第14話 誓いを示す鍵
頬が冷たい。
湿った空気と埃臭さを感じる。
どうやら気を失っていたようだ。
未だ意識がぼんやりする中、床の魔法陣がほのかに光を放っていることに気が付いた。
何とか体を持ち上げ、ゆっくりと立ち上がる。
カルマナ。お前が俺を引き上げてくれたんだな。
手に残る温もりの残滓を噛み締める。
お前に助けられるなんて夢にも思わなかった。
俺は、ずっとあいつに支えられていたんだ。
こんな形で仲間の大切さを知ることになんてな。
魔法陣の中央に立ち意識を集中させると、魔法陣が強い光を放ちゆっくりと回り始めた。
しばらくすると光が落ち着き、ガラス玉のように透き通るオレンジ色の球体が現れ、それはやがて細長い鍵の形へと姿を変えた。
それを手にした時、後方で重く引きずるように扉の開く音が聞こえてきた。
どうやら解除できたようだ。
これ以上ロザリアの死ぬ姿は絶対に見たくない。
今回で必ず終わらせる。
この命に変えても。
過去に決別するように、閉まっていく扉の奥を見つめていた。
「あ! カインさ〜ん!」
「お師匠様!」
扉からカルマナとジュリエットがやってきた。
どうやら二人も無事のようだな。
「ギミックを解除したのは良いのですが、急にシンとしたので不安になっちゃいましたよ」
「私もです。なんか間違えちゃったのかなって思いました」
どちらの扉も一筋縄ではいかない難関だったはず。
それをこんなに楽しそうに話すとは頼もしい限りだな。
特にカルマナ。こいつが出できた方の扉には強力な魔物が待ち構えていたはず。
それを何事もなくこなして見せるとは正直驚いた。
「早くカインさんに会いたいな〜って思ってたところに綺麗な鍵が現れたのでびっくりしました」
カルマナは、そのまま吸い込まれてしまうのではいかというくらい、食いつくように鍵を覗き込んでいる。
「あ! 小さな模様が彫ってありますよ!」
「本当だ!」
仲良く互いの鍵を見せ合うカルマナとジュリエット。
「女神像の持っていた杖の形に似てます。きっとこれと同じ形の女神像の杖に嵌め込むんですね」
「お〜! さすがジュリエットさん名推理です!」
推理も何もはじめにそう伝えていたはずだが・・・。
それにしても、この二人結構気が合うんだな。
出会った時からいつもこんな調子だ。
ジュリエットは意外と大人でマナーがしっかりしているところがある。
いや、カルマナの精神年齢が低いだけか?
「ほらほら。カインさんのも見せてくださいよ」
「どれも大差ないだろ」
「良いじゃないですか。女神像に嵌め込んだらもう見れないんですから」
夕日のような温かみのある輝きを纏う鍵を覗き込むカルマナの瞳も、それに負けないくらい綺麗な輝きを帯びている。
「ありがとうカルマナ」
「うわぁっ?!」
声を張り上げ、落としそうになる鍵を何とかキャッチするカルマナ。
「そんなに驚かなくてもいいだろ」
「いきなりどうしたんですか? 感謝を口にするなんてカインさんらしくないですよ」
ロザリアが死んだあの日から、ずっと何かに追われるように生きてきた。
一人で勝手に責任を背負っていた。心の余裕が無かった。
ループを繰り返す度に、いつの間にか人と接するのが恐くなってしまっていた。
「ただ見ていることしかできなくて。悍ましい光景に震えて。心が壊れかけていた。全身の力が抜け、このまま憔悴し切って死ぬのだと諦めかけた時、お前が言ってくれたんだ。『信じてる』と」
「むぅ? おかしいですねぇ。カインさんがそんな事態になれば、真っ先に駆けつけてこの聖剣で気合いを入れるはずですが」
それは普通に痛いから止めてくれ。
「ずっと、一人じゃないと魔王を倒せないと思っていた。俺には仲間なんて必要ないと思っていた。でも、きっとお前がいてくれなかったら重圧に押し潰され、この試練をクリアできなかったはずだ。支えられることがこんなにも心強いものだということを、お前が思い出させてくれたんだ。だから、ありがとう」
ただ言葉にするだけで、心が舞う花びらのように軽くなる。
人は、一人よりも誰かに支えられる方が強くなれる。
久しく忘れていたな。
気付くと、カルマナはまじまじと俺の顔を覗いていた。
そのまま顔を近づけると、何やら頬の辺りを凝視し始めた。
「もしかして、泣いてました?」
・・・っ?!
「な!? 適当なことを言うな! 何を根拠に!」
「だって埃の跡が涙みたいに黒くなってますから」
くそっ! 不覚だった! こんな醜態を晒してしまうとは!
慌てて頬を拭う。
こいつのことだ。きっと大笑いでバカにして・・・。
そっと、頬に温かい手のひらが触れる。
「言ったじゃないですか。私たちはずっと一緒ですよ。これまでも。これからも」
「カルマナ・・・」
「何度でも挫けてください。何度でも悔しさに泣いてください。あなたが倒れそうになる度に、何度でも私が支えますから」
そうだ。
俺にとって耐え難く残酷で絶望的な、あんな未来を変えたくてここまでやってきたんだ。
だからこそ足掻いてきたんだろ。
もう、ずっと前から立ち止まれる場所に立っていないんだ。
進むしかないんだ。
「お師匠様〜! カルマナ様〜!」
女神像の前でジュリエットがこちらに向かい手招きをしている。
早く鍵を使いたくて仕方がない様子だ。
手を振りぴょんぴょん跳ねている。
「それじゃあジュリエットさんのところまで競争です。よーい、どん!」
「おい?! それはズルだろ!!」
掛け声早いっての!
「自慢の能力値で何とかしてくださーい♪」
相変わらずメチャクチャな奴だ。
でも、あいつのおかげで無くしてはいけない大切なものに気付くことができた。
どんな形であれ、魔王を倒すことさえできればロザリアは死なずに済むんだ。
なら、この新しいパーティで全力を尽くす。
お前たちを絶対に守り抜く。
カルマナ。お前のその笑顔に報いるために。
そんな想いを胸に、橙色に輝く宝玉を握りしめヴァニラ遺跡を後にするのだった。
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