第24話 砂岩を照らす光と影
ロックバスティオンは砂塵舞う乾燥した国で、大陸から離れた大きな孤島に位置している影響もあり、その歴史と文化は他の国に比べて特殊だ。
五大国の中でも特に独裁性が強く、町の真ん中には『栄光の回廊』と呼ばれる権力を象徴するかのように巨大な石造りの柱が鎮座している。
天に最も近いといわれるその城は『煌玉殿』と呼ばれ、『栄光の回廊』と並んでロックバスティオンの顔だ。
王家はその頂上に構える巨城で生活している。
貴族と一般住民の貧富の差も激しく、市民からの反発も多いが、一方でどんなジョブや分野であっても実力のある者や能力のある者には寛大で、そういった者たちへの支援も積極的に行ったり、世界中からの移民も受け入れる柔軟さも兼ね備えていたりする。
実力主義ゆえに、誰にでも成功を掴み取るチャンスがあるという意味では平等だ。
建国当初から一度も途切れることなく一族が統治を続けているという歴史を見ても、国民もある程度その文化を受け入れているということがわかる。
日差しの強い乾燥した石畳の道を歩いていると、突然割れんばかりの歓声が響き渡った。
まるで獣の雄叫びのようなその叫び声は、凄まじい熱気を滲ませていて聞いているこちらの体の内まで熱くなるようだ。
「すごい歓声ですね。この熱狂はコロシアムでしょうか」
ジュリエットは大きな円型の建物を眺めている。
「箱入り娘のお嬢様がよくコロシアムなんて知ってるな」
「ふふ。腕に自信のある猛者たちがしのぎを削る戦いの場、ですよね。このくらいは一般常識ですから」
彼女は嬉しそうに胸を張っている。
本当の目的はそれだけではないのだが、まぁ今回は特に寄る理由もないしな。
わざわざ説明する必要もない。
恐らく、カルマナにとってあまり心地の良い話でもないしな。
気付くと、カルマナは足を止め悲しそうにうつむいていた。
彼女の顔を見て察したジュリエットが、恐る恐る口を開いた。
「コロシアムは、その・・・。国力を培うための戦力を見定める場でもあるんですよね。その中には多くの奴隷も含まれているとか・・・」
知っていたのか。
それは王家か、もしくは一部の上流階級の人間しか知らない情報のはずだ。
表向きは「次期勇者パーティメンバーの発掘」などと謳われているが、名誉も誇りもない血塗れた金の動く汚れた社会というのがその実態。
「お前、もしかしてここの出身なのか?」
「そ、そうですね。一応・・・」
これ以上は空気が重くなるだけだな。
この国のイメージなどどうでもいいが、一応フォローしておくか。
「奴隷と一言で言ってもその生い立ちや経緯は様々だ。こういう話になると、一般的には奴隷が可哀想だの性格の悪い金持ちの道楽だのと言われるが、実際にはそれを受け入れている奴隷も結構いる」
「そうなのですか?」
「一部の例外はあるが、基本この国の下層に位置する者たちにとって、生き残ることが人権を得る最も簡単な条件だ。勝ち上がるほど報酬や権利が増えるから、単純な話、戦える奴が生き残りやすい」
幸い、俺は戦いにおいてはそれなりに才能があったらしく、優勝することができた。
そのおかげで今日まで生き延びることができたと言っていい。
今となっては懐かしい思い出だな。
「命はそんなに軽くありませんよ・・・」
依然として俯いたままのカルマナの声色からは、ありありと不満が伺えた。
「この国では命の価値は国の存続と国力よりも小さい。これは善悪の問題ではなく、ただ文化の違いだ」
ジュリエットは唾を飲み込む。
「勝ち上がれない奴隷はどうなるのですか・・・?」
まだ掘り下げるか。
俺の顔色を伺うくらいなら聞かなければいいものを。
「普通は貴族に売られるな。そのまま戦いで命を落とす奴もいるが、むしろ死ぬ奴の方が多いかもな。コロシアムで何とか生き残った奴が買われている印象だ。所詮は上流階級の奴らの暇つぶしに過ぎないから仕方がないが」
「暇つぶし・・・」
「さっきも言ったが、勝てさえすれば人権を勝ち取れるから分かりやすいし、奴隷たちも夢は見られる。そういう意味では互いに利害が一致しているのかもしれない。だから・・・」
「もう止めてください!!」
行き交う人々の足が止まり、皆の視線がカルマナに集中した。
そんな彼女の切迫した勢いに呑まれ、一瞬狼狽えた。
ようやく顔を上げた彼女の瞳は滲んでいるにも関わらず、強い意志を感じさせた。
「どうして・・・。どうしてそんな平然と話ができるんですか? 人の命が、歪んだ享楽を求める人々の手のひらで転がされているんですよ? あなただって・・・」
何かを言おうとした彼女は、言葉を詰まらせ肩を落とすだけだった。
「軽々しく聞くような話ではありませんでしたね・・・。ごめんなさい」
泣き出すカルマナに寄り添い背中をさするジュリエット。
とても一人で歩ける精神状態ではなさそうだ。
やがて彼女はスイッチが切れたようにジュリエットにもたれ掛かり、そのまま眠りについてしまった。
やれやれ。
起こさないようにそっと彼女を抱き上げる。
「お師匠様、義肢が・・・」
「女一人くらい何ともない。それより宿に行こう。今から謁見のために『栄光の回廊』を登るのも時間がかかる。今日はもう休もう」
歩き出した途端、少し目が霞んだ。
「お師匠様?!」
倒れる体をジュリエットが咄嗟に支えてくれた。
「済まない。大丈夫だ」
マイアのおかげで内部の魔力経路が一時的に復元されているとはいえ、全て自己供給状態。
能力値に目をやると、それぞれ数字は百を切っていた。
下がり続けていた能力値の減少はどうにか止まったものの、依然として低いままだ。
宿の二階に案内され部屋に入ると、すぐにカルマナをベッドに横たえた。
反対側のベッドに腰掛ける。
「きっと、泣き疲れちゃったんでしょうね」
ジュリエットは静かに寝息を立てるカルマナに優しく微笑みかける。
「どうしてお前がコロシアムの内情を知っているんだ? 王家や裏の人間でない限り知り得ないことだぞ」
するとジュリエットは身なりを整え、まっすぐ俺に向き合った。
「お師匠様は、デラクールという名をご存知ですか?」
どこかで聞いたことがあるような気もするが・・・。
「いや、知らないな」
「デラクールは、王族バルサザール家と深い関わりのある一族の名前です」
「まさか、お前・・・」
「はい。私の名前はジュリエット・デラクール。この国の裏の顔、汚れ仕事全般を総括する両親の元に生まれた一人娘です」
なるほどな。
道理で裏の深い部分まで知っているわけだ。
しかし、そんな裏社会と繋がりのある家の娘がどうしてヴァルムレイクなんかにいたんだ?
思い返してみれば、これまでの世界線でジュリエットを目にした時は、どれもロザリアを追いかけドルガリスへやってきた。
わざわざ大陸を渡って来るくらいロザリアに憧れているくらいだ。
たとえ彼女を悲しませた俺に恨みがあったとしても、『祖光継諾の儀』を見届けずにドルガリスを発つほどなのか?
「お前は確か、ロザリアに惚れて追いかけていたと記憶しているが」
「はい。元々私はあるものを探していたんですけど、その道中で偶然出会ったのがロザリア様でした。ロザリア様の剣技、優雅な立ち振る舞いに強い憧れを抱いたのはその時です」
あるもの・・・。
なるほど。それがカルマナの聖剣というわけか。
彼女との出会いは、彼女が俺たちの隙をついて聖剣を持ち去ったことがきっかけだ。
どうしてこいつは聖剣を狙った?
いや、そもそもどうして聖剣の存在を・・・。
・・・ダメだ。
魔力を消費しすぎたせいか眠くて頭が回らない。
倒れ込むように横たわると、そのまま意識は遠のいていったーーー。
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