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三本の聖剣と司教さま〜巡る勇者の宿命を超えて〜  作者: SSS


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第10話 魔銃士の剣技

 

 ジュリエットの振り下ろす聖剣が美しく弧を描く。


 早くキレのある剣捌きだ。


「どうした? その程度では一生当たらないぞ」

「やあっ!!」


 繰り出す流れるような連続攻撃にも無駄がない。


 ふむ。その辺の剣士よりよっぽど筋がいい。


「今のうちに謝罪し、罪を償うというなら許してやらなくもない」

「舐めるな! 私は負けない!」


 激しい言葉とは裏腹に、ジュリエットはゆっくりと構え直した。


 こいつ、意外と冷静だ。


 そして、明らかに雰囲気が変わった。


「『幻の風(ファントムブレス)』」


 ジュリエットの姿が一瞬にして消え去った。


 すぐさまリブラを使用するも、反応がない。


 俺の魔法探知にも引っかからないということは隠密系のスキルか、或いは特殊な条件を満たした固有スキルだな。


 剣を盗んだのもこの技か。


 ゆっくりと目を閉じる。


 微かにそよぐ風の音。水分を含んだ土の匂い。湿った空気。囁く虫の声。


 僅かな空気の振動に至るまで、細部にまで意識を集中させる。


 そして、背後に微量に漏れた少女の殺気を感じ取った。


 振り向きざまにインビシブルを振り上げる。


 キィン・・・!!


「きゃっ!?」


 乾いた金属音とともに、態勢を崩したジュリエットの姿が露わになった。


 体勢を整える暇も与えず少女の額に銃口を突きつける。


「お前に俺を倒すことはできない。諦めろ」

「・・・殺すなら殺しなさいよ」

「快楽殺人犯と一緒にするな。俺は剣を取り返せればそれでいい」

「あっそ。これは渡さないから」


 聖剣を大事そうに抱え込むジュリエット。


 これでも鍛治士と剣士をかじっているからな。


 その剣に拘るのも分からなくはない。


 だが、それはカルマナのものであって、お前のものではない。


「いい加減にしろ。俺はお前と違って暇じゃないんだ」


 一瞬芽生えた罪悪感に、思わず伸ばした手を引く。


 やれやれ。


「何か言うことがあるんじゃないのか?」

「ふん。ないわよそんなの」

「あのな。俺は・・・」


『シャアァァ!!』


 前方に黒い影を捉えた瞬間、ジュリエットを抱え飛び退いた。


 ギョロっとした目と涎の滴る長い舌に、異様に短い前足と大きく鋭い爪が伸びる後足。


 古代生物の生き残りケラトラプトル。


 広い草原地帯に生息し、気配を断ち標的を狩る姿から『草原の殺し屋』とも呼ばれる。


 油断した。


 擬態していたことに気付かなかったとは。


「俺としたことがお前に気を取られて魔物の気配に気付くのが遅れた。お前のスキルより有能かもな」

「わ、私だって本気を出したらもっと凄いもん!」

「そういうことにしておいてやる」

「信じてないわね?!」


 月明かりに照らされる中、周囲に注意を向ける。


 既に包囲されているな。


 薄っすらと見える奴らだけでも二十はいる。


 視認できるレベルでこの数ということは、擬態している個体も含めればもっといるだろう。


 どうやらこいつと問答している間に、いつの間にかケラトラプトルのナワバリに踏み込んでいたようだ。


 この数相手にインビシブルを使うのは少々面倒だな。


「おい。その剣を貸せ」

「いやよ。どうせ死ぬなら最後までお前に抗ってやる」


 その歳で死を覚悟する姿勢は立派だが、こいつは一つ大きな勘違いをしている。


「あのな。言っておくが、このままだと死ぬのはお前だけだぞ」

「えっ?! まさかこの数の魔物を相手に勝てるとでも言うの?!」

「この程度の状況は何度も経験している。こいつらはそこまで強敵でもないしな」


 義手のつまみを回し、動きを確認する。


「死にたくなければ早く剣をよこせ」

「わ、わかったわよ」


 渋々差し出すジュリエットから剣を受け取る。


 好奇心に駆られ、鞘から引き抜いてみると、美しい銀鏡面の刀身が俺の姿を映した。


 見事だ。


 一点の曇りもなく堂々としたその姿は敬意すら覚える。


 手に伝わる軽さからは想像もできないくらい重厚で力強く、気高さを兼ね備えた両刃の刀身は強い輝きを放っている。


 しかし、この感覚は一体・・・。


 どこか懐かしい感じがする。


 それに、心から湧き上がるこの高揚感は・・・。


「すごい・・・。私が抜こうとしても全然抜けなかったのに」


 鏡のような青白い輝きを放つ刀身は、ジュリエットの唖然とした顔をも写し出す。


 どうして俺に抜けたのかは分からない。


 だが、確信があった。


 それくらい剣を握った時の馴染み方が自然だった。


 まるで長年連れ添った相棒のように。


「お前たちに罪はないが、こちらも黙ってやられるわけにはいかないからな」


 大きな顎で喰らいかかるケラトラプトルに聖剣を一振りした瞬間、鱗に覆われた体を容易く真っ二つに両断し、虹色の血飛沫を上げた。


 間髪入れず大地を蹴り、三体のケラトラプトルの胸部を一気に串刺しにする。


 そのまま剣を薙ぎ払い、次々と襲いかかるケラトラプトルに刺した死骸をぶつけ吹き飛ばした。


 己の闘気を剣に凝縮させ、流れるように一閃。


 空気を引き裂くように発生した衝撃波が甲高い音を奏で、前方のケラトラプトルを斬り刻んでいく。


 残った数体が一斉に襲いかかる。


 聖剣を水平に構え、深く腰を落とす。


 纏った闘気は次第に赤みを帯びた風に変わっていく。


「『破滅へ誘う荒風(ロヴィナーレ)』」


 自身の周囲に発生した剣気の波が嵐となり、ケラトラプトルを空中へと舞い上げた。


 聖剣を薙ぎ払った瞬間、空の魔物たちの体は花火のように弾け、遥か遠くへ飛び散った。


 辺りが静寂に包まれる。


 気配は完全に消え、緊迫した空気が緩んでいく。


「危険は去ったようだな」


 全盛期と比べればかなり鈍っているが、とりあえずは良しとしておくか。


 いつの間にか意図せず鞘に収まっていた聖剣に目をやる。


 不思議だ。


 初めて使う剣のはずなのに、まるで自分の体の一部のように馴染んでいた。


 どうして俺に抜くことができたのだろう。


 もう一度引き抜こうと柄を抜くが、ピクリとも動かない。


 今は考えても仕方ないか。


 薄明の中、東の空はうっすらと光が差していた。


 もうこんな時間か。早く剣を返さないとまたあいつにネチネチ言われてしまう。


 だが、問題はジュリエットだ。


 本当に警護団に引き渡すか、それともカルマナの前で謝罪させるか。


 心の籠っていない謝罪など怒りが増すだけだ。


 いや、そもそもどうやって罪を認めさせるか・・・。


 そんなことを考えていると、ジュリエットは口を開けたまま立ち尽くしていた。


「何だその阿呆面は」


 応答がない。


 子供からしたら怖い体験だったのだろう。無理もない。


「カイン様! 私の師匠になって下さい!!」


 ・・・・・は?


 予想もしていなかった言葉に頭が真っ白になり、その場に立ち尽くしていた。

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