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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第17話 導かれた先に待つもの

 

 クルーザスト山脈ーーー。


「この服、すごいですね。全然寒くないです」

「本当ですね。これは快適です♪」


 これだけの吹雪の中、二人の様子は普段と変わらない。


 服を着込んでいるからそう感じているわけではないのはすぐに分かった。


 なぜなら、片方の手袋しか身につけていない俺も二人と同じことを思っていたからだ。


 店の服は『恵みの糸』が原料だと婆さんが言っていた。


 糸には寒さを和らげる効果があったのだ。


 思い返してみれば、町を行き交う人々の中で寒さを感じている奴は一人もいなかった。


 ロザリアたちといた頃には気付きもしなかったな。


 とにかく、あの憎むべき寒さが嘘のように吹き飛んだことは嬉しさを超えて驚嘆に値する。


 心の底で密かに雄叫びを上げた。


「ふふ。私の祈りが通じたようですね」

「違う。単純にあの店の衣類に体を温める効果があるだけだ」

「ぶー。カインさんの反応はつまらないです。この前までは優しい人に戻っていたのに」

「お前は俺の何を知っていると言うんだ。勝手に性格を書き換えるな」

「当然、カインさんのことなら何でも知っていますとも!」


 久々に来るか。


「運命共同体ですから!」


 やっぱり。


 もはや否定するのも面倒だ。


 気付くと、はしゃいでいたカルマナは急に大人しくなり、どこか遠くを見ていた。


 山頂の方だ。


「何を突っ立ている? まだ道半ばだぞ」

「・・・・・」


 ん? 聞こえなかったのか?


「おい。ボケっとしてると凍え死ぬぞ」

「へっ?! そ、そうですねっ!!」


 一瞬見せた、心ここに在らずといった表情は何だったんだ?


「さあ! 精霊に会いに行きましょ〜♪」


 やれやれ。気のせいか。


 それはそうと、こいつ目的を忘れていないだろうな・・・。


「精霊なんて見るの初めてです。どんな姿をしているのか楽しみですね」


 ジュリエットの足取りが軽い。


「意外と人懐っこいらしい。『恵みの糸』の収集自体は困難ではないと聞いている」

「へぇ〜。カインさんは物知りですね」


 どこか疑いの目を向けるカルマナから逃げるように目を逸らし、遠くの山を見つめる。


「それにしてもアネットさんの姿も見当たりませんね。やはり山脈の方でしょうか?」

「リブラで探索してみたが引っ掛からなかった。今でこそ糸の採掘で訪れるだけだが、クルーザスト山脈は元々、旅立つ勇者に祈りを捧げるために司教たちが修行として頻繁に訪れていたと聞く。山頂付近は空気が薄い。恐らくその特殊な環境が魔力を遮断しているか、もしくは精霊の生み出す魔力が妨げているかだと思うが」

「もしかして、もう手遅れとか・・・」


 司教らしからぬ発言に、カルマナの被るミトラがゆらゆら揺れる姿が癪に障った。


 隙をついてミトラを取り上げる。


「らしくないことを言うな」

「ああ?! 返してください! それがないと大司教としての威厳が!」


 ジタバタするカルマナの頭にぼすっとミトラを被せた。


「安心しろ。リブラの効果範囲と精度は術者の魔力値に依存する。この程度の山なら十分捜索範囲内だ。人一人探すくらいならそう簡単に遮断されない。ここまで登ってきて未だ反応が無いということは、十中八九頂上付近にいるはずだ」


 とはいえ、ここまで登ってきたにも関わらず全く痕跡が掴めないのは少し気になるな。


 気付くと、ジュリエットが何やら難しい顔をしてこちらを覗き込んでいた。


「この山って言ってもかなり広範囲ですよね。お師匠様の魔力って一体いくつなんですか?」

「あ、やっぱり最初は気になりますよね! 見てみます? きっと驚きますよ」


 なぜお前が言う。


「別に面白くもなんともないぞ」


 二人の期待に満ちた視線に根負けし、能力値を表示させた。


「・・・・・・え?」


 硬直するジュリエットを見て必死に声を抑るカルマナ。


「よ、四千?! 何ですかこの数値?!」

「ただのイレギュラーだから気にするな」

「いやいやいや! どう考えても異常ですって! 一体どんな裏技を?!」


 面白いくらいカルマナと同じ反応だ。


「実を言うと、俺は同じ時間を繰り返す時の旅人なんだ」


 しばらく固まっていたジュリエットの表情がパッと明るくなった。


「うわぁ! なんてロマンチック♪ そんなことができたらきっと楽しいでしょうね!」

「展開や周りの反応が同じだから意外と退屈だぞ」

「あははっ! まるで本当に体験しているかのような言い方! 説得力がすごい!」


 まあ、今まさに体験中の実話だからな。


 そうこうしているうちに頂上まで登りつめた。


 精霊の姿はどこにも見当たらない。


 石で造られた、司教たちが祈りを捧げる雪の積もった小さな勇者像が佇んでいるだけだった。


「おかしいな」

「もう姿を確認できてもおかしくないんですよね」


 ジュリエットは残念そうに周囲を見渡している。


 どういうことだ?


 これまで通りなら物珍しそうにたくさんの精霊が寄ってきたんだが。


「こちらです」


 カルマナはゆっくりと腕を持ち上げ、ある方向を指差した。


 その指はまっすぐ山の裏側を示している。


 いつもと雰囲気が違う。


 奇妙な雰囲気に顔を覗き込むと、いつもの生意気な表情はそこにはなく、どこかに意識を置いてきたかのように虚な瞳をしていた。


 半信半疑で下方を見下ろすと、弧を描くように下山するための道らしきものがうっすらと見える。


 舗装はされておらず、所々山肌や道の脇に雑草が生えている。


 登ってきたばかりでまた降るのは抵抗感があるが、いつまでも精霊のいないこの場所に居ても仕方がない。


 降るしかない。


 それにしても彼女の様子がおかしい。


 何かに取り憑かれたように朧げな瞳で指差す方向を見つめるその姿は、まるで人ではないように思えるほど無機質に感じられた。


 まるでこの世の生き物ではないみたいな冷たさに、一瞬背筋が凍る。


 この拭いきれない不安・・・。


 カルマナに起こっている明らかな異常がそうさせている。


 それだけは分かっているのに、その正体が掴めない。


 その歯痒さがとても気持ち悪い。


 すると、カルマナはそのままゆっくりと指差した方向へ歩き出した。


「お、おい!」


 急にどうしたというんだ。


 そういえば山を登るっている時も・・・。


 何か関係があるのか?


 急いでカルマナの後を追い山の裏側を降っていくと、斜面に石造りの建物が見えた。


 カルマナは建物の前で指差したまま立っていた。


「聖堂・・・?」


 こんな所に。それもこんな剥き出しの状態で。


 様式からしてエテルヌス教のもので間違いなさそうだが、規模としてはとても小さい。


 所々ひび割れ崩れかけている様子から、作られてからかなりの年月が経過しているようだ。


 降って来る時も人が踏み入れた形跡はなかった。


 あまり歓迎されているとは思えないが、朽ち果てた半開きの扉が入るよう手招いているように見える。


 リブラの探知に掛からなかったことも気になる。


「カルマナ!?」


 糸が切れたように倒れ掛かるカルマナを咄嗟に支えた。


「あれ? 私・・・」


 記憶が抜けている?


 スキルの中には憑依するものや人を操る類のものも存在する。


 何者かに遠くから操作された可能性もあるが、例えば暗殺者(アサシン)のマスター、シャドウリーパーのように隠密系ジョブのマスタークラスなど、余程優れた隠者でなければ俺のリブラは掻い潜れない。


 そもそも、仮にそんな奴が近くにいたとして、この場所でそんなものを使う意味なんてあるのか?


 いや、そんなことよりまずはカルマナが意識を取り戻してくれて良かった。


「良かったぁ。急に人が変わったようにふらふらと歩き出したので心配しました」


 ジュリエットも心から安心したのだろう。


 目にはうっすらと涙を浮かべ、祈るように胸に手を当てていた。


「この建物は何でしょう?」

「分からない。だが、何か特別な力を感じるのは確かだな」


 精霊のいない原因も分からない。


 アネットの行方も分からないままだ。


 このままではアネットを見つけ出すことはおろか試練のクリアすら出来ない。


「では、早く中へ入ってアネットさんを助けて『恵みの糸』を採集しましょう!」


 カルマナは軽やかに俺から離れ、聖堂にむけ握り拳をつくった。


 やれやれ。


 まだアネットがいると決まったわけではないのにすごい気合いだ。


 キシ・・・。


 足を踏み出した時、小さな軋み音が聞こえた。


 軽く関節を動かし動作を確認する。


 構造上の問題で稀にこういった音がすることがある。


 しかし、今のはいつもよりほんの少しだけ音が高く感じたが・・・。


 まぁ、これだけ可動域があれば問題ないだろう。


「カインさん?」

「何でもない。さっさと済ませてしまおう」


 モタモタしてロザリアたちに追いつかれるわけにもいかない。


 五つの宝玉を集め切るまでは立ち止まるわけにはいかないんだ。


 一抹の不安を残したまま、俺たちは聖堂の中へ足を踏み入れた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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