ち、俺たちは港へ急いだーーー。
真夜中の港は灯りが少なく閑散としている。
暗闇の中、やや生臭さの混じる潮の香りと防波堤に打ち付ける波の音だけが響いている。
目を凝らすと、波に揺られる船の向こうに、使用されなくなったであろう錆びついた倉庫がいくつか見えた。
一番奥に廃墟となった大きな倉庫がある。
あれだな。
「俺が合図したら一緒に入るんだ。いいな?」
返事がない。
気付くと、カルマナは海の方を眺めていた。
あの雰囲気・・・。
クルーザスト山脈の時と同じだ。
朧げな瞳で月明かりに照らされた水平線の先を、瞬きもせずにただ真っ直ぐ見つめている。
あの時も、ここではないどこか遠くを見つめていた。
まるで、目的地は他にあるとでも言いたいような・・・。
「カルマナ」
「はい? 何でしょう?」
振り返ったカルマナの表情はいつの間にか元に戻っていた。
「人の話聞いてたか?」
「もちろん! これから突入ですよね!」
「声がでかい」
咄嗟にミトラを押さえつける。
やれやれ。
本当に大丈夫か?
周りに気配がないことを確認し、倉庫の扉の前でカルマナに目配せする。
「入るぞ」
ざらざらした取っ手を引き扉を開く。
舞い上がる土埃を払い周囲を見渡すと、縛り上げられたジュリエットの姿が目に入った。
「お、お師匠様?!」
叫ぶジュリエットの横に、見知らぬ金髪の男が立っていた。
この場に似合わない小綺麗な膝丈までスラッとした灰色のジュストコールがよく映える。
首元からふんわりと垂れ下がる純白の襟には金色の刺繍が光る。
身分の高い貴族であることは一目瞭然だ。
「おや? ジュリエットの知り合いかな?」
金髪の男は切れ長の目をこちらに向け微笑んだ。
手にはカルマナの聖剣が握られている。
「ジュリエットさん! 今助けます!」
「待て!!」
咄嗟に駆け出すカルマナの手を引き抱き寄せた。
ほぼ同時に、俺たちの足元に一発の銃弾が突き刺さった。
「あ、ありがとうございます」
後ろにカルマナを隠し、上を見上げる。
三人。いや、四人か。
天井の鉄筋の影に隠れているな。
「随分古典的な罠だ。相手してやるから降りてこい」
突然、手を叩く音が響き渡った。
「はっはっはっ! 良く分かったね! 能力の高い男は嫌いではないよ」
「経験則に従っただけだ」
こういう場合は普通、囲い込むために何人か配置しているものだからな。
「面白い。笑わせてもらったお礼にタネを明かそう」
金髪の男がパチンと指を鳴らすと、鉄筋の上に武装した男四人と、木箱や物の陰から数人の男が姿を現した。
「無駄に争う気はない。俺たちはジュリエットとお前の持つその剣を取り戻せればそれでいい」
この後の試練も考えて、なるべく体力は温存しておきたい。
男は艶のある金髪を掻き上げ笑い出した。
「あっはっはっ!! ジュリエットを取り戻すだって? 君はジョークの才能も秀でているな!」
「なに・・・?」
男は優雅に頭を下げ微笑んだ。
「私はライオネル。彼女の父親だよ」
なっ?! ジュリエットが、こいつの娘・・・?
「あなたの様な人が父親なんて、私は絶対に認めない」
ライオネルは、犯罪者を見る様な目で睨みつけるジュリエットの顎をクイっと上げた。
「残念ながら、血の繋がりというものは消せないのだよ。どれだけ望んでもね。どうしても信じられないならエレノアに聞いてみるといい。お前は彼女が腹を痛めて産んだ子だ。愛しい私たちの娘なのだよ」
「触らないで! あなたなんて大嫌い!」
ライオネルは諭すように身悶えするジュリエットの頭を撫で、こちらに向き直った。
「君たちは『漆黒の翼』を知っているかな?」
漆黒の翼といえば、この国の王家に仕える特殊な組織で、王にできない汚れ役を請け負うこの国の裏の顔だ。
汚れ仕事を引き受ける代わりに王から絶大な富と権利を与えられている。
裏社会では、『漆黒の翼』に楯突くと命がないと言われているほど容赦がないことで有名だ。
裏の人間からも恐れられ、『漆黒の翼』が絡む仕事は真っ先に手を引くほどのようだ。
特に、リーダーであるアルフォンス・ノックスの残虐性は俺がコロシアムにいた頃から耳にしていた。
その規模は水面下でじわじわ拡大し、今ではこの国の至る所に拠点があると聞く。
「私は、現ロックバスティオン王・ガラクスタン=バルサザールの居城『煌玉殿』で仕事をしている一方で、輸送業も営んでいてね。実を言うと本業はこちらなのだが、仕事の都合上、『漆黒の翼』の方も掛け持っているのだ」
「それとジュリエットに何の関係がある?」
すると、ライオネルはニヤリと口角を上げた。
「彼女は、非常に優秀な『漆黒の翼』のメンバーの一員なのだよ」
「なっ・・・?!」
ジュリエットが闇組織のメンバー・・・?
ライオネルの言葉に、俺とカルマナは言葉を失った。
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