間話②ー想い人との決別ー
※視点が変わりますのでご注意ください。
ルマリア大聖堂にて『祖光継諾の儀』を終え、十四日が経った。
いつも通りの街並み。
背後の崖を追い抜かんと天まで伸びる城の尖塔。
日の光を美しく反射する大理石の広場。
大通りは相変わらず人で賑わっていて、たくさんの人が行き交っている。
楽しそうに話す人々の顔を見ていると、つい自分の背負っているこの宿命は夢なんじゃないかと思ってしまう。
そんな思いを忘れるように、久しぶりの外界の空気をいっぱいに吸い込む。
空は快晴。
旅立ちに相応しい日和だ。
今日からが本当の始まり。気を引き締めていかないと。
「無事に終わったようだなロザリア!」
振り向くと、フリードたちが大きく手を振っていた。
「一人寂しい思いをさせたねマイハニー」
「わっ?!」
気付けば、いつの間にか手を取られていた。
「君のことを思うと夜も眠れなかったよ」
「そ、そうなんだ」
こんな恥ずかしいセリフを次々と言えるジュリアンの手慣れた所作に思わず感心してしまう。
「ハニーじゃねぇわ」
すぐさま背後を取ったヴィオラが跪くジュリアンの頭を殴り飛ばした。
ヴィオラも相変わらず手加減なしだなぁ・・・。
「ロザリアも物好きよね。こんな女たらしさっさとクビにすればいいのに」
「え?! 僕クビ?!」
「そ、そんなことしないよ! ジュリアンは頼りになるし!」
お願いだからそんな捨てられた子犬のような目で見つめないでよ〜。
こっちまで悲しくなっちゃう。
「オラ。いつまでも遊んでんじゃねーぞ。今日は記念すべき門出なんだ」
「そうだよ! 早く城へ行かなきゃっ・・・?!」
振り返った瞬間、何かにぶつかった。
「いてぇな! よそ見してんじゃねぇ!」
太いガラガラの声に思わず体がこわばった。
太陽を隠す大木のような人影をゆっくりと見上げる。
うわぁ。熊みたいに大きい人だ。
お父様といい勝負かも。
「おい! なんか言うことあるんじゃねぇのか?!」
「ご、ごめんなさい!」
やっちゃった。圧倒されて謝るのを忘れてた。
「随分といい身なりじゃねぇか。どこの貴族だか知らねぇが、このカッツォ様に喧嘩を売るとはいい度胸・・・」
いつの間にか、私の手はその熊のような手に包み込まれていた。
あれ? さっきも同じことがあったような。
「あんた、もしかして勇者ロザリアか?!」
「え、ええ。よくご存知で」
「こんなところで会えるとはなんてラッキーなんだ!!」
え、なになに?!
急に態度が変わってどうしたの?!
「俺はずっとあんたに憧れてたんだ! その美貌もさることながら、なんと言っても長い勇者の歴史の中でも最強と言われるその実力! 男から見ても頭が下がるばかりだ! 尊敬するぜ!」
「は、はぁ」
呆気に取られていると、興奮して話すカッツォさんの前にフリードが立ちはだかった。
「急に掌返しやがって。あんまり調子に乗ってるとぶっ飛ばすぞ」
「あぁん? テメェはお呼びじゃねえんだよ。退いてな」
二人が睨み合っていると、カッツォさんの懐から何か光るものが落ちたように見えた。
そ〜っと二人の間をくぐりそれを拾う。
これは・・・。ネックレス、なのかな?
雨粒のようにも見えるし、涙のようにも見える。
綺麗な輝きがあるけれど、よく見るとその曲線は細かく歪曲していて、下の方に五箇所の窪みのような凹みがある。
その自然な穴の開き方は、とても細工されたようには見えない。
不思議な魅力的のあるネックレスにしばらく気を取られていた。
「あの、落としましたよ・・・」
「何てこった!!!」
見せるや否や、カッツォさんは慌ててネックレスを攫った。
すごい慌てよう。
恋人にプレゼントするのかな?
「危ねぇ! せっかく譲ってもらったもんを無くすわけにはいかねぇ」
なんだそういうこと。ちょっと残念。
あれ? 剣が・・・。
・・・・・。
ほのかに温もりを感じたような気がしたけど、気のせいかな?
「ロザリア〜。早くしないと国王に怒られるわよ〜」
眠そうにあくびをするヴィオラの声に我に返る。
「そ、そうだね!」
また夢中になって忘れてた・・・。
「そ、それじゃ私たちはこれで」
「おう! 今度ゆっくり武勇伝を聞かせてくれ!」
カッツォさんと別れ、私たちはドルガリス城へと向かった。
今朝、私たちにエルドリック王から城へ来るように連絡があった。
儀式を終えた勇者は、王様に謁見した後、ついに世界巡礼の旅へ一歩を踏み出す。
だから王様に呼ばれるのは普通のこと。
なんだけど、エルドリック王に呼ばれた時なんかモヤモヤしたのよね・・・。
城の中へ入ると、全身鎧に身を包んだ兵士や煌びやかな貴族服を着た役人たちが忙しなく働いていた。
彼らの合間を縫うように回廊を進む。
「さーて。ようやく戦えるな。ずっと町にいたから鈍っちまってるか心配だぜ」
回廊に響き渡るくらい大きな音を鳴らし両拳を突き合わせるフリード。
「うるさいな。もっと静かに話してよ赤毛猿」
「誰が赤毛猿だ?!」
フリードとヴィオラが目の前で取っ組み合いを始めた。
二人は相変わらずだなぁ。
「おぉ! やっぱロザリア姫の笑顔は効くねぇ! やる気出てきた!」
「何よそれ。ジュリアンてば調子いいんだから」
「マイハニーの護衛ができるんだ。そりゃ調子も良くなるさ♪」
ジュリアンは一見軽い感じがするけど、指示も的確だし実はとても冷静だ。
フリードもヴィオラも、ああ見えてとても仲間想い。
過去の勇者様にも胸を張って言える。
私たちは最高のパーティだ。
だから、私を信じてくれる世界中の人たちのためにも、魔王は必ず私たちが倒してみせる。
決意を胸に、高く聳える王の間の扉を見上げる。
「行こう」
ゆっくりと扉を開け中へ入ると、王の他にも兵や従者が行き交っていた。
さっきも思ったけどみんな忙しそう。
何かあったのかな?
重厚な鎧を身に纏い整列する近衛兵の間をまっすぐ進む。
「おお。よく来てくれたロザリアよ。このような状況で済まぬ。落ち着かないだろう」
「なんだか大変そうですね」
エルドリック王の真剣な表情に緊張感が増した。
「うむ。実は、先日ウルフスタンで勇者代理を名乗る者が試練を受けたようなのだ」
う〜ん・・・?
「『祖光継諾の儀』は今日終えたばかりですよ?」
「ああ。だからこそこうして城に呼んだのだからな」
「もしかして、例の偽者でしょうか」
試練は代理でも受けることはできる。
でも、それは儀式中の勇者に何かイレギュラーがあった時。つまり緊急時に取る方法。
本来であれば、その旨はすぐに勇者とそのメンバーに知らされる。
勇者に内密で試練を代理遂行することはまずない。
稀に、勇者パーティに招かれなかった人が興味本意で知られざる試練や巡礼の真似事をすることがあるみたいだけれど、国が真っ先に調査し真偽が分かるとすぐに犯人を捕まえる。
正式なパーティメンバーは、『祖光継諾の儀』を行うルマリア大聖堂内でエルドリック王により石碑にその名が刻まれる。
どこから情報を得るのか、それを知ったタチの悪い犯人がメンバーの名前を借り試練を受けようとする者もいたそうだ。
試練の代理遂行のほとんどが偽者による犯行。
過去にも、そういった冷やかし行為が度々あったみたい。
まさか私の代で起こるなんて幸先悪いなぁ・・・。
「捕まった人も反省してくれるといいですね」
「それが、まだ捕まえておらんのだ」
「えっ?! そうなのですか?!」
王都ドルガリスは五大国で最も大きな軍と兵力を持つため、異常事態への対応もその解決も迅速だ。
そんなドルガリス国軍を欺くなんて。
勇者に対する侮辱行為とはいえ、伊達に代理は名乗らないということね。
いや、わざわざ試練を受けるくらい自分の力に自信がある人だもの。
ある意味当然か。
「伝令兵によると、ヴァルムレイク、そしてフローレンスバレーの試練も終えたらしい」
うそっ・・・!?
この二週間の間にもう二箇所の試練を?!
「そんな?! それじゃ私の役目は・・・」
「もちろん、本来権利はお主にある。だが、この短期間で二カ国の宝玉を集めた偽勇者は相当の実力者のようだ。現在、フロストヘイヴンにも確認を急いでいるが、地理上どうしても連絡が遅くてな。このままでは全ての宝玉を手にしてしまう。仮にそうなれば、宝玉が作動し異空間への扉を開いてしまう恐れもある。いたずらに魔王を刺激すればこの世界に与える悪影響は計り知れない」
まずいなぁ。
勇者としてあるまじき考え方かもしれないけど、魔王を倒すのは正直誰であっても構わないと思ってる。
だって、私たちにとって最も大事なのは、この世界が魔王の恐怖から解放されることなのだから。
怖いのは、エルドリック王が言うように遊び半分で集めた宝玉が何らかの理由で誤作動を起こし、異空間へと繋いでしまうことだ。
そうなれば魔王との戦いは避けられない。
勇者の巡礼は、宝玉を集めることで異空間への扉を開くだけでなく、旅を通して仲間との連携や信頼関係を高めることはもちろん、勇者自身の心身のさらなる成長を促し魔王の絶対的な力に少しでも近づける意味合いもある。
十全な準備もしないまま戦って勝てるほど魔王は甘くない。
短期間で集めるその手腕は惜しいけれど、このまま偽者を放置すれば悪戯に世界に及ぶ危険が大きくなってしまう。
早く捕まえなきゃ。
「その人物の特徴を教えていただけますか?」
「話によると、黒髪の黒いロングコートに身を包んだ全身黒ずくめの男のようだ」
「全身黒ずくめ」
ふふ。いかにも犯人らしい服装。
そんな逆に目立つような格好をしているなんて、犯人も意外と詰めが甘いのね。
誰かさんを思い出さずにはいられない。
「あ、れ・・・?」
その瞬間、自分の心臓が一際強く鼓動した。
まるで重大な何かを警告するかのように。
同時に、私の中で情報が一気に繋がっていく。
王が何かを話しているけどよく聞こえない。
でも、誰のことを言っているのか、まるで少し先の未来を視ているかのように手に取るように分かった。
そうそう。
左目が白くて、目立つ左半身の義肢が特徴的なのよね。
それを隠すように羽織る黒いロングコート。
一見冷たそうに見えるのに、実は誰よりも仲間想いで。気配りで。
そこを弄ると少しぶっきらぼうな顔でそっぽを向いて。
戦闘になれば涼しい顔で瞬く間に敵を倒しちゃって。
ずっと、私を隣で支えてくれていた大切な人。
・・・カイン。
「魔王討伐は勇者の使命。その資格を持たぬ者がいたずらに異空間の扉を開くのは大罪であり、勇者に対する冒涜である。情報の限りでは一般人のようだが、このまま試練を続けるようであれば禁固刑は免れないだろう。最悪死刑に処すこともあり得る」
どう、して・・・?
カインが私たちよりも先に宝玉を集める意味なんてない・・・。
彼に追放を言い渡した時の、あの光景が蘇る。
また、あの時みたいに私たちを馬鹿にするの?
そんなに自分よりも劣るメンバーに嫌気が差していた?
まさか、私と恋人になったのも・・・?
あなたにとって、全ては遊びだったというの?
考えてはいけないことが沸々と、とめどなく溢れてくる。
でも、あの時の彼の行動を考えるとどうしても辻褄が合ってしまう。
だってそうでしょ?
八年も一緒にいた人を平然と切り捨てることができたんだから。
ここにいる皆んなだって大切な仲間だ。
そうあって欲しくないと願うほど、彼が犯人である証拠が浮き彫りになっていく。
私の中の彼の姿が変わっていく。
あなたは私が戦う理由を知っているはず。
私の使命を知っているはずだよ。
それでも、あなたは私からその使命を奪うのね。
・・・・・。
もう、私の中に居る優しいあなたは微笑み返してくれないみたい。
カイン。
自分の中に、静かに熱く、激しい感情が込み上げてくるのを感じる。
その荒ぶる感情に身を任せる自分がいる。
・・・許さない。
「その犯人、私が捕まえます」
「お、おお。ロザリアから申し出てくれるのは非常に心強い。しかし、本来の巡礼の意とかけ離れてしまうが・・・」
「構いません。実力を考えて、犯人が持つ宝玉は本物。むしろ各地を巡礼するより彼を追う方が早いかもしれません」
そうすれば下手に世界を回る必要もない。
カインさえ捕まえれば全てが解決する。
捕まえて、私たちを侮辱した理由を聞き出す。
どうして私を。私たちを裏切ったのか、その真意を聞き出す。
深く息を吸い、昂る鼓動を落ち着かせる。
巡礼の目的が大きく変わってしまったけれど、目標が一点に定まったことに関してだけは彼に感謝ね。
おかげで頭がスッキリしたわ。
そして、踏ん切りをつける良い機会になった。
湖に投げ入れられた石のように、心の奥底に沈んでしまった遠い日の記憶に。
あなたの愚行は私が必ず止める。
「皆んな。急ごう」
静かに燃える決意と覚悟、そして彼に対する激しい怒りを胸に、私はひと足先に王の間を後にしたーーー。
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