表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/66

王宮に潜む罠

夜明け前の王宮は静寂に包まれていたが、陰謀の気配がその静けさを覆っていた。母リュタチの処刑を阻止できる望みは、日に日に薄れていた。リヤは昨夜、母との面会を果たし、彼女の言葉に深く胸を打たれたものの、どうすればよいのか答えが見つからずにいた。


王宮の廊下を歩きながら、リヤはぎゅっと拳を握りしめた。その耳は感情の高ぶりを示すようにふわりと揺れ、彼女の心の中に渦巻く怒りと悲しみを映し出していた。


「お母さまを守る方法を見つけなければ……」


そう自分に言い聞かせながら、リヤは王宮の図書室へ向かった。そこは普段、人が少ない隠れ家のような場所だった。膨大な書物の中に、母を助けるためのヒントが隠されているかもしれないと信じていた。


図書室の奥で本を漁るリヤの背後から、低い声が響いた。


「またそんなところにいたのか、リヤ」


振り返ると、ルマンが扉の前に立っていた。彼は冷静な目でリヤを見つめ、その表情には憂いが滲んでいる。


「ルマン……来てくれたの?」


リヤは微かにほっとしたように息をついた。


「君が昨夜から考え込んでいるのは分かっていた。だが、そんなに焦るな。君が一人で抱える必要はない」


ルマンの言葉は穏やかでありながら、確固たる信念を感じさせるものだった。しかしリヤは目を伏せ、小さく首を振る。


「でも、私が何もしなければお母さまが……」


「君の気持ちは理解している。ただ、焦りは判断を誤らせるだけだ。今はまず、自分ができることを冷静に考えろ」


リヤは少しの間、彼の言葉を飲み込みながら黙った。しかし、その静けさを破るように図書室の扉が乱暴に開かれた。


「おや、こんなところにいたとは」


銀髪の王子ソメイルが現れ、その銀色の瞳を輝かせながら二人を見た。


「ソメイル様……」


リヤが驚いて口を開くと、ソメイルは微笑みながら近づいてきた。


「探したぞ、リヤ。君がこうして黙っていると、私まで心配になる」


「ご心配には及びません。ただ少し……考え事をしていただけです」


リヤが控えめに答えると、ソメイルは頷きながら図書室の大きな窓に目を向けた。


「だが、君が王宮の中で悩んでいると知ると、私としては見過ごせないな。もし助けが必要なら、遠慮なく言ってくれ。アンゲナ南帝国の王子として、君を守る義務がある」


その言葉に、リヤは困惑したように顔を上げた。


「ソメイル様、私は……」

「いや、いいんだ」


ソメイルはリヤの言葉を遮り、優しい声で続けた。


「君は孤独を感じる必要はない。君のような美しい存在は、常に守られるべきだ。もし私と共にアンゲナ南帝国へ来るというなら、君にふさわしい地位を与えよう」


その提案は、一見優しさに満ちたものだったが、リヤの心には別の感情を呼び起こした。


「ソメイル様、それは私にとっての幸せではありません」


リヤの声は静かだったが、そこには明確な拒絶が込められていた。


「私は誰かに守られるだけの存在でいたくない。この国を変えるために、私は自分で歩みたいんです」


その言葉に、ソメイルの微笑みがわずかに曇った。彼はリヤの意志の強さに戸惑いを隠せなかった。


「そうか……君は本当に特別な存在だな」


ソメイルは静かにそう言うと、少し寂しげな表情で目を伏せた。


その夜、リヤはルマンと共に廊下を歩いていた。母リュタチの牢獄を守る衛兵が増えているという噂を耳にし、不安を抱えていた。


「ルマン、私はやっぱり何かしなければ……」

「リヤ、冷静になれ」


ルマンは低い声で言い、彼女の手を軽く握った。その手の温かさに、リヤは少しだけ心が落ち着いた。


「君の気持ちはよく分かる。ただ、この状況で無茶をしても、王妃様のためにはならない」

「でも……」


その時、遠くから誰かの足音が響いた。二人は咄嗟に物陰に隠れる。現れたのはフレリックとその側近グライヴァーだった。


「王妃の処刑を早める準備を進めるように」


フレリックの冷たい声が廊下に響いた。


「予定より早く……ですか?」


グライヴァーが驚いた様子で尋ねる。


「そうだ。噂が広がる前に片付けるべきだ。これ以上、王宮の秩序を乱されるわけにはいかない」


その言葉に、リヤは心臓が凍りつくような感覚を覚えた。母の命が、急速に追い詰められていく。


物陰から顔を出したリヤの瞳には、決意が強く宿っていた。


「ルマン、私は……絶対にお母さまを助ける」

「リヤ……」


ルマンはリヤの手を握り返し、その瞳を見つめた。


「君が進む道を俺が支える。ただ、冷静に計画を立てよう」


彼の言葉に、リヤは小さく頷いた。怒りと悲しみを胸に秘めながらも、彼女の瞳には強い光が宿り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ