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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第13話 懺悔

 

 油断した。


 まさか攻撃を与えると強制的に分散される仕組みだったとは。


 こんな時に備えて予めそれぞれどこに割り振るか考えてはいたが、ランダムになることまでは予想していなかった。


 恐らく二人とも別の扉に転送されたはず。


 戦闘において不安が残るカルマナと、高いポテンシャルを持つとはいえ経験が浅過ぎるジュリエット。


 無事にギミックを解除できるといいが・・・。


 静まり返った石畳の通路を進んで行くと、円形に広がる場所に出た。


 中央に色褪せた大きな魔法陣が描かれている。


 前回この扉の攻略をした時、俺はロザリアの隣に立っていただけで、何か特別なことをする必要がなかった。


 気付いた時にはギミックを解除できていた。


 拍子抜けして、目を開けたロザリアの凛とした顔を半信半疑で眺めていたのを覚えている。


 それくらい地味で呆気なかった。


 ここは二人のどちらかに任せようと思ったのだが、よりによって俺が当たるとはくじ運が悪い。


 魔法陣の真ん中に立つ。


 ・・・何も起きないな。


 正式な巡礼者でなければ反応しないのか?


 いや、ヴァルムレイクの試練も受けることができた。問題無いはずだ。


 急に辺りが真っ暗になった。


 床の魔法陣も見えない。


 何かおかしい。


 こんなギミックだったか?


 すると、目の前にうっすらと何か映像のようなものが現れ、次第に鮮明に映し出されていく。


 その姿に心臓が激しく鼓動した。


 魔王・・・。


 光を宿さぬ赤き深淵の瞳。


 黒く禍々しく伸びる二本の鋭利な角と翼。


 忘れたくても忘れられない、際限なく溢れる怨恨の対象。


 体が熱い。


 沸き立つ憤怒の感情に抗うのに必死だ。


 だが、少し様子が変だ。


 魔王は俺を見ていないように見える。


 こいつは元々下等生物を見下すような、次元の違う生き物。


 そんな眼を向けられるのは至極当然と言えるが、どこか違和感がある。


『覚悟しなさい。あなたは私たちが倒す』


 透き通る声に後ろを振り向くと、ロザリアが仲間たちを従え魔王に剣を向けていた。


 その横には剣を携えた五体満足の俺の姿もある。


 どうして俺たちの姿が・・・。


 だが、この時のまとわりつくような湿った空気。匂い。抱いた感情はあの時と同じだ。


 それらの全てを鮮明に覚えている。



 ーーー最初の戦い。


『貴様らか。貴様ら凡俗な勇者はまるで懲りぬな。どれだけ足掻こうが貴様らの命は我の掌で弄ばれるのみ』


 魔王の妖艶に舌なめずりする姿に激しい嫌悪感が吹き出す。


「やめろ」


 想いに反するようにロザリアたちは魔王へ飛び込んでいく。


『後悔の海に沈むがいい』


 魔王の手から発せられた禍々しい衝撃波がロザリアたちを包み込んだ。


 突然、仲間が悲鳴を上げた。


 魔王の魔力に汚染されるように血管が膨張し、体が黒く変色していく。


 俺が仲間に向かい必死に何かを叫んでいる。


 乱れた連携の合間を縫うように、魔王の狂爪が錯乱状態のヴィオラに襲い掛かっていた。


「やめろ・・・」


 何も知らない五体満足の俺はヴィオラの元へ駆けていく。


 ヴィオラを襲っていたはずの魔王の姿が霧と消えた瞬間、魔王の爪に貫かれたロザリア。


 一心不乱で駆ける無防備な俺を庇うために盾となったのだ。


 胸から滴る血液が膝をつく俺の頬に伝う。


 そして、安心したように俺に微笑みかけたロザリアが無造作に地に伏した。


「やめろぉーーーー!!」


 ロザリアの冷たくなっていく体温、生々しい血の匂いが押し寄せる波のように呼び起される。


 どくん。どくん。どくん。どくん。どくん。


 心臓の音が内側で警報のように鳴り響く。


 飛び出そうなほど激しく鼓動する心臓を押さえつけるように胸をわし掴み、襲いかかる激しい頭痛に頭を抱えた。


 目の前が激しく揺れ、脚が震えだす。


 はぁっ はぁっ はぁっ・・・!


 ぼやける視界に映るロザリアに必死に手を伸ばしたその時、何事もなかったように情景が変わった。


 先程のように薄ら笑いを浮かべる魔王。


 そして、後ろから仲間を連れ魔王に剣を向けるロザリアたちの姿。


 横にいる俺の左目が白く変わり果てたものになっている。



 ーーーこれは、二回目の戦いだ・・・。


 魔王が攻撃を仕掛ける前に、『廻天(ループ)』により片目を失った俺が単身で飛び出していく。


 やめろ。


 それも無駄なんだ。


 その無謀な行動のせいでロザリアは・・・。


 固有スキルの副作用で能力値が倍増している俺の剣筋を難なく止める魔王。


『ほう』


 余裕に満ちた笑みを崩さぬまま軽々と上半身をカチ上げられ、大きくのけ反り胴体を晒す俺。


 その曝け出された腹を突こうと魔王の鋭い爪が襲い掛かった。


『カイン!!』


 ロザリアは魔王の攻撃を何とか弾き返し俺の前に立つ。


 ダメだロザリア!!


 来てしまったらお前がっ!!


『遅い』


 ロザリアが構えた時、魔王の爪はすでに彼女の腹を突き破っていた。


 聖剣グリムガウディがロザリアの手をするりと抜け、乾いた音を立てる。


「うわあぁぁぁーーー!!!」


 フラッシュバックした記憶が怒涛の勢いで俺の理性を飲み込んでいく。


 ロザリア! ロザリア! ロザリア・・・!!


 頭の中で、ただひたす名を叫び続けることしかできない。


 抱き上げられたロザリアの信じられないくらい穏やかな表情が、頭を抱える俺に追い打ちをかけた。


 もうやめてくれ!


 全て俺のせいなんだ!


 俺の選択ミスが全ての原因なんだ!!


 失ったはずの左半身がズキズキと痛む。


 何とか顔を上げると、再び魔王が立っていた。



 ーーー四回目の戦い。


 ロザリアは、魔王の放った押し潰すような巨大で禍々しい魔法をたった一人で受け止めた。


『皆んなは死なせない! 絶対に!!』


 やがて彼女は魔王の攻撃を防ぐことに力を使い果たし、膝をつく。


 俺に狙いを定め攻撃を仕掛ける魔王を止めるため、僅かに残った力を振り絞り魔王の前に立った。


 そして、力を使い果たしたその瞬間に心臓を貫かれた。


 あまりも美しい鮮血が、まるで時を止めたかのようにゆっくりと飛び散る。


 何だよ、それ・・・。


 何なんだ。


 これ以上、愛する人を失う瞬間なんて見たくないんだよ。


 ロザリアを失いたくない。


 死なせたくない。


 それだけだったんだ。


 頬を伝う涙に気付かぬまま、ただ無心で懺悔を繰り返す。


 すがるような想いも虚しく、再び目の前の光景が変わった。


 これまでで最も思い出したくない悲劇。



 ーーー三回目の戦い。俺にとって最悪の戦い・・・。


 もはや叫ぶこともできず放心状態でその場にくずおれた。


 憔悴しきった俺の心にとどめを刺すかのように、虚を見つめる先で、無慈悲に戦いが始まっていた。


 二回の失敗の経験から、魔王の攻撃に対しあらゆる対策を講じたことが吉となり、善戦することができた戦い。


 戦いは熾烈を極めるが、魔王の強力な魔力により胸の辺りに刻印を刻まれた俺の体は完全に制御を失った。


 それと同時に自我を失った。


 どれくらい意識を失っていたのか分からない。


 俺の手に温かいものが流れていることに気付いた時、ようやく意識を取り戻した。


 ゆっくりと顔を上げると、力無く、それでもなお慈愛に満ちた笑顔が向けられていた。


 頭が真っ白のままゆっくりと視線を落とした時、ようやく事態を理解した。


 俺の剣が、ロザリアの心臓を貫いていた。


 もう、だめだ・・・。


 そのままパタリと地面に倒れ込んだ。


 ロザリア。


 どうしてお前が勇者なんだ。


 お前が勇者でなければ、魔王に襲われる恐怖に怯えるこんな世界でも使命を負うことなく、俺たちは幸せに暮らせたはずだろ。


 お前を守るのが俺の役目だと思っていた。


 でも、どれだけ必死になってもお前が死ぬ結末は変えられなかった。


 お前の側に居る限り、この残酷な結果は変えることが出来ないと悟ったんだ。


 お前は優しい。


 お前が人を。仲間を蔑まれることが一番許せないことは分かっていた。


 だから、お前が最も傷つくような言い方で仲間を侮辱した。


 済まないロザリア。


 たとえ、大切な仲間に失望されても。


 心から愛するお前に嫌われても。


 どんな手を使ってでも、お前がいなくなってしまう未来を変えたかったんだ。


 でも、こんなことをしても無駄かもしれないな。


 放ったインビシブルが悲しい金属音を奏で地面を滑っていく。


 結局、あの時と同じなんだな。俺は・・・。


 地に伏した無惨なロザリアの姿に寄り添い手を伸ばす。


「何度も。何度もこんな目に合わせて、本当に済まない。ロザリア・・・」


 滲む視界の中、消えていくロザリアに伸ばした手は触れることはなかった。


 気付けば景色は変わり、目の前には小さな小屋が佇んでいた。


 導かれるように扉が開くと、真っ赤に染まる鉄の棒を必死に打つ子供と、それを優しく見守る男性の姿があった。


 あの頃の俺だ。


 鍛治士を目指し、剣を打つことに明けくれていた、あの頃の俺だ。


 いつの間にか辺りは真っ暗になると、今度はたった一人、壁に立てかけられた剣を悲しげに眺める俺の姿だけが映し出されていた。


 もう、この頃の記憶は曖昧だ。


 どうしてあんなに剣に惹かれ夢中になっていたのか。


 どうしてあんなに楽しかったのか。


 あの頃の記憶を思い出そうとするほど胸が締め付けられ、頭が痛くなる。


 擦り切れた心を鎮めるように目を閉じようとした時、うっすらと一筋の光が差し込み、インビシブルを照らした。


 光に包まれた白い手がそれを拾い上げた。


 ・・・誰だ。


 ゆっくり目を開くと、光に包まれた女性がインビシブルを抱き微笑んでいた。


 微笑みかけるその姿は女神そのもの。


 なんて、澄んだ瞳だろう。


『カインさんは決して独りじゃありません』


 カル、マナ・・・?


『貴方ならきっとやり遂げることができます』


 彼女は俺の手にそっとインビシブルを添える。


『貴方と私は運命共同体。貴方なら必ず願いを叶えられると、私は信じていますよ』


 添えられた手の温かさに身を委ねる。


 ああ・・・。


 いつの間にか忘れていた。


 誰かが居てくれるというのは、こんなにも心地よく、こんなにも勇気付けられるんだな。


 だんだんと清々しく、軽やかな気持ちになっていくのを感じる。


 肩の荷が降りていくのを感じる。


 まるで、ゆっくりと体を引き上げてもらっているみたいだ。


「ありがとう・・・。カルマナ」


 やっとの思いで絞り出した声でそう呟くと、涙で滲む瞳で静かに消えていく彼女を見送った。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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