第15話 団欒を求めて
フロストヘイヴンは、大陸の中で最も北に位置する山岳地帯の奥にあり、年中吹雪に見舞われている極寒の地。
ヴァニラ遺跡の試練を無事に終えた俺たちは、次の宝玉を手に入れるためフロストヘイヴンを目指し、険しい雪山を登っている真っ最中だ。
そして目の前には実に信じ難い光景が飛び込んでいる。
この状況下で、カルマナのやつが鼻歌を歌いながらスキップしているのだ。
「見渡す限り真っ白ですねぇ! ほら、雪もこんなに♪」
「カルマナ様は元気ですね。私は寒くて寒くてたまりませんよ〜」
「私は大司教ですからね! これくらいヘッチャラですよ!」
・・・・・。
「これだけ寒いとお鍋料理が美味しいですよね。体の内側から温まりますよ」
「聞いたことがない名前です。どんな感じの料理なんですか?」
するとカルマナは、待ってましたと言わんばかりに胸を張った。
「大きめの器に色んな具材を入れて煮込むんです。野菜やお肉の旨みが溶け込んで、時間が経つほど美味しくなるんですよ! 栄養満点で材料も安く揃えられるので、お財布にも優しいんですよ!」
「へぇ〜そうなんですね! 食べてみたいなぁ!」
「実は私も食べたことがないんです。フロストヘイヴンはお鍋料理で有名みたいですし、あとで行ってみるのもいいですね。そうそう、お料理といえばカインさんがとっても詳しいんですよ。ね、カインさ・・・」
寒い寒い寒い寒い寒い。
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい・・・。
「あの、声に出てますよ?」
「話しかけるな・・・。俺はいま、寒さという人生最大の脅威に抗っている最中なんだ。呑気に会話している余裕なんてない」
くそっ。なんて寒さだ・・・。
何度ループしてもこの寒さだけは一生慣れる気がしない。
毎回覚悟を決めて来るものの、この通りいつも無駄な努力に終わる。
カルマナは詐欺師のように薄ら笑いを浮かべて苦痛に喘ぐ俺を見下ろした。
「そういえばカインさんは寒さにめっぽう弱いんでしたねぇ。ジュリエットさん、カインさんをやっつけるなら今がチャンスですよ」
やめろ。
今は寒すぎて銃を抜くことさえできないんだ。
「それはダメですよカルマナ様」
「えぇ?! せっかくのチャンスなのに!」
ジュリエットは咳払いして落ち着いた様子で語り出した。
気のせいか、目に力が籠っているように見える。
「そういうのは、本人に勘付かれないように動く必要があります。お師匠様を倒すならまずちゃんと計画を立てて普段の行動パターンを覚えます。そして、一番気の緩む時間を探し出しそこを突くのですが、ここで事を急いてはいけません」
「ほうほう」
「お師匠様のように経験豊富で高い実力を持つマスタークラスを相手にする場合、最もリラックスした状態か、他に注意が一切向かない状況を作り出した上で動きを完全に封じ込めないといけません。そうじゃないと計画のほんの僅かな穴をすり抜け途端に形成逆転されてしまいます。ですので、失敗することを考慮して事前に複数のやり方を用意しておきます。そして、今お伝えしたのと同じ理由から仕留める時は一撃です。可能であれば遠距離攻撃が望ましいですね。近距離だと逆にこちらの動きを止められてしまう恐れがあり危険度が増します。そういった事態を防ぐためにも、行動を把握する段階から少しずつ食事に薬を盛るなどして、気付かれないようにゆっくりと準備するのがターゲットを確実に仕留めるためのコツですよ。王道ではありますが、相手が男性なら色目を使うのも非常に強力な武器になり得ますね」
ジュリエットは興味津々と言った様子で目を輝かせるカルマナにスラスラと説明する。
まるで経験済みかのように具体的。
そしていつもより早口だ。どこか楽しんでいる気さえする。
「すごいです! これでいつでもカインさんの寝込みを襲えますね! 今度やってみます!」
やるな。
「えへへ。お母様の受け売りなんですけどね」
これは完全に暗殺者の発想だ。
しかも、俺を倒すこと自体は否定しないんだな。
というかカルマナよ。
本気で悔しがっていたお前が一番怖い・・・。
「あ! 見えてきましたよ!」
カルマナの声に顔を上げると、町の明かりがポツポツと灯っていた。
「や、やっと着いた・・・」
「あはは。髪まで凍ってますよ」
「それはお互い様だろ。そんなことより早く行くぞ。いつまでも外にいたら凍え死ぬ・・・」
「ラジャー!」
「待て」
仲良く手を取り合い反対方向へ歩いていく二人を呼び止める。
「どこへ行くつもりだ?」
「え? お鍋料理屋さんですよね?」
さも当然のような顔をするな。
「お前な。遊んでいる時間はないと何度言えば分かるんだ」
「そんな固いこと言わないの。そんな全身冷え切った状態じゃ頭が働きません。王様や司教様とまともなお話はできませんよ?」
む。それは確かに。
いやいや惑わされるな。ここで時間を食っていたらロザリアたちに追いつかれる。
抜け方が抜け方だったために、場合によっては拘束される恐れもある。
五つの宝玉を集め切るまでは油断できない。
「こうして皆んなで一緒にいられるのも当たり前ではないんです。やりたいことはできるうちにやっておかないと後悔してしまいますよ」
ふと、ロザリアたちとの団欒のひとときを思い出す。
カルマナの言葉に思いを巡らせた。
ふと、脳裏に浮かぶのはかつての仲間たち。
フリードを茶化すジュリアンと、それに怒るヴィオラ。
そのやり取りを、呆れながらも、どこか楽しそうに見つめるロザリア。
どれも当たり前にあったはずの日常。
どれだけ願っても二度と取り戻せない日々。
俺は、自らその縁を断ち切った。
それを悔やむ資格なんてないはずなのに・・・。
何一つ当たり前のものはない、か。
カルマナの無邪気な笑顔に、思わず一息ついた。
「・・・それもそうだな。お前に賛成だ」
「さすがカインさん! 話が早いです!」
「あまりゆっくりしていられないからな」
「分かってますって♪」
極寒の中、軽やかにスキップするカルマナに手を引かれ、ささやかな温もりを求めてフロストヘイヴンの町を歩くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
皆様の応援が、何よりの励みになります!
少しでも面白い、続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします!(広告下の☆をタップで簡単に登録できます)
また、読み進める途中でも構いませんので評価をしていただけると大変嬉しいです!
これからも、どうぞよろしくお願いします!




