迫る刃、揺れる希望
リヤの胸には、久しぶりに希望の光が宿っていた。シェリダン夫人の協力を得て、反フレリック派の貴族たちが動き始めた。王宮の内外で密かに協力者を募り、母リュタチを救う計画が着々と進行していた。
その日の朝、リヤはルマンと共にシェリダン夫人の邸宅を訪れていた。
「リヤ様、手筈は整いました。処刑が行われる日、貴族たちの協力で王宮の衛兵を一時的に混乱させます。その間に王妃様を救い出しましょう」
シェリダン夫人の冷静な声が響く。リヤは胸の奥で高鳴る期待を抑えきれなかった。
「ありがとうございます、シェリダン伯母様……! お母さまを救うためなら、どんな危険でも乗り越えます」
ルマンがそのやり取りをじっと見守り、静かに口を開いた。
「リヤ、希望が見えてきた今こそ、慎重さが必要だ。フレリック第一王子が黙っているとは思えない」
「わかってる、ルマン。でも、私はもう何も失いたくない……」
リヤの言葉にルマンは小さく頷き、彼女の肩に手を置いた。その温かさが、彼女の焦る心をわずかに鎮めた。
その頃、王宮の一室ではフレリックが険しい表情で部下たちと話し合っていた。
「リュタチ王妃の処刑は、予定通り三日後だ。しかし、あの混血の娘が何かを企んでいると聞いている」
フレリックの声には冷酷な響きがあった。
「確かに、リヤ様が貴族たちと接触しているという情報がございます」
側近のグライヴァーが報告する。
フレリックは椅子に深く座り、しばらく考え込んだ。そして、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「ならば、処刑を前倒しにするしかない。奴らが動き出す前に、こちらが先手を打つ」
「処刑を早める……となると、準備が必要ですが?」
「構わない。民衆に見せつけるだけの見世物でいい。あとはお前たちがうまくやれ」
グライヴァーは頭を下げ、手配を始めるために部屋を出ていった。フレリックは自分の手の中で揺れる杯を見つめながら、冷たい笑みを浮かべ続けていた。
その夜、ルマンがリヤの部屋を訪れた。彼の表情は厳しく、普段の冷静さにわずかな焦りが見える。
「リヤ、問題が発生した。王妃様の処刑が明日朝に前倒しされると情報が入った」
リヤは驚愕の表情を浮かべ、その場で立ち上がった。
「明日……そんな、どうして!?」
「フレリック様の狙いだ。君が動いていることを知り、先手を打とうとしている」
リヤの耳が感情の高ぶりを示すようにピクピクと動き始めた。彼女は焦りと怒りに震え、部屋の中を行ったり来たりしながら声を荒げた。
「そんなの、あまりにも卑怯じゃない……私たちは、まだ準備が……!」
ルマンは彼女の肩を掴み、落ち着くように促した。
「リヤ、落ち着け。今は感情に飲まれる時ではない。計画を変更しなければならないが、まだ可能性はある」
「どうすればいいの、ルマン……?」
リヤの瞳には涙が浮かんでいたが、その奥には強い意志が宿っていた。ルマンは少しの間考え込んだ後、静かに答えた。
「処刑台の衛兵が手薄になる瞬間を狙う。その間に王妃様を救い出そう」
「でも、それだけで間に合うの……?」
「間に合わないなら、俺が時間を稼ぐ。それが俺の役目だ」
ルマンの冷静な声に、リヤは少しだけ気持ちを落ち着けた。彼女は深く息を吸い込み、涙を拭う。
「わかったわ……私は絶対にお母さまを助ける」
ルマンは彼女に微笑みを浮かべ、力強く頷いた。
翌朝、広場はすでに民衆で埋め尽くされていた。処刑台の上にはギロチンが据えられ、その周囲にフレリックの部下たちが配置されていた。
リヤとルマンは、密かに混乱を作り出すための準備を進めていた。シェリダン夫人の手配した協力者たちが衛兵たちの注意を引きつける間に、リヤとルマンが処刑台に向かう計画だった。
「リヤ、ここからが正念場だ。気を引き締めろ」
ルマンの声に、リヤは力強く頷いた。
「うん……私は絶対にやり遂げる」
だが、フレリックが動きを察知していることに、彼らはまだ気づいていなかった――。