第20話 アネットと小さき長
いつから道を見失っていたのだろう。
広がる真っ白い風景を見渡しながら、恐る恐る歩を進める。
クリスタルドラゴンを倒した俺たちは奥に見つけた細い道を進んでいたはずだ。
このまま異世界にでも繋がっているとでもいうのだろうか。
まさか、魔王の居城・・・?
いや、そんなはずはない。
魔王の住まう異空間への扉を開くには五つの宝玉が必須。
それに、たとえ繋がっていたとしても、こんな状態で魔王との戦いになれば間違いなく全滅だ。
そんなことを考えていたら目の前が更に白く輝き出した。
あまりの眩しさに目を細める。
様子を伺うようにゆっくりと目を開くと、辺り一面に広がる大草原が飛び込んできた。
「わぁ〜っ!!」
カルマナとジュリエットは水を得た魚のように両手を広げて駆け出した。
空は吸い込まれそうなほど蒼く、暖かい日差しが草の海を青々と照らしている。
寒々としたこれまでの景色とは正反対だ。
「ここは、一体どこだ・・・?」
バカな。俺たちはクルーザスト山脈の神殿にいたはず。
こんな春のような温かみのある場所なんてあるわけが・・・。
『あ〜!! またニンゲンだ!!』
『ほんとだ〜! 今日はいっぱい来るね!』
どこからともなく声が響いた。
カルマナとジュリエットもキョロキョロと辺りを見回している。
そんなに遠くはないと思うのだが、一体どこだ?
突然、目の前に小さな精霊たちが現れた。
各々自由に飛び回るその姿は、まるで宝石のように様々な輝きを放っている。
「うわぁ! 綺麗ですねぇ!」
周りを飛び交う精霊に目を奪われている二人を尻目に、目の前で佇む一体の精霊に注意を向けた。
『ふふ。ニンゲンにしては良い感覚ですね』
この空のように深い青色の髪に、白い着物を着た精霊。
顔にはいくつか緑色の紋様が刻まれている。
こいつは他の精霊とは違う。
『ようこそお越しくださいました。と言っても、迷い込んだと言った方が正しいかも知れませんが』
この精霊、過去に出会ったどの精霊とも容姿が異なるな。
まあこれだけの数が存在しているんだ。
毎回同じ精霊に出会うということもないのだろう。
『私はマイア。古代より彼らを束ねる役割を担っております』
空を飛び交う色とりどりの精霊たちに目を向ける。
なるほど。道理で他の奴らと雰囲気が違うわけだ。
しかし不思議だ。
前回まではこいつの存在は確認できなかった。
やはり、大きく選択を変えたこの世界線では未来が少しづつ変化している。
『なるほど。強い力を感じたと思ったらそれのせいでしたか』
マイアは俺の手元に視線を落とす。
俺とカルマナは互いに顔を見合わせた。
『その手袋からとても強い糸の力を感じます。あなた方の着ている衣服からも』
そして、マイアは俺の顔を覗き込み、難しい顔で顎に手を当てた。
『う〜ん、どこかでお会いしましたか?』
「なんだ。藪から棒に」
『いえ。あなたの持つオーラが幾重にも重なって見えました。それが今のものではないように思えたので』
廻天による時の歪みを見抜かれている?
精霊はこの世界とは切り離された世界に生きる存在だ。
可能性もなくはない。
とはいえ、『今』この世界に生きる存在に廻天を知られるわけにはいかない。
「残念ながら初対面だな。お前たちは長寿だからな。過去に似たようなヤツがいたんだろ」
精霊はしばらく考え込んでいたが、やがて納得するように大きく頷いた。
『あなたからは勇者と並ぶ特異なオーラを感じます。ということは、試練を受けにここを訪れたと考えた方が妥当でしょうか』
俺の誤魔化しを当然のように受け流すマイア。
なるほど。
「・・・ご明察だ。やはり精霊の目を欺くことはできないようだな。まあ、それだけではないのだが」
『と言いますと?』
「ここに人間は紛れ込んで来ていないか? 俺たちはそいつを探しに来た」
『なるほど、そういうことでしたか。少々お待ちを』
すると、マイアは小さな光の玉を打ち上げた。
しばらくして、後ろに見えるなだらかな丘から一人の女性が歩いてきた。
「おお! 人間だ! ここを自力で探し当ててくるなんてすごいな!」
肩の上でふんわりとまとまる栗色の髪に、宝石のような緑色の瞳。
あの婆さんにどことなく似ている。
「お前がアネットで間違いないか?」
アネットは自信満々に胸を叩いた。
「その通り! 私に何か用かい?」
「婆さんに頼まれてお前を探しに来たんだ」
彼女は照れくさそうに頭を掻いた。
「いやぁ〜。実は今朝から『恵みの糸』を取りに来ていたんだけど、山頂付近で急に眩暈がして倒れちゃってね。気付いたらここで妖精たちに介抱されていたってわけさ」
「その様子なら大丈夫そうだな。無事なら早く帰ってやれ」
「見ず知らずの君たちに心配かけて悪かった。朝から熱っぽくて調子が良くなかったんだけど、ばあちゃんの反対を押し切って来たらこの様さ」
アネットは呆れる俺の前で天に向かい豪快に笑い声を上げている。
全く無茶をする。
一歩間違えれば死んでいたところだ。
すると、カルマナがそっと耳打ちしてきた。
「無茶をするところ、誰かさんと良く似ていますね」
「うるさいぞ」
アネットは深呼吸して両手を広げた。
「しかし、ここは本当に気持ちのいいところだなぁ」
『またいつでもいらして下さい。あなたなら大歓迎ですよ』
「本当かい?! やった! 倒れて良かった〜!」
それは不謹慎だと思うが。
あっさり受け入れるこいつらもこいつらだ。
「そういえば、わざわざこんなところまで来たということは君たちも『恵みの糸』を取りに来たのかい?」
「まあな。服の素材ではなく巡礼としてだがな」
「へぇ〜。君たちはあの勇者様御一行なわけか。あれ? でも今年の勇者はロザリアという綺麗なブロンド髪の女の子じゃなかったっけ?」
「そいつの代理だ」
「そっかそっか! なるほどね!」
単純な奴で助かった。
「というわけで、マイア。私は『恵みの糸』が欲しいんだ。協力してくれるよね?」
アネットの言葉に、マイアの表情が真剣なものへと変わった。
『それはできません』
「で、できないってどういうことだい?」
取り乱すアネットと反対に、マイアは淡々と告げる。
『糸を授けることは容易です。ですが、そのためには条件があります』
「条件?」
『はっきり申し上げましょう。今のあなたに糸を授かる資格もなければ授ける気もありません』
「・・・え?」
呆然と立ち尽くすアネットと並び、マイアの予想外の返答に俺たちまで言葉を失った。
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