光のよすが
翌朝、リヤたちは作業を分担することを決めた。
「俺たちは森へ行って汚染源を取り除く。水質の改善には時間がかかるだろうが、やるしかない」
ルマンが力強く言った。
「私は街に残るわ」
リヤは穏やかだが揺るぎない声で答えた。
「市民たちに安全な水源を伝えて避難を促す。それと同時に、病気の拡大を防ぐための治療法を考えるわ」
「一人で大丈夫か?」
キーノが心配そうに耳を動かしながら尋ねる。
リヤは微笑んで答えた。
「ありがとう。でも、私の唯一の取り柄は王女という役割だけだから。究極、王女の権限で無理やり非難させるわ!」
ルマンは彼女をじっと見つめ、短く頷いた。
「無理をするな、リヤ。俺たちも必ず成功させる」
ルマンとキーノは、鳥の死骸が散らばる池で作業を始めた。防護用の布を巻いた手で、一羽一羽慎重に袋へ詰めていく。
「これじゃ終わりが見えないな……」
ルマンが額の汗をぬぐいながら呟いた。
「それでもやるしかない。誰かがやらなければ、この街は終わる」
キーノは鋭い眼差しを水面に向けた。
「だが、二人だけじゃ時間がかかりすぎる……」
その時、茂みの奥から複数の足音が近づいてきた。驚いて振り返ると、若い獣人族たちが数十人、工具や袋を手に現れた。
「キーノ! 助けに来たぞ!」
先頭の青年が元気よく声を上げた。
「お前たち……」
キーノは一瞬驚き、次に嬉しそうに笑った。
「こんな危険な仕事に手を貸すなんて、無茶な奴らだな」
「俺たちは信じてるんだよ、キーノ。お前が信じる王女様とやらの力をな!」
青年がそう言って笑うと、周りの若者たちも一斉に作業を始めた。
「ルマン殿、あなたたちに任せきりにはできません。我々にも力を使わせてください」
一人がルマンにそう言い、手際よく作業を進めていく。
ルマンは静かに頷き、短く感謝を伝えた。
「助かる。共にやり遂げよう」
こうして、鳥の死骸の処分作業はスムーズに進み始めた。次第に水質改善のための簡易ろ過装置も設置され、獣人族の知恵と力が発揮されていく。
一方、リヤは街の広場で市民たちを前にして頭を下げていた。
「この病気を防ぐため、どうか安全な水源へ避難してください。獣人族と協力して、必ず解決策を見つけます。そして病気の人たちは私用意した隔離部屋へ!」
リヤの声は強い意志に満ちていたが、冷たい視線を向ける人々。
「また混血の王女の気まぐれか?」
「獣人族なんて信用できない! あいつらがこの疫病を持ち込んだんじゃないのか?」
罵声が飛び交う中、リヤは耳を小さく震わせたが、顔を上げて毅然とした態度を崩さなかった。
「どうか信じてください。私は皆さんを救いたい。それだけの気持ちなんです」
リヤが深く頭を下げたその瞬間、一人の女性が前に進み出た。
「この方のおかげで、うちの息子が助かったんです!」
涙ながらに声を上げたその女性の言葉に、人々の視線が集まる。
「彼女たちが用意したお薬がなければ、私の子はもうこの世にいなかった……どうか、この方たちを信じてください!」
リヤは驚きながら女性に微笑み、再び頭を下げた。
「ありがとうございます。その信頼を決して裏切りません」
広場にざわつきが生まれ、一部の人々がリヤの言葉に耳を傾け始めた。その様子を見て、リヤの耳が微かに動いた。
日が沈む頃、森での作業を終えた獣人族たちが街へ戻ってきた。
「リヤ王女!」
先頭を歩くキーノが声を上げた。
「キーノ、ルマン……!」
リヤは駆け寄り、彼らを迎えた。
そして、リヤは二人だけではないことに気づき、駆けよる足を止めた。
「鳥の死骸はすべて処分した。ろ過装置も設置したから、水質は徐々に回復するはずだ」
ルマンが短く報告する。
その背後では、若い獣人族たちが疲れた顔で笑いながらリヤを見つめていた。
「王女様、少しは役に立てましたかね?」
一人が冗談めかして言うと、リヤは驚きと感謝で胸がいっぱいになった。
一人でもいい。ひとりぼっちでもいい。
そう思っていたけれど、どれほど、誰かに理解してほしいとも思っていた。
誰か私の声を聞いて、と。
「みんな、本当にありがとう……!」
リヤの耳が感動で大きく揺れ、涙がこぼれそうになるのを必死に堪えながら深々と頭を下げた。
「あなたたちの力があったからこそ、ここまで来られました。感謝してもしきれません」