その希望は幻想か、真実か
母リュタチがギロチンにかけられる日が刻一刻と迫る中、リヤは焦燥感に駆られていた。彼女は王宮内の冷たい視線や陰口をものともせず、必死に動き続けていた。
ルマンがリヤを落ち着かせるために手を差し伸べるたび、彼女はその手を振り払った。
「私はもう待てないの、ルマン、お母さまを救うには、何かを変えなきゃならない」
その言葉に、ルマンは深紅の瞳を鋭く細めた。
「分かっている だが、焦りがすべてを壊すこともある 冷静に考えるべきだ」
「冷静なんて言っていられない……お母さまの命はあと数日しかないのよ!」
リヤの声が震えるたび、彼女の耳が現れ、感情を剥き出しにする。ルマンはリヤをじっと見つめながら、低く落ち着いた声で語りかけた。
「だからこそ、俺たちは一緒に進むべきだ 一人で突き進むのは、危険すぎる」
リヤはその言葉に一瞬黙ったが、強く頷いた。
「分かったわ、ルマン……でも、どうすればいいの?」
その夜、ルマンとリヤは密かに味方を探し始めた。王宮内には、フレリックの専横に不満を抱く貴族たちが少なからず存在していることをルマンが把握していたからだ。まず向かったのは、リヤの幼少期から遠い親戚筋に当たる侯爵夫人シェリダンだった。
「リヤ様、こんな時間にどうしたのかしら?」
豪奢な衣装をまとったシェリダン夫人が、薄暗い書斎で迎え入れた。彼女は見た目には穏やかで柔らかい微笑みを浮かべていたが、その瞳には計算の光が宿っている。
「シェリダン伯母様、お願いがあります 母さまを助けたいんです」
リヤの言葉は真剣だった。その耳が少し揺れるたびに彼女の切実さが伝わる。
「リュタチ様を……」
シェリダン夫人は一瞬考える素振りを見せたが、静かに口を開いた。
「フレリック様の怒りを買う覚悟があるのであれば、私の力を貸しましょう」
「本当ですか!」
リヤの目に希望の光が宿る。彼女の耳が跳ねるように動いた。
「ただし、条件があります」
その言葉に、リヤは少しだけ身構えた。
「条件……ですか?」
「あなたが母君を助けた後、次期女王としてこの国を治める覚悟を持ちなさい そうすることで私たちも支える理由が生まれる」
「次期女王……」
その言葉にリヤは一瞬たじろいだが、すぐに頷いた。
「分かりました 私は必ず、この国を変えます」
シェリダン夫人の薄い微笑みは消え、真剣な表情に変わった。
「それなら、力を貸しましょう まずは他の貴族たちにも声をかけるわ」
翌日、リヤとルマンは次々と他の貴族を訪ねた。シェリダン夫人の影響力は大きく、数名の貴族が母リュタチの救出に協力する意志を示した。彼らは密かにフレリックに反発を抱いていたが、これまで行動に移すきっかけをつかめずにいたのだ。
「リヤ様、この件が成功すれば、フレリック様の権威にも傷がつきます 我々もそれを望んでおります」
反フレリック派の貴族の一人が低く囁いた。
その夜、リヤは久しぶりに心に灯がともった感覚を覚えた。母を救うための道が、少しずつ見えてきたのだ。
「ルマン、これで母さまを助けることができるかもしれない……!」
「希望は確かにある だが、最後まで油断するな」
ルマンの冷静な声にリヤは深く頷いた。
しかし、その希望の裏では、フレリックもまた動きを見せていた。
「王妃救出の噂があると?」
フレリックは側近グライヴァーの報告に眉をひそめた。
「はい、リヤ様が反フレリック派の貴族たちと接触しているようです」
グライヴァーの冷たい声が響く。
「面白い。では、その希望を叩き潰してやるとしよう」
フレリックの唇に冷たい笑みが浮かんだ。
彼はすでに次の手を考えていた。それは、リュタチの処刑を早める計画だった。