第22話 消える孤独と消えぬ絆
『あなた方は、勇者ロザリアの代理として試練としてこの場にいるのでしたね』
「ああ。俺たちは試練をクリアし宝玉を得るためにここまで来た」
マイアは優雅に泳ぐように空色の羽を羽ばたかせ、俺たちの前に舞い降りた。
『先も述べた通り、私は勇者に試練を与える存在です。あなたにはアネット同様、想いの強さと絆の力を提示する必要があります。覚悟はできていますか?』
想いの強さ。
愛するロザリアの未来を取り戻す。
俺の目の前で何度も彼女を手にかけた魔王を倒す。
何としてでも。
どんな手を使ってでも。
廻天の限界を迎えるまでに必ず果たさねばならない。
そのための舞台が整うのなら命を懸ける。
これが、どれだけ時の荒波に逆らおうと、体の一部を捧げようと揺るがない俺の覚悟。
俺の信念。
『・・・・・』
我に返ると、唖然とした様子で俺を見つめるマイアの顔が目に入った。
ロザリアのことを考えていたら、いつの間にか自分の感情に飲み込まれていたようだ。
「ああ、すまない。想いの強さを示すんだったな・・・」
マイアは一瞬目を見開き、どこか諦めたかのように微笑んだ。
『十分です。言葉にせずともあなたの想いはしかと伝わりましたよ』
「そうなのか?」
『ええ。痛いほどに』
無意識に義手を見つめる。
ロザリア・・・。
『あなたの覚悟は伝わりました。たとえ一人になってしまったとしても達成しようとする強い信念を感じました」
「そうか。なら・・・」
マイアの力強い視線が向けられる。
『あなたに問います。あなたは、自分が孤独だと思いますか?』
「・・・孤独?」
それは何を指して言っているんだ?
俺のロザリアに対する思いがカルマナたちを置き去りにしているという意味なのか。
異常なまでに膨れ上がった能力値のことなのか。
それとも、ループを重ねることで感じている、この世界に一人取り残されたような感覚のことなのか。
一体、どう答えるのが正解なんだ?
見透かしたように俺を見つめるマイアの眼から逃げるように視線を落とす。
「俺は・・・」
気付くと、義手の甲にそっと二つの手が添えられていた。
「もちろん、カインさんが孤独なわけがありません。私という最高のパートナーがいるんですから」
「私もですっ!」
「お前ら・・・」
そうだ。
一人だけ時を逆行し、また同じ結果になるのではないかという恐怖と、世界と乖離していく孤独感。
それが嫌で、俺は一人で全てを背負うと決めた。
だからロザリアから離れた。
そうすれば嫌なものを見なくて済むからと、そう思っていた。
でも、今は違う。
ヴァルムレイクの時も、フローレンスバレーでの試練でも、ここに来る道中も、カルマナとジュリエットがいてくれたから乗り越えることができた。
この旅で俺は、初めて仲間との絆がこんなにも心強いことを知った。
支え合うことがどれだけ自分を強くするのかを知った。
それなのに、魔王に対する執念や憎しみに支配され、そのことを忘れてしまっていた。
情けない。
自分には仲間が必要だと理解したはずなのに。
二人を守ると誓ったのに、こんなに容易く憎しみに囚われるなんてな。
でも、二人のおかげで思い出せた。
伝えるべき言葉は決まっている。
「俺は孤独じゃない。こんなにも頼もしい仲間がいるんだ。孤独であるはずがない」
不器用でも何でもいい。
忘れそうになったらいつでも安心して帰って来れる。
今の俺の居場所はここなんだ。
しばらく俺を見つめたまま表情を崩さなかったマイアは、やがてにっこりと優しく微笑んだ。
『とても清らかで美しい絆を見せてくれました。合格です』
「合格・・・?」
『あなたの試練は、あなた自身の心の中にありました。勇者の試練とは、強さだけではなく、支え合う力を証明するものでもあるのです』
その言葉を聞いた瞬間、肩の荷が降り緊張の糸がプツンと切れた。
思いの外すり減った精神が影響したのか、一気に体が重くなった。
バランスを崩した体を咄嗟に支えてくれるカルマナ。
「ふぅ・・・。どっと疲れが出たな」
「なぜです? これ以上ないくらい簡単な試練じゃないですか」
「自分が受けていないからそんなことを言えるんだ。俺の立場にもなってみろ。精神の疲弊が尋常じゃないんだぞ」
すると、カルマナは本気で分からないといった様子で首を傾げた。
「だって、私たち三人が強い絆で結ばれているなんて、当たり前すぎてわざわざ言葉にするまでもないじゃないですか」
カルマナの言葉に激しく頷くジュリエット。
『ふふ。彼女が試練を受けた方が早かったかも知れませんね』
「さすがマイア! 大司教であるこの私の潜在能力を見抜くなんて!」
試練は勇者パーティに属する者でないと受けられないがな。
『その身体、かなり無理をなさったご様子』
「ああ、ここに来るまでに壊れてしまってな。この通りまともに動かないんだ」
すると、マイアの小さく温かい手が義肢に触れ、金属越しに温かい感覚が伝わってきた。
魔力が・・・流れ込んでいる?
やがて完全に制御を失っていた腕が少し滑らかに動くようになった。脚の方も同様だ。
『応急処置にしかなりませんが、何もしないよりかはマシかと思います』
「済まない。感謝する」
『さて。あなた方にも試練を終えた証を授けないといけませんね』
マイアがゆっくりと手を上げると、アネットの時と同じように空を舞う精霊たちから虹色の糸が生成され、ふわりと手の上に重なっていった。
やがて糸は宙に浮き球状にその形を変えていく。
そして、透き通った輝きを放つ紫色の宝玉が手のひらに乗せられた。
美しさを堪能する間もなくカルマナにひょいと拐われた。
「わぁ! とっても綺麗ですねぇ〜」
「へぇ〜。それが宝玉か。初めて見たよ」
アネットもジュリエットも宝玉の美しさに見惚れている。
やれやれ。
『試練は終わりました。フロストヘイヴンへ戻ると良いでしょう』
「そうはいってもどこから帰ればいいのさ?」
アネットはキョロキョロと周囲を見渡した。
マイアが手をかざすと、目の前に大きな光の扉が出現した。
『ここを潜れば元の世界へ戻れますよ』
「ひゃ〜! これはすごいや!」
アネットは駆け足で光の扉へと駆けていく。
「介抱してくれてありがとうマイア! わっ?!」
転びそうになるアネットを見て困ったように微笑むマイア。
『急がなくても扉は逃げませんよ』
「あはは。ごめんごめん。でも、本当にありがとう。マイアのおかげで私は私の生きる意味を見つけることができた。これからもちょくちょく顔出すからさ、よろしく頼むよ。姉ちゃんみたいに」
『ええ。いつでもお待ちしていますよ』
マイアは颯爽と光のなかへ消えていくアネットの背中に向かい手を振る。
「さて。俺たちも行こう」
「帰ったらお鍋料理ですね♪」
「賛成です!」
なぜそうなる・・・。
相変わらず煩悩に塗れた頭だな。
カルマナとジュリエットは仲良く手を繋ぎ、光の扉へ消えていった。
『彼女たちとの絆、大切にしてくださいね』
「急にどうしたんだ?」
『いえ・・・』
何か言いたげな顔だが、気になることでもあるのか?
『あなたは、ルシェリアという名前をご存知ですか?』
「いや、聞いたことがないな」
『そうですか。変なことを聞いていしまいましたね。引き留めて申し訳ありませんでした』
ルシェリア。
初めて聞くはずのその名前に、どうしてか悲しみや寂しさ、そして言葉にできない切なさを覚えた。
手を振る精霊たちに見送られながら、何となくモヤモヤした気持ちで光の扉を潜るのだった。
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